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いじめ対策のリソースは、担任へ「3月のライオン」

 「3月のライオン」に、いじめ対策のヒントがある。

 中学生のヒロインが、いじめられていた子を助けようとする。その子は心を病んで学校を去り、矛先は彼女へ。エスカレートするいじめと、巻き添えを恐れて見守るだけのクラスメイト。彼女はクラス担任に助けを求めるが―――「どうしてあなたは協調性がないの!?」と逆に叱責されてしまう。

 元気いっぱいだった彼女の笑顔が減ってゆき、存在感さえ薄らいでゆく。なんとかしようとする主人公。彼のあがきの熱意やもがきの空回り感に、わたしも一緒になって隔靴掻痒するのだが、それは別の話。ここでは、次の2つについて書く。

 1. いじめに対処した学年主任(とチーム)
 2. いじめを見てみぬふりをしたクラス担任

 ある「事件」が起きて、いじめが表ざたになる。それまで黙殺してきた担任の教師に代わり、学年主任が介入する。対処が素晴らしいのは、「チームで対応」しているところ。加害グループのメンバーそれぞれに一人、教師をつけて、個別に面談する。加害グループのいない教室で、百戦錬磨の学年主任が、あらためてクラスに問いかける。先生の赤本「入門 いじめ対策」でも述べたとおり、教師の本気を見せつける。

 印象的なのは、「いじめの証拠」について。「ウチの子がいじめたというなら、その証拠を見せてみろ」と詰め寄る母親に、学年主任は、そんなものはないという。「いじめられた」という生徒が一人でもいるなら、それだけで証拠たりうるというのだ。「その生徒がウソをついたなら?」と畳み掛ける母親に、「ウソをついていたという証拠はどこにある?」と開き直る。ああ言えば上祐、詭弁重要。

 この「いじめ」は、どうやって明るみに出たか? 残念ながらヒロインたち奮闘ではない。健気で一途で純粋で、河原のシーンなんて思い出すだけでもう涙ボロボロになるが、その声が学校を動かしたわけではない。「いじめを見てみぬふりをしたクラス担任」が倒れるのだ、心労で。

 ここでは、クラス担任の立場になる。

 授業に顧問、進路相談からいじめの相談まで、なんでも背負い込まされすぎ。クラスの問題は担任が対処「すべき」に振り回され、モンペとPTAの板ばさみになる。やってられない。

 生徒の中学生活は3年で終わるが、先生はずっとだ。毎年まいとし、顔ぶれは違っていても、いじめ・荒れる問題は同じ。最初は真摯に対処してても、毎年まいとし、同じ「中学3年生」が同じ問題をひきおこす。やってられない。

 ただでさえクソ忙しい受験の時期に、問題を持ち込むな。悪い知らせをもたらす人を咎める気持ちになる。「どうしてあなたは協調性がないの!?」という叱責は、先生の悲鳴でもある―――「お願いだから、先生に問題を押し付けないで」。おそらく、いっぱいいっぱいだったのだろう。「いじめを認める=管理能力のなさ」と考え、問題を抱え込み、周囲の教師へ相談も助けも求めず、生徒にレッテルを貼ってやりすごそうとしたのかもしれない。

 いじめの処方箋は様々だ。被害者・加害者に向けたメッセージやアドバイスや脅し文句も多々ある。だが、「3月のライオン」を読む限り、中学生・高校生にはこの問題は難しすぎる。現場に最も近い大人、すなわちクラス担任が倒れる前に、もっとリソースを割り当てるべきだったのだ。

 注意を要するのは、「担任の先生に責任を負わす」のではない。担任の先生が担っている「いじめ対策」を他で肩代わりできるよう、リソースを割当てることが現実的だ。

 たとえば、被害者のためにスクールカウンセラーがいるように、いじめの対策に悩む教師のための助言者(チーム)ができないだろうか。いじめ110番の窓口は、被害者や傍観者を想定している。この、先生向けができないだろうか。先生の赤本「入門 いじめ対策」で紹介されているプロセスやツールをクラス担任から引き継ぐ形で実行してくれるチームが作れないだろうか。いずれも人のリソースが必要になる。

 いずれ、いじめ対策として予算が計上されるだろう。それは解決できない被害者・加害者・傍観者のために割り当てるよりむしろ、クラス担任にリソース集中するほうが現実的だと考える。

 世の先生方は、まずは「3月のライオン」を手にしてみはいかが?

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 未読の方に断っておくが、これ熱血将棋マンガですぞ。努力と根性と友情が盤上で燃え上がる少年マンガといっていい。ただしラブ要素は、少女マンガのコードに縛られている(ように見える)代わりに、妙齢の女性陣の健啖ぶりに目を輝かせるべし、あれは、セックスの代わりなんだから。

 そう、不思議なことに、セックスを感じさせない。わたしが高校時代つったら、頭ン中は常にセックスのことで詰まっていて、下半身は常にタンパク質が詰まっていた。ところが主人公の17歳は、すげータンパクなの。女の子と接近遭遇シーンになっても、セックスを感じられない。草食系なのは女にだけで、将棋には唯我独尊ライオン系なのに。

 いっぽう、食べるシーンは非常に濃厚かつ現実的に描いている。甘味処、おせち料理、温玉カレー、巨大おにぎり、もんじゃ焼き…ほんと旨そうに描き、じつに美味しそうに食べる。はちきれるほどに食べて食べて、うっとりと目を細める貌を見て、これは性行為の代わりなのだと勝手に決めている。

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