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鬱 に 効 く 映 画 『シネマ・セラピー』

 ダウナーなときは寝るに限る。三時に覚めたらどうするか?

 アルコールは感情の増幅剤だから控える。集中しない(したくない)ので、本はお守り代わり。図鑑や手記など、断片で読めるものにして、うっかり“何かを思い出す”ことのないよう、小説は避ける。岩波青か、講談社学術文庫がいい、『自省録』『ガリア戦記』『言志四録』が鉄板。考えないための読書。

 ところが本書は、映画を提案する。精神科医が選んだ、適切な映画を観ることで、「死にたい」気持ちがほぐれてくるという。本当か?意識を向ける必要がある映画は、ダウナーなときには向いていないと思っていたのだが……著者によると、自殺を客観的に捉え、遺される人を考えたりする上で新たな視点を提示してくれるのが、これらの映画なのだと。

 著者は精神科医。自殺の実態や危険因子を解説したあと、自殺にまで追い詰められた人の心理をレポートする。さらに、「自殺したい」と打ち明けられたらどう対応すればよいか、原則を述べる(基本は傾聴)。

 その上で十本の映画を選び、そこに描かれた自殺の危険を説明する。鬱病、アル中、パーソナリティ障害。生きる意味を見失った人、すてばちになった人、絶望した人、そして、自殺する人。著者は中身にまで踏み込んで、裏側の心情や「たられば」を語る。いかにも分析医した語り口に辟易するが、プロのなせる業なんだろう。「死にたい」気持ちをほぐしてくれるオススメ作品は、下記の通り。

 『普通の人々』(ロバート・レッドフォード監督、1980)
 『素晴らし哉、人生』(フランク・キャプラ、1946)
 『セント・オブ・ウーマン』(マーティン・ブレスト、1992)
 『道』(フェデリコ・フェリーニ、1954)
 『リービング・ラスベガス』(マイク・フィギス、1995)
 『失われた週末』(ビリー・ワイルダー、1945)
 『17歳のカルテ』(ジェームズ・マンゴールド、1999)
 『桜桃の味』(アッバス・キアロスタミ、1997)
 『いまを生きる』(ピーター・ウィアー、1989)
 『シルヴィア』(クリスティン・ジェフズ、2003)

 いくつか観ているが、気持ちをほぐすか否かは別として、素直に心にクる。ただ、「死にたい」と思い詰めているひとは、どう捉えるのだろうか?切羽詰まって自分で自分を追い込んでいるような状態で、映画に集中できるのだろうか。もちろん人それぞれなのだが、少なくともわたしは、気鬱な夜は避けるとしよう。

 鬱ではないが、生きることと死ぬことをテーマにしたこれらの映画を思い出す。どれも癌をきっかけにして人生を問い直す作品で、再見したら号泣必至のやつ。ありそうな逝き方・生き方をくぐることができる。

 『死ぬまでにしたい10のこと』(イザベル・コイシェ、2003)
 『マイ・ライフ』(ブルース・ジョエル・ルービン、1993)
 『生きる』(黒澤明、1952)

 死をシミュレートすることで、生を見なおすきっかけに。

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コメント

私は鬱のとき、「トレインスポッティング」で元気出ました。こんなハチャメチャで生きててもいいんだって。上記リストはちょっと疑問ですね。かえって沈みそうです。クレイジーキャッツのほうが効くと思います。

投稿: T | 2013.04.10 09:55

『素晴らしき哉、人生』はエエですよね。古き良きアメリカ。そして主演がアメリカ人の良心とまで言われたジェームズ・スチュワートw。

自分が存在しなかった世界を見て「ああ、私は要らない子ではなかった!」と感動すること受け合い。

投稿: ブリ | 2013.04.12 19:16

>>Tさん

はい、わたしもそう思いました。鬱と向き合うよりは、逸らす方が有効かなぁと。そういう意味で、「トレインスポッティング」は◎ですね。


>>ブリさん

『素晴らしき哉、人生』は観ていないのですが、本書によると、そういう筋みたいですね。たらればの世界だと、『クリスマス・キャロル』あたりを思い出します。映画は『3人のゴースト』でしたっけ……

投稿: Dain | 2013.04.12 23:42

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