「バベルの図書館」はスゴ本
「バベルの図書館」は、ボルヘスが描いた架空の図書館だ。六角形の閲覧室が上下に際限なく続き、古今東西過去未来、世の全ての本が収められているという。ウンベルト・エーコ「薔薇の名前」に出てくる文書館がイメージの助けとなるだろう。
自分が作り出した「バベルの図書館」と同じ名で、ボルヘスは全30巻の叢書シリーズを編さんした。もうン十年も前のことだ。ボルヘス好みの、幻想と悲哀の入り混じった寓話で、今ではマニア垂涎の的となっている。これを6巻に再構成したのが、新編「バベルの図書館」だ。分厚く、箱入りの「よりぬきバベルの図書館」は、ちょっとした百科事典のように見える。
今回はアメリカ編。ホーソーン、ポー、ロンドン、ジェイムズ、メルヴィル…嬉しいことに、ほとんど未読の作品ばかり。噂だけ、タイトルだけは知ってはいたが手を出していなかったことを悔やみつつ、頭まで漬かる。
際限なく先送りに引き延ばす仕組みが、カフカを思い出させるホーソーン。テラーとホラーを重ねながら徐々に高めてゆくポー。無邪気とさえいえる書き方で、残酷な運命を暴いてみせるロンドン。もったいぶった書き口で、秘密と揶揄を織り込んだジェイムズ。狂気の伝染してゆく信じがたい状況をリアルに描くメルヴィル。どいつもこいつも、外れなし。
しかも各章の冒頭で、作家を紹介するボルヘスの視点が適切すぎる。ちょっとしたバイオグラフィーと収録された短篇の紹介をしているが、後で読み返すと腑に落ちる。ネタバレ寸止めで紹介するのではなく、その作品を別のライトで照らすのだ。そして、でてきた影をボルヘス流に述べてゆく。噛める寸評ナリ。
ラインナップは次の通り。どいつもこいつも、すばらしい。
ホーソーン
ウェイクフィールド
人面の大岩
地球の大燔祭
ヒギンボタム氏の災難
牧師の黒いベール
ポー
盗まれた手紙
壜のなかの手記
ヴァルドマル氏の病症の真相
群集の人
落し穴と振子
ロンドン
マプヒの家
生命の掟
恥っかき
死の同心円
影と光
ジェイムズ
私的生活
オウエン・ウィングレイヴの悲劇
友だちの友だち
ノースモア卿夫妻の転落
メルヴィル
代書人バートルビー
新編「バベルの図書館」の第2巻は、イギリス編だそうな。これも、楽しみ。
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