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親とは呪いである

 親やるようになって十年たった。

 振り回されつつ導こうとする親業(親行か?)、いずれも上手くいってる気がしない。子どもは親の言うことは絶対に聞かないが、親のマネだけは恐ろしく上手だ。せいぜい、己が背中を煤けさせないように気をつけるのみ。

 それでも面白いのは、親とはつくづく業(ごう)なものに気づいたこと。親とは一種の呪いなり。遺伝情報のコピーは、遺伝子のみならず、獲得形質を子どもに渡す。それは、思考や習慣、癖といった名前で呼ばれ、人生や社会や異性に対する姿勢なども相似(あるいは反面教師)の形で伝染(うつ)される。

 そういう、親の呪い、親の業(ごう)について選んでみた。お気づきの方もいらっしゃるだろうが、これは、スゴ本オフ「親子」で紹介した作品がメインになる。しゃべるのはヘタっぴなので、ここで文章化しておこうかと。

 まず、親の嘘について。親が子どもに嘘をつくのは、現実がとんでもなく歪んでいるから。狂った世界に染めさせないため、大きなものから小さなものまで、親は子どもに嘘をつく。「夜ふかしするとお化けが出るよ」から、「努力すれば合格できる」まで、大なり小なり親が積み上げてきたものは、やがて子ども自身が乗り越える壁となる。

ライフ・イズ・ビューティフル 映画『ライフ・イズ・ビューティフル』の後半は、ナチスの収容所が舞台だ。前半までの陽気なラブコメとは一転して、現実は狂っている。そこへ収容された若い夫婦と、その息子。極限状態に押しつぶされそうな状況で、父は息子に、ある嘘をつく。そしてその嘘を守り通そうと奮闘するのだ。前半のコメディは伏線となり、ひたすら笑顔でユーモアを振りまき、家族を救おうとする父にグッとくるだろう。その嘘がどうなるのか、家族の運命がどうなるのか、全てがたどりつくラストは、実は涙でよく見えなかった。

fallout3 XBOXのゲーム『fallout 3』は核戦争後の荒廃したワシントンD.C.が舞台だ。人々はシェルターで生きのびはするが、放射能で汚染された外から完全に遮断されている。主人公はシェルターで生まれ、育ち、19歳になったとき、突然、父が失踪する。父を探すため、主人公は外に出る。放射能で変異したミュータントや凶暴なグールが徘徊する地を旅するうちに、主人公は、父の「嘘」に気づく。なぜ父は自分を置いて出て行ったのか、自分を騙したのはなぜか、そして父が何をしようとしているのか、全ての謎が明かされるとき、父と自分の運命が決するとき、やっぱり泣ける。だが(これがスゴいところなのだが)、冒険は終わらないのだ。壊れた世界を伝染(うつ)さないための嘘。

愛すべき娘たち よしながふみ『愛すべき娘たち』、これは母が娘につく嘘の話が隠されている。読み始めてもそれは「嘘」だとは分からないようになっており、短編を重ねる構成で々と話者が代わっていく中で、通底音のように流れている。母、母の母、娘、娘の友人のようにオムニバスが広がってゆき、女性が抱える葛藤や不安が淡々切々と描かれる。「母というものは要するに一人の不完全な女の事なんだ」この言葉に出会えただけでも価値がある。母の嘘は、娘を歪ませないための方便だったとしても、それは(女である)母が自分自身についた嘘なのかもしれぬ。

毒になる親 完璧な人間など存在しないように、完璧な親などいない。だが、人の歪みや狂気が「親」という複製機で増幅されると、子どもはその歪みや狂気を一生背負うことになる。『毒になる親』では、大人になっても苛まれる人々が紹介されている。自分に価値を見出すことができない、切迫感、罪悪感、フラストレーション、自己破壊的な衝動、そして日常的な怒りに駆られる人がいる。それは、親が望んだ「わたし」を強いられた結果だというのが本書だ。そうした呪いと向き合い、決別する方法が(やや過激ながら)具体的に記されている。誰にでもオススメできる本ではないが、どうしようもない問題や感情を抱えて苦しんでいる人には、親の嘘から自由になる助けになるだろう。twitterでオススメされた『母がしんどい』をスゴ本オフでゲットしてきたので、あわせて読みたい。

ドレの旧訳聖書 『毒になる親』で、体罰を正当化するために悪用された本として『聖書』が挙げられている。子どもを「指導」している、あるいは「しつけ」ている。子どもを強くするための試練や、儀式であると称し、体罰を正当化しているというのだ。ヨブ記がまさにそうだろう、神の裁きと『義人の苦難』というテーマだ。神の意志は惑星のごとく、人の感情とは別の軌道を運行しているもの。だからとやかく言うではない、というのは分かるが、神だからこそ。親が代行するのはおこがましい限り。"the Father"(父なる神)と"father"は、違うのだ。

初秋 ダークサイドに墜ちたご紹介だったので、最後は厳しくも暖かい傑作『初秋』を。私立探偵スペンサーシリーズで、両親から放置され、ネグレクトされた少年を鍛える話だ。スペンサー流のトレーニングがいい。「おまえには何もない。何にも関心がない。だからおれはお前の体を鍛える。一番始めやすいことだから」。厳しくてあたたかい、という言葉がピッタリだ。これは二色の読み方ができて、かつて少年だった自分という視線と、いま親である立場というそれぞれを交互に置き換えると、なお胸に迫ってくる。本当の父親でないスペンサーが、本当の父親以上に、「大人になること」を叩き込む。「いいか、自分がコントロールできない事柄についてくよくよ考えたって、なんの益にもならないんだ」このセリフは、スペンサーが自分自身に言い聞かせているようにも見える。年をとるのは簡単だが、大人になるのは難しい。

 親になることよりも、親をするのはもっと難しい。このトシになって実感するのだが、子どもを持つようになって十年以上経って分かるのだが、全ての親子の確執の元凶は、親自身が自分の人生でハマっている陥穽と同様に、コントロールできないものをコントロールしようとするところにあるのではないか。過去と他者はコントロールできないが、今と自分はコントロールできる。せいぜい子どもにマネされるよう、己が背中を律して生きるべ。

 わたしがご紹介する親の業(ごう)の本はここまで。スゴ本オフでは、これを凌駕する凄いのが集まった。別のエントリにてご紹介するので、しばしお待ちを。

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コメント

はじめまして。
Gunosyの推薦記事で初めて訪れました。

最近、娘の子育ての中で感じていたことがズバッと書かれていて、考えさせられました。確かに、「コントロールできないものをコントロールしようとする」と子供はそれを敏感に感づいて、逆へ逆へと行こうとしますよね。

「Life is beautiful」のあの父親の嘘は、その意味で極めて「beautiful」な嘘だったと思います。

ところで、このようなフィードバックを直接差し上げるのに、私が手掛けておりますMessageLeafというツールが便利です。

もしよろしければ、↓サイトをご参照頂き、気に入って頂けるようでしたら導入ご検討ください。
http://ja.messageleaf.jp/

それでは、引き続きのご健筆を楽しみにしています。

投稿: 鈴木英介 | 2013.03.04 00:16

>>鈴木英介さん

コメントありがとうございます。
親の言うことは聞かないくせに、マネだけは上手ですからね、子どもは(わたし自身がそうだったしw)。ご紹介いただいたサイトはチェックしますよ~ありがとうございます。

投稿: Dain | 2013.03.05 00:30

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