おたく乙女の『堕落部屋』
「女の子の部屋」に慣れていない人々に。覗見嗜好の満足度は高いが、かなり濃厚なので中毒にご注意を。
初めて彼女の部屋に入れてもらった日を思い出した。そもそも「女の子の部屋」というものに馴染みがなかったので、フェミニンな小物やインテリアにほわんとしたものだ。だが、充実したスーファミのソフトに好感を持ち、特に『クロノ・トリガー』と『タクティクス・オウガ』を見つけたとき、この娘と結婚しようと密かに決意したものである。
そんなわたしが思わず求婚したくなる、マニアック女子の部屋がずらりとある。マンガ、アニメ、ゲーム、アイドル、鉄道、映画、フィギュア、抱き枕、薄い本が散乱する・積み上がる、50人のおたく女子(一部男子)の私室とポートレイトが公開されている。彼女らの生々しいライフスタイルがぎゅんぎゅん出ており、乱れた生活とか、散らかった部屋というより、趣味に荒れた感じが微妙にエロスできゅんきゅんすることを請け合う。
わたしが注目するのは、なんといっても本棚。女の子の本棚を眺めることほど、愉しいことはない、趣味嗜好が透け見えるからね。『ベルセルク』と『寄生獣』のあいだに『ご近所物語』が仲良く挟まっていたり、『奇面組』シリーズや『大日本天狗党』の扱いにむせる。『ジョジョ』率と『よつばと!』率の高さに驚きつつも納得し、部屋とバイオハザードと私状態の東大女子に萌える。
透け見えるといったカワイイレベルではなく、趣味全開の部屋に圧倒される。歴代プリキュア変身アイテム(箱入り)を積み上げたタワーや、ミリオタ娘の電動ガンBOYsコレクションなんて、すげぇ惹かれる。シルバニアファミリーのハウスが集結してコンドミニアムを形成しているのを見ると、むしろ「シルバニア一家」と呼びたくなる(マフィアである)。
消費社会を体現している彼女らの生態を見ていると、『着倒れ方丈記』を思い出す。これは庶民がブランドにハマると何が起きるか?を一枚で示した写真群だ。家一軒ぶんのジャン・ポール・ゴルチエや、風呂なしアパート清貧生活にある50万円のエルメスの鞄、無職生活4ヶ月目とアレキサンダー・マックィーンなど、洒落にならない微笑ましさが浮かんでくる。しかし、写りこんでいる皆さん、ホント幸せそうな顔をしていらっしゃる。「消費社会の犠牲者」とレッテルを貼るのは簡単だが、これほどハッピーな犠牲者もなかろう。
翻って本書に垣間見る彼女たちの極端な偏好趣味、止まらない蒐集癖を感じ、絶妙なバランスで積み上がり、際限なく畳みかけてくるヲタ・ウォールやジャンプタワーを眺めているうちに、これほど好きを貫いている人はいないような気がしてくる。これは、堕落というより堕楽だ。彼女らこそ、消費社会のサバイバーなんだ。
一種の通過儀礼なのか、それとも生きる目標そのものなのか、自分の部屋と付き合わせながら読むといいかも。

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