このミステリが今年の一位「湿地」
ミステリひさしぶり。なので良いのを読みたい。ガラスの鍵賞を2年連続受賞、CWAゴールドダガー賞を受賞した作者は、この期待に応えてくれる。設定、人物、書き口が「あとひく上手さ」なので、読み始めたら止まらない。一気に読める週末にどうぞ(雨の夜だと、なお良し)。
というのも、作中ずっと雨が降っているのだ。冷たく、薄暗い風雨にまみれて捜査は進み、頓挫し、跳ねる。アルコール中毒の医者、麻薬中毒の娘、セックス中毒の男、仕事中毒の主人公、よそよそしくて冷ややかで、「アイスランドとはこういう場所なのか」と思い込みそうになる、ちょうどそのとき―――雨があがる。
封じ込められていた過去が覆されるそのとき、思わず「うおっ」と声が漏れる。この展開は半ば分かっていたものの、歯を喰いしばり、本を持つ手に知らず力がこもる。「胸が張り裂けそうになる」というよりも、胸にのしかかってくるのだ。ずっと見えなかった内面が一気に迫ってくる。雨があがって犯罪が解決して心が晴れるわけもないが、一抹の慰めが有難い。
意外で必然でおぞましいこの犯罪は、「アイスランド特有」という形容が付いているが、未来のわたしたちをも指している。単なる犯罪小説だけでなく、未来の社会派としても、読み解ける。年末恒例の、『このミステリがナントカ』リストのどこに本作を位置付けるかで、格付けが行える。
一気に読めてズシンとくる、今年一番のミステリがこれ。
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