良書カタログ『私が目覚める、読書案内。』
雑誌のブックガイド特集は、わりと期待している。というのも、編集者のアンテナがそのまんま選書のフィルタになっているから。雑誌の「色」に合わせてはいるけれど、読書癖のようなものが透け見えて愉しい。
その意味で『フィガロジャポン』の本の特集はツボになる。文学や詩集、アート、哲学、絵本、食といったテーマから、定番を少しズラした、隠れた傑作ばかりを集めており、カタログ感覚でつきあえる。書影と惹句とレイアウトが絶妙で、短めで食い足りない紹介文は、読者が手にとって確かめるべし、と言っているかのよう。
例えば、ガルシア=マルケスなら『百年の孤独』と思いきや、『エレンディラ』が紹介される。いずれも神話的な語り口で紡がれるマジック・リアリズムに満ちた作品だが、「ガルシア=マルケス入門として」最適なのかも(短篇集だし)。
また、須賀敦子『遠い朝の本たち』については、「ここに挙がっている本を一冊も読んだことがなくても、またこの先も読む見込みもなくても、本書を読んだ記憶は長く残るでしょう」という魅力的な誘い方をしている。本(の中身)の記憶ではなく、その本を読んだときの、自分との結びつきの思い出を語りかけてくる。
同じ"オススメする側"としても参考になる殺し文句が随所にあり、思わず使ってみたくなる。ド定番のカフカ『変身』を、「ザムザを情けない青年として訳す池内訳を読むと、こんなに笑えて無惨な話だったのかと目からウロコ」と言われると、ぜひ白水uブックスの池内紀訳で読みたくなる。
ずっと積読リストに入りっぱなしのユルスナール『ハドリアヌス帝の回想』は、「死の床にある『わたし』の回想から無彩色の題名からは想像もできない内面のプリズム」と評する。どんな色彩を感じられるか、いっそう楽しみになる。
他にも、三島由紀夫は『反貞女大学』、澁澤龍彦の『ホラー・ドラコニア 少女小説集成』といった"狙った"選書から、レム『ソラリス』やソンタグ『他者の苦痛へのまなざし』などの直球まで、「わたしの趣味」に沿ったバラエティ豊かなラインナップも面白い。
未知なる世界へのパスポートとして、人生の相談役として、良書ばかりがセレクトされた一冊。
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