好きな本を持ち寄って、まったりアツく語り合うスゴ本オフ。今回は東洋大学の教室をお借りして「学校」をテーマにした作品をオススメしあう。
面白いなーと思ったのは、いろいろな「学校」があること。学校を舞台にした物語だったり、学校の課題図書で読んだことがあったり、人それぞれ。「学校といえばコレでしょ」と皆さんの頭にある“学校”に、それぞれの思い出や希望や毒が、正直に反映される。人によって「ど真ん中」「直球」「弩メジャー」の本が違う。これは、いかに学校が多様かを物語っている。
まずは「ど定番」といいつつも多種多様の「学校」から。
灰谷健次郎『兎の眼』。新卒の女教師と、心を開かない少年の話。少年は蝿にだけ心を許す。なぜ蝿か?貧乏で、近所にゴミ処理場しかない家庭で、蝿しか飼えないから。これが物語後半になって花開く。わたしも読んだことがあるが、少年に寄り添っていた。これが大人の、親の視線からするとまた別。「子どもが好きだというのは、必ず好きな理由がある。何であれ、それを丸ごと受け入れる」という惹句は激しく同意。読み直したくなる。
湊かなえ『告白』は、二人の方が強力にプッシュ。「学校が舞台」の、非常に胸クソ悪い小説らしい……にも関わらず、ラストが素晴らしいらしい。嫁さん曰く「すぐ分かるから読まなくても良い」とのことなので、敬遠していたが、そんなに凄いなら手にしてみようか……
ど直球の、朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』はタイトルからして良い。このタイトルからいくらでも話が膨らむ膨らむ。ちょいネタバレ(?)なのだが、想像を裏切って「桐島」くんは出てきません。桐島くんを巡る、シビアなスクールカーストの話。教室に入った瞬間からそういう上下が分かるらしい。映画の出来がものすごくいいらしく、原作を越えてたんだって。映画から入ろうか……
恩田陸は「学園モノ」の定番やね。『夜のピクニック』は、互いの表情が見えない夜の遠足と、すれ違う秘めた思いと、小さな奇蹟がまぶしい、ときめく、胸に迫るという、変化球なのに王道の逸品。地方の高校の奇妙な“ゲーム”をミステリアスに描いた『六番目の小夜子』とともに、あり得なかった高校時代を懐かしむべし。
次は、ノスタルジーをかき立てる作品。スゴ本オフには、学生さんもいれば大学講師の方もいるが、ほとんどは学校とは「思い出」の中のもの。
一種の「王道」は、筒井康隆『時をかける少女』。時間と記憶とラベンダーをめぐる奇妙な事件。思春期のときめきやらせつなさを思い出す。読み直してビックリするのは、あまりにも「短い」ことらしい。映画やドラマになっているから、とても2時間持たないと思わせるという。実際にアニメと比較すると、「盛ってる」んだって。盛り込みがいがある、胸キュンストーリー……ちょっとおじさん読み直してくる!眉村卓『ねらわれた学園』、赤川次郎『セーラー服と機関銃』と一緒に甘酸っぱくなってくる。このノリだと、あだち充『タッチ』『みゆき』が出てくるね。
松苗あけみ『純情クレイジーフルーツ』は、女子校時代に文字通り貪るように読みふけった作品とのこと。女子校が舞台のコミックで、まさに王道の少女漫画。書き文字の感じとかコマ割がいかにも懐かしい。発表年は、1982年!当時の女子高生の生活や感性はそのまんまで、ちょっと近寄りがたい魑魅魍魎的なところは今と一緒(?)。
二ノ宮知子『のだめカンタービレ』に出てくる音大の生態は、100%あのまんまらしい。音大出身者が断言しているから間違いない。いわゆる「音大ある」のリアル。あの強烈な、コンプレックスの塊で、でしゃばりで、こだわり強すぎで、むさいキャラクターが本当にいるとは……一方パリ編は想像で描いているんだって。
ラノベやコミック、ゲームは「学校」との親和性が高いので、オススメ作品もいくつか。
竜虎相食む恋と戦いの超弩級ラブコメなのが竹宮ゆゆこ『とらドラ!』。この第一巻が黄金で、これを超えるラノベがあれば教えて欲しい。もちろん沢山オススメがあるだろうが、『とらドラ!』の第一巻を基準値にしたいね───というぐらいの体を抱いて転げ回るくらい嬉し恥ずかし懐かしいラノベ。
フォーマットに則った、由緒正しく下品なラノベが白鳥士郎『のうりん』らしい。「ガイアが俺にもっと耕せと囁く」と、農業を見る眼を変えてくれる。農業テーマのラノベ。30年有機栽培やっている叔父さんに、「30年もやって凄いですね」というと「まだ30回しかやってません」と返してくる。荒川弘『銀の匙』やTAGRO『変ゼミ』、佐野菜見『坂本ですが』も強力にプッシュされる。『坂本ですが』はラストのブックシャッフル(本の交換会)でゲットして読んだが、確かに「水戸黄門+食パンマン」→「イケメン+真面目」を突き詰めた滑稽さなり。オススメ漫画こと推す漫さん(@osu_man )さんが、ツボに入る本をオススメしてくれる。ブクログは[ココ] 。
PSPの『ダンガンロンパ』は、言葉で相手をやっつける快楽をとトコトン味わえるゲームなり。言葉尻を捕えてやり込める。レトリックを弄して丸め込む。論理矛盾を突く。感情を込めた表現による人格批判―――リアルでは封印している言論術を駆使して、「学級裁判」を勝ち抜くのは痛快だ。一方で、「学校」や「クラスメイトで殺し合い」という設定が様々なメタファーを含んでおり、いかようにも深く読める。
学校とは学ぶところ。「学問」という切口で出てくる本もあった。芳沢光雄『高校数学の教科書』は、やりなおし数学としての好著だし、リチャード・ファインマン『ご冗談でしょう、ファインマンさん』は「科学的な良心」を訴えかけてくる。あるいは、『老子』とは、2300年前のバカボンのパパなのだ。人生に勝っているとき(上り調子のとき)は『孔子』が良く、人生に負けているとき(うまくいっていないとき)は、『老子』を読めなんだって。学問から生き方へシームレスにつながる。
「これが“学校”?」と異色ながら、話を聞くと腑に落ちまくる変化球もあり。
最初は過酷なブートキャンプ、後半は士官養成学校でのエリート教育となるハインライン『宇宙の戦士』は、実はバリバリ「学校」の話。ガンダムの元ネタとしても有名で、ガンキャノンにしか見えない口絵の版があるらしい。映画化された『スターシップ・トゥルーパーズ』はアーマーもないし、別物として見た方が良いんだって。
そして、最初は異色中の異色だと思っていたにもかかわらず、話を聞くにつれこれぞ「学校」!と思ったのが、「ももいろクローバーZ」という現象。ももクロが活動開始をしたのは、2008年、最年少は中学2年、最年長も高校1年で、いつもは学校に通って、「週末だけヒロイン」するのが最初のコンセプトだったとのこと。
マネージャーがプロレスマニアなので、「プロレスの文法」をアイドル育成に突っ込んだのが、「ももいろクローバーZ」なんだって。その生長のドラマそのものが、「学校」になる。人生の応援歌を歌っているけれど、あれは、自分たちを歌い上げているという指摘に目ウロコ。『BATTLE AND ROMANCE』は、震災直後のニッポンに対する応援歌だ、ラストの曲の終盤の歌詞でそれがわかるんだって。
そんな「ももクロ」について、少し恥ずかしそうに、でもアツく語りかけるオッサンを見て、「これはプリキュアへの愛を暑苦しく語る私自身と一緒だ!」と感じる。エエトシこいたオッサンが狂うには恥ずかしく、でも熱く語りたく、それでいてカミングアウトしづらいところなんて、プリキュアだ。わたしの中で、「ももクロ=プリキュア」説が芽生えた瞬間であった。
VIDEO
宮沢章夫『14歳の国』:戯曲。14歳、中学校を舞台にした話。体育の時間、生徒がいなくなった教室で、先生が持ち物検査をやろう、と突発的に思いつく話。前半は、何も見つからなくてがっかりするが、後半はざくざく「モノ」が見つかる。その見つかったモノにまつわり、誰がどんなモノをもっていたかがストーリーの肝。ラストに「上演の手引き」があるらしい。エッセイの面白さが存分に出ている。高校演劇実践作戦。高校の演劇には「作戦」が必要らしい。
長崎源之助『東京からきた女の子』:小学生の課題図書とのこと。ぶっ飛んでて、とんがっている、東京から転校して女の子の話。結局東京へ戻ってしまうのだが、後になって、彼女の話に色々と嘘が入っていたことが分かる。
『月下の一群』吉野朔実。のちに『少年を荒野をめざす』などを描く筆者だけど、これはド少女漫画。女子大生の生活描いた作品で、女子高生時代に読んで、女子大生の華麗なファッションに憧れた。でもヒロインが付き合う相手は建築学科でコ汚いカッコをしている。
堀越正美『スーパーサイエンス ハイスクール講義』:高校生向け。古今東西の自然科学者の偉業とエピソードを紹介しているらしい。「高校の時にすべきこと」の章を読むと、大人になった今の学び直しに役立つ。
西原理恵子『はれた日は学校をやすんで』:某中学校の課題図書らしい。学校を「やすむ」ことを学校で紹介するのは、おもしろい。学校時代の思い出を刺激するいい本。
伊集院静『機関車先生』:しゃべることができない先生の話。大人の価値観を押しつけすぎると、子どもは歪む。これを教えてくれた、自分の人生を変えた本。
ヤマシタトモコ『ひばりの朝』は女性向けだけど、男性もハマれるエグい漫画。中学生の女の子は、中学生らしくない体つきをしていて、それで思い悩む話。人を「誘う」ような目つきをしているらしい。虐待を受けている噂もあるが、「あたしがわるいんです」と自己決着をつける。
とよ田みのる『友達100人できるかな』:文字通り友達を100人つくる話。宇宙人から「愛の存在を証明せよ」と強要された先生の話。そのためにタイムスリップして、友達を100人作る。アフタヌーン連載(現在は完結)。 「結局、100人友達ができたの?」というツッコミには、「一応」とのこと。裏技的な友達の作り方?宇宙人に「愛」を理解させるのはできるのか!?
オースン・スコット・カード『エンダーのゲーム』:持ってこれなかったけれど、ぜひ紹介したかった。バリバリSFの士官養成学校の話。私も探したんだけれど、軒並み絶賛売り切れ中。大人に搾取されて酷使される子ども達、『エンダー』の三部作はかなり涙ものらしい。
辺見じゅん『収容所から来た遺書』の紹介。過酷な強制労働の話。軍人もいれば一般人もいる。収容所なのに身分の上下により労働内容も違うみたい。シビアな状況でも俳句を作ったりする。
米原万里『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』は面白いよー。プラハのソビエト学校に通っていた米原さんのエッセイ。学校で知り合った三人の友人の話。学校というユートピアに現れる社会の真実(というか嘘)と折り合ってゆく少女たちの話。
浦沢直樹『MASTER KEATON完全版』:2巻に収録されている「屋根の下のパリ」。図書館のエピソード。主人公キートンの学生時代の回想。戦争の中、爆撃を受けた直後に「あと15分ある」と講義を続ける恩師。勉強ってどこでもできるんだ、と知った。
河合雅雄『少年動物誌』:動物学者の少年時代の話。子どもが大きく育つときには、小さな「異年齢の」小集団が必要なんだという。映画化されたタイトルが「森の学校」という。丹波篠山で育つ少年達の話。
木原敏江『摩利と新吾』:明治時代の旧制高校を舞台にしたコメディ漫画。BLの元祖的作品なのだが、長髪をなびかせ睫毛バサバサの旧制高校生なんて完璧にフィクションの存在なのだが、敢えてありえない設定したことで、男の子たちのロマンや友情や恋愛がリアルに迫る。
吉田秋生『櫻の園』もオススメだし、スージー・ベッカー『大事なことはみーんな猫に教わった』、号泣モノのヴィッキー・マイロン『図書館ねこデューイ』、意外と大穴だった学校の本である、ローリング『ハリーポッター』、中二病をこじらせたとしか読めない夏目漱石『坊ちゃん』や、澤井健『イオナ』の物語構造そっくりな松井優征『暗殺教室』、実は鉄板中の鉄板な、クラインバウム『いまを生きる』などキリがないくらい出てくる出てくる。
場所が教室だから、発表者は教壇に立つから先生気分を味わえるし、当然アルコール厳禁だから“初の”ノンアルコール・スゴ本オフだったし、書画カメラのおかげでスクリーンに映した漫画をみんなで「共読」できるし、ずっとこもっていたい素晴らしい図書館巡りツアーだったし、500円で腹一杯の学食でお昼できたし、初ものづくしのスゴい場でしたな。Fさん、ありがとうございました。
次回は8/4、「山」をテーマに渋谷のモンベルさんでやりまする。ほとんど枠が埋まってしまっているけれど、以下で募集(してるはず)。このblogでの告知よりも、facebook「スゴ本オフ(Book Talk Cafe)」をチェックするほうが情報早いかも。
facebookアカウント持ってる人→スゴ本オフ「山」 から、
匿名で申し込みたいという方は→ATND からどうぞ
どちらか一方からどうぞ。
最近のコメント