好きな本を持ち寄って、まったりアツく語り合うオフ会「スゴ本オフ」、今回は「親子」がテーマなり 。
小説、ノンフィクション、エッセイ、コミックのみならず音楽、映画、CD-ROM、パンフレットが集まったぞ。熱気ムンムン実況ツイートは「猛毒本からホッコリまでスゴ本オフ『親子のスゴ本』まとめ」 をどうぞ。ここではラインナップとわたしの「!」、そして口では言えなかったダークサイドを記してみよう。
王道から変化球や魔球、出てきてはじめて「おお!確かにコレは親子だ」という本がザクザク。暖かいからイビツまで、さまざまな親子の形態が見られる。そして並べると分かる、いわゆる「スタンダードな」親子なんて存在しないことと、どこかしら歪んでいたり尖っていたりするもの。夫婦や友人より古くて強力な人間関係。
まずは見てくれ、この宝の山とラインナップ。
■個人的で普遍的な、親子愛
『岳物語』椎名誠(集英社文庫)
『天国までの百マイル』浅田次郎(朝日文庫)
『ボブ・グリーンの父親日記』ボブ・グリーン(中公文庫)
『なずな』堀江敏幸(集英社)
『いのち五分五分』山野井孝有(山と渓谷社)
『鮨』岡本かの子(ちくま日本文学全集)
『宇宙船とカヌー』ケネス・ブラウワー(ちくま文庫)
『蜜柑の花まで』幸田文(ちくま日本文学全集)
『幸田露伴』幸田露伴(ちくま日本文学全集)
『禅とオートバイ修理技術』ロバート・M/パーシグ(ハヤカワ文庫)
『初秋』ロバート・B. パーカー(ハヤカワミステリ文庫)
『ゴッド・ファーザー』マリオ・プーヅォ(ハヤカワ文庫)
『寺内貫太郎一家』向田邦子(新潮文庫)
『ビジネスマンの父から息子への30通の手紙』キングスレイ・ウォード(新潮文庫)
『錦繍』宮本輝(新潮文庫)
『ディア ノーバディ』バーリード・ハティー(新潮文庫)
『僕は勉強ができない』山田詠美(新潮文庫)
『スズキさんの休息と遍歴』矢作俊彦(新潮社)
『家郷の訓』 宮本常一(岩波文庫)
『クローディアの秘密』 E.L.カニグズバーグ(岩波少年文庫)
『人間の証明』森村誠一(角川文庫)
『10代の子をもつ親が知っておきたいこと』水島広子(紀伊國屋書店)
『ビラヴド』トニ・モリスン(ハヤカワepi文庫)
『世界で一番優しい機械』榊一郎(EXノベルズ)
『冴子の母娘草』氷室冴子(集英社文庫)
『ミーナの行進』小川洋子(中公文庫)
『泣ける2ちゃんねる』泣ける2ちゃんねる管理人(コアマガジン)
『お前の1960年代を、死ぬ前にしゃべっとけ』加納明弘×加納建太(ポット出版)
『少女神 第9号』フランチェスカ・リア・ブロック(理論社)
『魚釣り、三輪車、でんぐり返し 子供たちがおしえてくれたこと』マーク・ペアレント(主婦の友社)
『武士道シックスティーン』誉田哲也(文春文庫)
『ペコロスの母に会いに行く』岡野雄一(西日本新聞社)
■絵本からジュヴナイル
『さいごの恐竜ティラン I'll stay with you』村山由佳(集英社)
『ハルーンとお話の海』サルマン ラシュディ(国書刊行会)
『ビビを見た!』大海赫(ブッキング)
『ラヴー・ユー・フォーエバー』ロバート・マンチ(岩崎書店)
『バーバパパ』アネット・チゾン、タラス・テイラー(講談社)
『大きな森の小さな家』ローラ・インガルス・ワイルダー(福音館)
『ぼくにげちゃうよ』マーガレット・ワイズ・ブラウン(ほるぷ出版)
『ロッタちゃんのひっこし』アストリッド・リンドグレーン(偕成社)
『豚の死なない日』ロバート・ニュートン・ペック(白水Uブックス)
『まんがで学習 エチケット事典』光永 久夫、内山安二(あかね書房)
『おまえうまそうだな』宮西達也(ポプラ社)
■コミック、映画、写真、ゲーム
『鋼の錬金術師』荒川弘(ガンガンコミックス)
『エスパー魔美』藤子・F・不二雄(小学館)
『うさぎドロップ』宇仁田ゆみ(feelコミックス)
『百舌谷さん逆上する』篠房六郎(講談社)
『ファンタスマゴリア』たむらしげる(架空社)
『ショコラの魔法』(ちゃおコミックス)
『大人の写真。子供の写真。』新倉万造、中田燦(エイ文庫)
『ライフ・イズ・ビューティフル』ロベルト・ベニーニ監督(DVD)
『Fallout3』Bethesda制作(Xbox360)
『オレンジと太陽』ジム・ローチ監督(原作『からのゆりかご―大英帝国の迷い子たち―』マーガレット・ハンフリーズ著)
『i am sam』(アイ・アム・サムのサントラCD)
■親という呪い
『毒になる親』スーザン・フォワード(講談社プラスアルファ文庫)
『シズコさん』佐野洋子(新潮文庫)
『愛すべき娘たち』よしながふみ(Jets comics)
『ドレの旧約聖書』(宝島社)
『キャリー』スティーヴン・キング(新潮文庫)
『母が重くてたまらない 墓守娘の嘆き』信田さよ子(春秋社)
『母がしんどい』田房永子(新人物往来社)
『ファミリー・シークレト』柳美里(講談社文庫)
『愛を乞うひと』下田治美(角川文庫)
『僕はパパを殺すことに決めた 奈良エリート少年自宅放火事件の真実』草薙厚子(講談社)
『セールスマンの死』アーサー・ミラー(ハヤカワ演劇文庫)
『ごっこ』小路啓之(ジャンプコミックス)
『源氏物語』
■親子という視点が新しい
最初は、紹介されて「!」となった親子から。ダークファンタジーの傑作としてあまりにも有名な『鋼の錬金術師』(荒川弘)を、親子の物語という観点から読む発想に驚き、そして納得する。主人公の父との関係性がストーリーの駆動力となっているのだが、周囲のキャラの親子に目が行く。ホラあれだ、娘を“練り混ぜて”しまった話。芥川龍之介『地獄変』が通底にあるんだろうな……暗澹とさせられる。片親、偽親、造られた親、創られた子など、本作を親子から解くと非常に興味深い再読ができる。
そして森村誠一『人間の証明』、昔読んだはずなのに、これが親子の物語であることは、言われてはじめて気づかされた。「母さん、僕のあの帽子、どうしたでせうね?」西条八十の詩集を残して、ニューヨークから来た男が、エレベーターでナイフを胸に死ぬところから始まる物語。捜査模様と人間模様を重ね合わせ、ずっと押し隠されてきた過去が暴かれるカタルシスは圧巻なり。ストーリーはまるで違えども、読中・読後感覚は、東野圭吾の『白夜行』が似てる。
『禅とオートバイ修理技術』(ロバート・M.パーシグ)もそう。かつて大学講師で、今は失われた記憶を求める父と、心を閉ざしてしまった息子とが、バイクで大陸横断する。旅の過程で過去の自分に追いつき、親子関係を再構築する。旅に重ね合わされる思想体系の思い起こしが稠密すぎて吐き気をもよおしたことを覚えている。随分前にやたらデカいソフトカバーで読んだ記憶があるが、ハヤカワで文庫化されているのが嬉しい。再読必至の上下巻。
■スタンダードな(?)親子像
次は親子というテーマで素直に紹介された作品を。椎名誠『岳物語』は、激しく納得、これ出てきたときも「あっ」と言った。間違いなく父と息子の物語なり。山好きの親から名付けられた、シーナ家の長男・岳をめぐる私小説。プロレス、釣り、そしてカヌーと父息子ともどもハマっていく過程が面白い。これ読んだときのわたしは、「子」の立場だったが、父になって改めて読み直すのもいい。amazon評の「父から息子へのラブレター」は言い得て妙、すべてのお父さんと息子へ贈りたい一冊。父親やるのに疲れたら、もう一度手にしてみよう。
ケネス・ブラウワー『宇宙船とカヌー』は、“両極端は一致する”を地で行く親子だ。読んだはずなのに、ここで出てくるまで思い出せなかった。父は、巨大宇宙船を造ることを夢見る物理学者、息子は巨大カヌーを作ることを夢見るエコロジスト。フリーマン・ダイソンとその息子、相容れない二人の生き様を重ねつつ描いたこの評伝は、確かに親子のお話だ。確かラストで夜の海にカヌーを漕ぎ出すシーンがあるのだが、星あかりと潮目を浮かぶ情景が、宇宙を行く船のように描かれていた。星に恋をした父親と、地球に恋をした息子が見事に重なっていた。残念ながら絶版のようだが、嬉しいことに復刊の噂を聞く。正座して待つ。
『10代の子をもつ親が知っておきたいこと』(水島広子)は、わたしのブログでも紹介した手引き書 。親の不完全さはよく分かっている著者が謙虚に書いており、ありがちな「親の不安を煽って売ろうとする育児書」とは一線を画している。 思春期のポイントは2つ、「自尊心」「コミュニケーション力」を育てること。「自尊心」とは、そのままの自分の存在を肯定する気持ちのこと。「コミュニケーション力」は気持ちを分かりやすく伝えることで、他者とのつながりを深めたり、求めるものを得る能力のこと。本書は、次の一句を実践的に(具体的に)示したものだね。
神よ願わくは我に与えたまえ
変えられるものを変える勇気を
変えられないことを受け入れる忍耐を
そして、その二つを見分ける知恵を
『いのち五分五分』(山野井孝有)は、本の存在自体が異色で、かつ普遍的な愛情を感じる。2012年No.1スゴ本の『垂直の記憶』(山野井泰史) に関連して紹介された。日本を代表するクライマー・山野井泰史の父が、『いのち五分五分』の著者なのだ。普通、山で死んだ人を追悼する思いで作られる本を、生きている息子が先か、高齢となった自分が先かという思いで綴っている。これは読もう。
■泣ける親子
反則気味な一冊は、浅田次郎『天国までの百マイル』、泣ける、分かっていても泣ける話。老いた母が心臓の病に倒れ、くすぶっていた息子が、母のために100マイル走る、それだけの話。だけど読むときにハンカチよりもタオルを用意した方がいい話。浅田次郎はいつも反則なんだよなーと思いながら、やっぱり泣いてしまう。
わたし自身が反則だなーと思いつつも外せなかったのが、映画『ライフ・イズ・ビューティフル』(ロベルト・ベニーニ監督)。これもタオルを用意して見るもの。ナチスの収容所という狂った現実に押しつぶされないために、ささやかな嘘をつく父と息子の物語。ひたすら笑顔でひたむきに生き抜き、妻と息子を救おうとする父にグッとくるだろう。その嘘がどうなるのか、家族の運命がどうなるのか、全てがたどりつくラストは、実は涙でよく見えなかった。
ツイートで気づいたのが、『おまえうまそうだな』(宮西達也)。たしかにこれも「親子」なり。腹を空かせた恐竜が、あかちゃん恐竜を見つけてとびかかろうとすると……お父さんにまちがえられた大きな恐竜と、“息子”の愛情の物語。同作者の『あなたをずっとずっとあいしてる』そして、『おとうさんはウルトラマン』(みやにしたつや)も親子の泣ける(といっても、読み聞かせながらわたしだけ泣いた)絵本やね。
■親という呪い、あるいは毒親
親やるようになって思い知らされたのは、“親とは呪いである” ということ。遺伝とはDNAの塩基配列情報だけではなく、癖や気質といったメタファーとしての類型化も指していること。仮に病んでいる人がここにいるなら、その親を見る方が回復のヒントが得られるように思えてくる本がザクザクとある。
『母がしんどい』(田房永子)なんて象徴的。「親と一緒が苦しい。でも決別するのに罪悪感がある」───そんな思いを抱いている人がいかに多いかを実感させる反響なり。いわゆる毒親との戦いを記録したコミックエッセイで、病んだ子どもに病んだ親ありということがよく分かる。読むのが苦しく、ラストで分かる毒親の真の姿があまりにもズバリで、身に詰まされる一冊。
そして毒親の親玉が、『毒になる親』(スーザン・フォワード)。人の歪みや狂気が「親」という複製機で増幅されると、子どもはその歪みや狂気を一生背負うことになる。自分に価値を見出すことができない、切迫感、罪悪感、フラストレーション、自己破壊的な衝動、そして日常的な怒りに駆られる人がいる。それは、(全てとはいわないが)親が望んだ「わたし」を強いられた結果だというのが本書だ。そうした呪いと向き合い、決別する方法が記されている。
twitter経由で耳にしたのがスィーブン・キングの処女作『キャリー』。テレキネシスを持つ少女キャリーが、母親からの虐待と級友のイジメによって精神不安定に陥り、怒りを大爆発させ街を大惨事に陥らせる話。これ映画のラストの血と炎が強烈すぎて、全ての記憶を上書きしているが、もとはといえば狂信的なクリスチャンである母親の圧力が背景にあったのかも(墓のシーンとか)。37年ぶりに再映画化されるらしいので、“母娘”にも目配りしながら見ると面白いかも。
VIDEO
『キャリー』を“母娘”の観点で見るならば、“母息子”視点からヒッチコック『サイコ』を、ショーン・S・カニンガム『13日の金曜日』を、とホラー・サスペンス映画が続々出てきそう。歪んだ犯罪の原因としての親子は、物語としての座りがいい。
■スゴ本オフで言えなかった「親」
子ども同伴の場だったので、あンまり尖ったりエグいのは出せなかった。だが、真正のわたしはダークサイドなのですぞ。なので、言い足りなかった作品をいくつかご紹介。
まず『ごっこ』(小路啓之)。ロリコンニートがイタズラ目的で拉致した少女との“親子ごっこ"遊びの話。デフォルメされた絵柄に騙されるなかれ、軽く見てると抉られるので気をつけて。『源氏物語』の紫の上のように、『うさぎドロップ』のダイキチとりんのように、育てた娘を姦するなんて、禁断かつ究極の愛なのかも。セックスできる娘としての紫の上がいるように、セックスできる母としての綾波レイがいる。『エヴァンゲリオン』を親子の話として見るならば、ゲンドウ-シンジの組み合わせよりも、レイ-シンジのほうが、あるいはリツコ-ナオコのほうが濃く楽しめそう。
禁断かつ究極のタブーをさらに深めると、食べることで得られる、女との一体感、エクスタシーになる。『湘南人肉医』(大石圭)はカニバル趣味の整形外科医の話。「食べるため」に赤ん坊を誘拐し、育てる。成長した彼女を待ち受けたものは───これは、ダークサイドに墜ちきって突き抜けた『きつねのおきゃくさま』(あまん きみこ)といっていい。読まないことをオススメする。
ラストは暗黒面に支配されてしまったが、「親子」という視点は、人の暖かいところも冷ややかなところもさらけ出してくれる。そのおかげで人類が生きてこられた、もっとも緊密かつ呪わしい関係なのだから。わたしの紹介は「親とは呪いである」 の通り。あわせてチェックしてほしい。
最後に。ご参加いただいた方、ご協力いただいた方、ありがとうございます。そして、次回も着々と準備をすすめてまりますので、お楽しみ。
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