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数学は美しいか『考える人 2013年 8月号』

考える人201308 「数学は美しいか」、この挑発的な惹句に反応して、一読おどろく。

 もちろん数学は美しい。だが、どのようにその美を伝えるか、そもそもなぜ美しいと感じるのか、考え出すと楽しいけれど果てがない。こちらの悩ましさを見越したかのような、数学の美が展開される。

 まず、巻頭グラビアでは、数学的形体(Mathmatical Form)が出てくる。ディニ曲線という、擬球をねじって得られる負の定曲率面の立体だ。極めて抽象度の高い、頭の中だけでしか成り立たない存在が、触れられるモノとして示される。この奇妙さに、美を感じるよりも先に現実感覚を失ってしまいそうだ。

 また、一枚の紙から折りだされた「らせん」は、美しいというよりも不思議な気持ちになる。東大折紙サークルorist部員の指先から折り出された、"肉体化された数学"は、無限を孕んでいる。有限の一枚紙から無限が構成されるなんて、矛盾そのものを見せつけられているようだ。

 さらに、「東大の数学入試問題は美しい」というテーマで、"易しい難問"が紹介されている。受験数学の技術的な知識をほとんど必要とせず、視覚で把えられない数学の美を感じられる問題だ。たとえばこれ。

Photo

 前半は分かったけれど、後半が解けない。難しいというよりも、とっかかりがないのだ(強引に計算する、というのを除いて)。解をみると、解法そのものがエレガントなり。

与えられた整数の問題を正式の問題にすり替えることによって本質の洞察が容易になることが面白い。整数と整式の間に存在する構造的一致(同型性)がこの洞察の理論的根拠である。

 上記だけ読むと、何のことやら分からないかもしれないが、"解ける人"(⊇解法を見た人)には、整式の対応性のロジックが心地よく感じられることだろう。美はヴィジュアルに依拠しがちだが、この美しさは、たしかにロゴスに宿る。

 好事家には、「とっておきのマイベスト数式」が響くに違いない。円城塔や野崎昭弘、竹内薫といった匠たちが、世界一美しいと思う数式・証明を紹介してくれる。誰が何をお気に入りかを知るのは、それぞれの性格(や趣味)が如実に顕れ興味深い。まさに、「美は、愛する者の目の中にある」の通り。

  • 円城塔:オイラー積表示
  • 野崎昭弘:コーシーの積分定理
  • 竹内薫:カントールの対角線論法
  • 志村忠夫:質量とエネルギーの等価性およびその関係式(E=mc^2)
  • 角大輝:縮小写像の原理
  • 加藤文元:オイラーの計算
  • 三宅陽一郎:縮小作用の原理
 他にも、数学の愉悦を味わうための「現代数学マップ」や、数学で証明する「カジノ資本主義の破綻」、円城塔インタビュー「数学者は孤独ではない」、「発見と難問の森に遊ぶブックガイド」など、多角的に数学の美しさに迫っている。目を惹いたのは、『数学の認知科学』(レイコフ、丸善出版)。数学が人間の営みである以上、そこには人間の脳と心の仕組みに基づいている(はず)。この発想から見なおすことで、数学は果たして人間の外に存在するのか否かという問題にまで発展する論文だという。

 「数学は美しいか」、この挑発的な惹句に対し、自分なりの答えを準備してぶつけるもよし、ここに出てくる人々の答えに感応するのもよし。

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