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純情淫乱ラブコメディ『君は淫らな僕の女王』

 「お酒を飲むと人が変わる」は、実は正しくない。お酒というものは、人の自制心を取り除いて、その人の本当にしたいことを拡大して見せてくれるものだ。

 だから、泣き上戸は本当は泣きたいのであり、大トラは暴れたい衝動をガマンしているのだ、酒が入るまで。「酒が人を駄目にするのではない、元々駄目なことを気づかせるだけ」とはよく言ったもので、自己を再確認するツールとしてのアルコールは、かなり有効だ。じゃぁ酔うと艶っぽく怒りっぽくなる嫁さんは!? ツンデレ仕様の真相はご想像に任すとして、相当ストレス溜まっているんだな……肩の一つも揉みたくなる。

君は淫らな僕の女王 では、「お酒」でガス抜きできない女子高生が、自制心を失ったらどうなるか、しかも名門私立高校に通う、家柄も容姿も成績も完璧お嬢様が、自分の心の奥底に隠している「本当にしたいこと」を全開にしたらどうなるか、というのが本作。

 ちゃんと語り手が「巻き込まれながらカウンター気味に攻める」ところがいい。話者は、幼馴染の冴えない男子。彼女と同じ高校に行くため、必死に勉強し、特待生枠で見事合格→同じクラスまでたどりつくまではいいが、そこまで。あくまで冷たい彼女はあからさまに避け、幼馴染という過去すら忌み嫌っているように見えるのだが……そこはそれ、ファンタジーの出番ですよ。

 わたしくらいオッサンになると、高校生はファンタジーになる。ラノベであれアニメであれ、思い出したくない遠い日を上書きするための方便として有用なんよ。だが、本作のファンタジー設定はブッ飛んでいた。この、たった一つのフィクションを除いて、後は極めてまっとうな純情変態ラブコメディに仕上がっている。

 特筆すべきは放尿。史上最高の傑作放尿マンガといえば、ぢたま某『聖なる行水』であることは論を待たないが、『君は淫らな僕の女王』のソレも充分匹敵―――処により凌駕するほどのインパクトを持つ。刮目して瞳に焼き付けるべし。ホラあれだ、「もヤだぁ」とツンデられながら、そっと中心に触れるとぐしょぐしょだったときの驚きと倒錯したヨロコビがエミュレートできる。期待していいよ。

 エロス一辺倒に陥らないのがいい。上手な伏線まわしで一途な思いが明かされたり、ほろりとさせる事情が差し込まれたり、なかなか読ませてくれる。思わず知らず応援したくなる相手が、最初は男子で次は彼女に移って行くのがいい。あんなことやこんなことを、鉄壁の自制心で守らざるを得ない、ストレス溜まりまくりの半生が可哀想&ギャップに萌える。

 ええ話や~ラストは一緒になって心を揺らせ。リミッターカットしてもっとフリーダムになれよ、と自分にエールを掛けたくなる(もったいないから飲むが)。さて、もう一杯飲もう。

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