より“良い”判断のため『意思決定理論入門』
十年前、初めて買った年末ジャンボは、一等の番号と完全一致していた。
実は組違いだったのだが、問題はその後。一等組違いの十万円に味をしめ、毎回結構な額を買うようになる。当然かすりもせず、購入額の累積が十万を越えたあたりで期待値に気づく。以降、きっぱりやめてしまった。
文字通り「夢を買う」宝くじを、なぜ買ってしまうのか。合理的に考えるとワリの合わない賭けに、どうして乗ってしまうのか。本書を読むと、不合理な選択をする理由が“合理的に”分かる。
もちろん「宝くじはバカに課せられた税金」と貶してもいい。だが、これによると、人は意思決定する際、自分が直面している確率を歪んだ形で認識しているように振る舞うらしい(プロスペクト理論というんだそうな)。
つまり、誰でも確率の計算はできるものの、必ずしもその通りに行動しないのが、“人”なんだそうな。自分では「正しく」判断しているつもりでも、「統計的な確からしさ」からズレている。その歪みや偏差が見えるようになっている。期待効用理論、ベイズの定理、プロスペクト理論といった基礎理論を、「問題・解説」形式で検証する。自分を試すつもりで向かってみると、気づかなかったバイアスが見える化されてくる。
たとえば、次のうち、死亡者数が多いのはどちら?
a.消化器疾患
b.交通事故
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多くの人はb.を選ぶ傾向があるんだそうな。wikipediaによると、a.が正しい。消化器疾患による死亡者数は交通事故の死亡者数よりも50%以上も多い。これは、「利用可能性ヒューリスティック」の例で、本質が偏ったサンプルにあることが顕になっている。aとbの二つの死因の確率を比べる際、そのデータを持っていないのが普通だ。
そうなると、自分の記憶の中で例を探し求めようとするだろう。自分が知っている死因の多くは、メディアの報道によるものだ。もし、メディアの報道に偏りがあるならば、記憶からたぐり寄せた「サンプル」が偏っていても不思議ではない。
一方、注目度の高いネタを欲しがるジャーナリストは、消化器疾患よりも悲惨な交通死亡事故を頻繁に取り上げる。結果、知ってる事例が(主観的な)確からしさを引きよせる。メディアの大合唱が認知を歪ませる好例として、ロス疑惑やら国民総幸福量を思い出すが、主観なんてそんなもの。
もっとセキララな例もある。子供がいる人は、いない人よりも、自分のことを幸福だと考えがちなんだって。子育ての苦労を乗り越えて、子供がいて幸せだと申告するのは、自分が幸せであると思いこもうとしている可能性も大いにあるというのだ。主観的幸福度と定義されているが、わたしの経験に照らすと“思い出補正”になる(確かに歪んでいる)。ただし、認知の歪みが分かったとしても、判断は変わらないのが面白い。
これは本書の結論に通じる。意思決定論における考え方に習熟し、“より良い”意思決定をする上で必要な理論を学ぶうち、何をもって“より良い選択”なのかを決めるのは、実は主観に拠ることが分かる。それでは、方法論なんていらないじゃん、にならないところがミソ。その意思決定のどこが歪んでおり、どこからが統計的に確からしさを有するのか分かるだけで、価値があるというもの。
次の意識決定を、より確かにするための一冊。
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