論破の快感『ダンガンロンパ』
言葉尻を捕えてやり込める。レトリックを弄して丸め込む。論理矛盾を突く。感情を込めた表現による人格批判―――リアルでは封印している言論術を駆使して、「学級裁判」を勝ち抜くPSPのゲーム。『ダンガンロンパ』は快感論破なり。
家でも会社でも、「相手を論破する」ことに注力すると、必ずしこりが残る。会議の議論であれ、夫婦の会話であれ、ゴールは「正しさ」ではなく、「妥当さ」。だから、論破は御法度になる。「真実はいつも一つ」だが、解釈は無数。痛い思いをくり返し、口チャックができるようになった。これがオトナになること。
しかし、このゲームではコドモになる。主張の弱点に狙いを定め、矛盾点を「発射」する。相手の詭弁テクニック「早まった一般化」や「類推のミスリード」の、まさに要(かなめ)の言葉を粉砕する。カ・イ・カ・ン。
さらに、「悪魔の証明」が突きつけられたら、「動かぬ証拠」をカウンター。逆ギレしてマシンガントークになると、こっちもテンポにあわせて撃ち返す。口喧嘩シミュレーションやね。タイミングと紋切言葉、口喧嘩は音ゲーそのもの。議論の負けは、即処刑なので、ヒリヒリする緊張感と、ワクドキする多幸感に追いかけられるようにプレイする。
監禁された学園内で、次々と起こる殺人事件。主人公は話を聞いてまわり、証拠を集め、「学級裁判」で犯人をあぶりだす。捜査+推理+裁判がリアルタイムで進み、「ハイスピード推理アクション」という謳い文句に偽りなし。
ただし、トリックは古典的だし謎解きはありがち。捜査開始の段階で犯人の目星はつくし、事件の黒幕であるモノクマ(声:大山のぶ代)の正体も早い段階で見えてた。だが、面白いのはここから。犯人が分かったからといって終わりではない。それを「学級裁判」で皆に納得させなければならない。これが難しい&面白い。犯人のみならず、他のクラスメイトとの駆引・撹乱・言訳が入り混じり、議論がトンでもない方向へ転がってゆく。その“場のゆらぎ”にキリキリさせられる。
そして、何よりもストーリーが素晴らしい。「生徒で殺し合いをさせる」なんて、まんま『バトルロワイヤル』を想起させられるが、なぜそういう状況になったのか、どうしてその状況を受け入れられるのか、物語全体を包む謎が解されていくに従って、慄然とする。ああ、これはプレイヤーを包む状況のメタファーなんだと。
「学校から脱出したい」「学校では生き残りのサバイバル」「他を蹴落としてまで這い上がれ」「でもクラスメイトは仲間」「外の世界は分からない」、これらをプレイヤー自身に重ねると、何層も身に染みるだろう。
モノクマという黒幕も強烈なメタファーだ。ラストで絶望的な光景がディスプレイに映し出されるシーンがある。モノクマという姿を取っているものの、その爆発や暴力に見覚えがある。そこにモノクマという記号を当てはめているだけ。プレイされた方は、“あのシーン”からモノクマを外してみるといい、(マウス反転表示)911やロス暴動まんま。
隠喩が強力すぎるから、描写で緩和しているのだろうか。キャラの造形が、ぺらぺらの紙のようだし、血はショッキングピンクの蛍光色で、現実離れしている。サイケでポップでリアリティゼロなのに、「公開処刑」のシーンになると、妙に重厚な書き込みになり、生々しさが俄然出てくる。絶望の世界でも、「死」はリアルに描かれる。
ネタバレがそこらじゅうに転がっているので、未プレイヤーは検索を一切しないほうが吉。ぜひ、「論破の快感」と「学校の隠喩」を味わって欲しい。
7月からアニメ放送開始らしい。かなり期待。
| 固定リンク
| コメント (0)
| トラックバック (0)
最近のコメント