このカドカワがスゴい!
オススメ本を持ち寄って、まったり熱く語り合うスゴ本オフ。今回のテーマは「角川文庫」。
文庫には、それぞれの色がある。新潮は文芸色、岩波はアカデミック色、早川は海外色といった"ジャンルの強み"を持っている。
ところが、角川は「色」が見当たらない。強みがないというワケではなく、ノージャンルなのだ。純文から翻訳、ラノベからホラーまで、面白ければなんでもアリというスタンス。良く言うなら、エンタメに貪欲、悪く言えば節操がない。ちと古いが、「読んでか見るか、見てから読むか」に象徴されるメディアミックス戦略はアニメやゲームで健在だ。
結果、エンタメ色の強いラインナップとなった。もちろんアカデミックな小論、しっとりエッセイもあるが、全体としては「面白いは正義」になっている。まずは見てくれ、大漁大漁。
- ガツンと読めこの物語
- 「アラビアの夜の種族」古川日出男
- 「風車祭」池上永一
- 「シャングリ・ラ」池上永一
- 「アルスラーン戦記 王都炎上」田中芳樹
- 「ロードス島戦記」水野良
- 「クリムゾンの迷宮」貴志祐介
- 「ブレイブ・ストーリー」宮部みゆき
- 「図書館戦争」有川浩
- 「空の中」有川浩
- 「海の底」有川浩
- 「ドミノ」恩田陸
- 「DIVE!」森絵都
- 「GO」金城一紀
- 「白昼の死角」高木彬光
- 「この闇と光」服部まゆみ
- 「時のアラベスク」服部まゆみ
- 「黒猫遁走曲」服部まゆみ
- 「パラレルワールド大戦争」豊田有恒
- 「野獣死すべし」大藪春彦
- 「夢見る水の王国」寮 美千子
- 「STEINS;GATE」SPIKE
五感と五体のノンフィクション - 「もの喰う人びと」辺見庸
- 「世界屠畜紀行」内澤旬子
- 「仰臥漫録」正岡子規
- 「戦艦大和復元プロジェクト」戸高一成
- 「ゆーびんですよ」横尾忠則
- 「できるかな」西原理恵子
海外の秀逸モノ - 「11分間」パオロ・コエーリョ
- 「アルケミスト」パウロ=コエーリョ
- 「オデッサファイル」フレデリック・フォーサイス
- 「ダロウェイ夫人」ヴァージニア=ウルフ
- 「トレインスポッティング」アーヴィン=ウェルシュ
- 「燃えるスカートの少女」エイミー・ベンダー
心に刺さる小説 - 「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」米原万理
- 「にぎやかな未来」筒井康隆
- 「農協月へ行く」筒井康隆
- 「F―落第生」鷺沢萠
- 「海になみだはいらない」灰谷健次郎
- 「兎の目」灰谷健次郎
- 「ちっちゃなかみさん」平岩弓枝
- 「村田エフェンディ滞土録」梨木香歩
- 「つめたいよるに」江國香織
- 「キッチン」よしもとばなな
リベラルアーツの入り口 - 「日本人はなにを食べてきたか」原田信男
- 「茶の本」岡倉天心
- 「むかし・あけぼの―小説枕草子」田辺聖子
- 「田辺聖子の小倉百人一首」田辺聖子
- 「源氏物語はなぜ書かれたのか」井沢元彦
- 「日本の人類学」寺田和夫
夜に伝わるエッセイ - 「つかれすぎて眠れぬ夜のために」内田樹
- 「そして私は一人になった」山本文緒
- 「再婚生活 私のうつ闘病日記」山本文緒
- 「うつうつひでお日記」吾妻ひでお
- 「失踪日記」吾妻ひでお
- 「文房具を買いに」片岡義男
- 「生きるのも死ぬのもイヤなきみへ」中島義道
血みどろ・ホラー・劇薬注意 - 「魔界転生」山田風太郎
- 「瓶詰の地獄」夢野久作
- 「湘南人肉医」大石圭
- 「墓地を見おろす家」小池真理子
- 「愛犬家連続殺人」志麻永幸
- 「殺人鬼」綾辻行人
- 「犬神家の一族」横溝正史
- 「巷説百物語」京極夏彦
- 「日本妖怪散歩」村上健司
- 「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」入間人間
みんなで持ち寄った「食」がまたスゴい。聞くのに夢中でほとんど撮れていなかったが、おすそわけ。
今回も「次に読む本」が激増する。オススメ本を交換しあう「ブックシャッフル」は、ジャンケン争奪戦になるのだが、ことごとく敗退。わたしの次に読むリストに入れるのは、次の通り。
まず池上永一「シャングリ・ラ」。曰く、「最高傑作だった風車祭を越えた」と断言される。地球温暖化で激変した森林都市・東京が舞台のハードSFらしい。最近の池上作品は、コンスタントに出るようになったが、凡打とのこと。カッ飛んだ世界を描いたSFとして、ミエヴィル「ペルディード・ストリート・ステーション」も惹かれるが、「シャングリ・ラ」から行こう。
今回の収獲の目玉は、「服部まゆみ」という作家かもしれぬ。まさに読まずに死ねるか級にオススメされたなら(そして全く知らない作家なら)読まずにゃいられなかろう。世界がひっくり返る「この闇と光」が最高らしいのでそこから取り組む。うっかりAmazonを開くという愚を犯し、ネタバレを目にしてしまった……こういうのは黙って図書館に予約するのが○。Amazon良し悪しやね。
読書テーマ「食」に通じるのが、原田信男「日本人はなにを食べてきたか」。食生活や祭祀、制度や禁忌の視点から描いた日本の「食」の歴史らしい。「いつからコメが主食になったか」「どうして肉は忌避された」といった疑問を持ちながら読んでみよう。「食とは文化なり」への強力な根拠を示してくれそうで楽しみ。
既読だが、「これがカドカワ!?」と驚いた作品があった。強烈にグロいだけでなく、驚愕のどんでん返しに一本背負いを食らったホラー、綾辻行人「殺人鬼」が典型。ノベルズ版で読んだはずだが、新潮、角川と出ており、ある種バーターを感じる。夢野久作「瓶詰の地獄」は、その反例。三通の手紙の順番を逆転させると震えが止まらなくなる傑作だが、ちくま文庫や青空文庫のオープンな奴が出ている。だが、これはやっぱり角川の真ッ黒な表紙で読むべし。
同一の作品が、出版社を渡り歩く様を可視化したら、力関係が見えて面白かろう。なんとなーくだけど、「角川書店(≠ホールディング)→幻冬舎」の流れを感じるし、集英社と講談社は、互いの株を持ち合うように版権を持ち合っているんじゃぁないかなぁ…
わたしの"オススメ・カドカワ"は、以下の通り。「面白いは正義」を貫いたラインナップなり。
まず、「アラビアの夜の種族」(古川日出男)が徹夜鉄板。「面白い物語を読みたいだと?、ならこれを読めッ(命令形)」と断言する、憑かれたように読みふけろ。小説の喜びを骨の髄まで堪能させる傑作なり。抜群の構成力、絶妙な語り口、そして二重底、三重底の物語―――陰謀と冒険と魔術と戦争と恋と情交と迷宮と血潮と邪教と食通と書痴と閉鎖空間とスタンド使いの話で、千夜一夜とハムナプトラとウィザードリィとネバーエンティングストーリーを足して2乗したぐらいの面白さ。そして、最後の、ホントに最後のページを読み終わって――――――驚け! ただし、読み終えるまで絶対にgoogleるな、Amazon紹介文を読むな、阿呆がネタばらしをしているので要注意。翌日の予定がない夜に、必ず3巻揃えてから読むべし。
次は、「犬の力」(ドン・ウィンズロウ)に打ちのめされろ。現実の、血で地を洗うメキシコ麻薬戦争を、超一級のエンタメにしたクライムノベル。過去30年間のメキシコと合衆国に跨る麻薬犯罪をなぞり、さらに大規模な陰謀を張り巡らせ、革命、反革命、暗殺、暴動、紛争を錬りこむ。物語の駆動力は、登場人物の「怒り」だ。麻薬捜査官、麻薬王の跡継ぎ、高級娼婦、殺し屋…どいつもこいつも怒りまくっている。義憤か、怨恨か、欲望か、嫉妬か、理由はともあれ彼/彼女らは己が怒りをエネルギーに突き進む。その軌跡は、からみ合い、よじれ合い、ぶつかり合い、上下巻を一気に疾走する、ドッグレースのように。呼吸を忘れる怒涛の展開に、ページターナーな読書になるだろう。
6000円する角川文庫がある。猟奇的殺人を描いたノンフィクション「愛犬家連続殺人」(志麻永幸)だが、絶版となりプレミア価格がついている。死体解体のシーンでは、読み手は酸っぱいものを何度も飲み込むハメになる。何度も「わたしの常識」が粉微塵に破壊される。そう、「人の死体を処分するのは不可能」というのは、わたしの思い込みにすぎない。適切な道具があれば、人の身体はサイコロステーキのごとく細かくカットできるし、骨や内臓もきっちり分けて、跡が残らないように"処分"することは可能だ。「人を透明にする」という手順を理解することができる(したくないが)。本書はタイトル・著者・若干内容を変えて「悪魔を憐れむ歌」(蓮見圭一)という書名で流通している(…が、これも絶版&プレミア価格がついている)
そして、「STEINS;GATE」、これはスゴい。PSPの「ノベルゲーム」だが、クライマックスに心臓もっていかれる。前半コメディ、後半シリアス、終盤ドラマティック、急展開するラストに吸い込まれるように読む。すべての伏線が収束する快感に、感情を焼き尽くされる。どんなに足掻いても運命からは逃れられない"あきらめ"に似た感覚を原体験させられる。犯した過ちを「なかったこと」にしてはいけない、「意味なんてない」ことなんて無いんだと叫びたくなる。「失敗も含めて今の自分がある」―――陳腐なセリフが、妙にリアルに後を引く。これも角川なんだよなぁ…
角川ホラー文庫で2番目に怖かったのは、「湘南人肉医」(大石圭)。2ちゃんねるまとめ「グロすぎて最後まで読めない」に惹かれて読み始めたが…ああ~これは~たしかに~そうかも。多くは語るまい。湘南の、人肉好きの、お医者さんの話。描写はキツいが、ラストがチキン。わたしが考える(そして読者が予想する)エンディングを書いたなら、著者は二度と小説など出せないくらいのバッシングを受けるだろうなぁ(でも書かせてあげたいなぁ)…
おお、これもカドカワ!と驚いたのは、「白昼の死角」(高木彬光)と「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」(米原万理)。ずいぶん昔に読んだのだが、このオフ会で改めて教えてもらえて嬉しい。前者は、天才詐欺師のピカレスクロマン。法の盲点と死角を衝いて、神がかり的な詐欺犯罪を展開するのだが、「詐欺の費用対効果は、あらゆる犯罪を凌ぐ」ことがよく分かる。
後者は半自伝的な小説。次のアネクドートがツボに入ったら、読むべし。
女教師「人間の器官には、ある条件で6倍に膨張するものがあります。その器官の名前と、膨張する条件を答えなさい、Aさん」ちっとも軽くないライトノベルも紹介される。こじらせ系男女にオススメ、「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」(入間人間)、これもカドカワ。この面白さは、ちっともライトじゃない、重苦しく狂っている(おまけにヒロインは小学生兄妹を拉致して監禁している)。語り部は筋金入りの嘘つきで、口癖は「嘘だけど」。地の文に紛れ込むモノローグでも嘘をつく。騙されるまいと織り込み済みで読み解くのだが、二重底三重底の物語が明かされるとき、見事に一本背負いを食らう。舐めてかかると火傷する一冊。
女生徒A「そんなエッチな質問には答えられません!!」
女教師「…ではBさん答えて」
女生徒B「それは目の虹彩です。周囲が明るくなると膨張します」
女教師「よくできましたBさん。そしてAさん、あなたに二つのことを忠告します。一つ目はちゃんと予習しておくこと。二つ目は、そんな理解だと、将来きっと後悔することになるわよ」
今回は、ダ・ヴィンチさんの取材が入った。広告ライクな「読書会」の紹介をするんだそうな。今回のは9月6日発売号に掲載されるらしいから、首長く楽しみにしてる。
さて次回のイベントは次の通り。ふるってご参加あれ。全部facebook経由の申込みだけど、アカウントが無い方はtwitter越しにやすゆきさんにつぶやいてくださいませ。
8/4 13:00-15:00 「子どもと一緒にドキドキを味わう」お話会
ホラーのスゴ本オフを同じ日の夜に開催しますが、その前に子連れで「ドキドキする本」を味わう会をやります。コワい本というのではなくてドキドキする本。お子さん連れて遊びながら読み聞かせのプロにドキドキするお話を語ってもらいます。参加費500円(ジュース、おやつ代)。定員20名くらい。もちろん、子連れじゃなくても大きいお友だちだけの参加OK。(本格的にコワイ本は第2部でw)
8/4 17:00-22:00 スゴ本オフ「ホラー」
オトナ限定のガチホラー。参加費2000円(お酒、軽食代)。定員20名くらい。
8/25 13:00-19:00 スゴ音ワークショップ:最新の音楽事情を体験する
音楽著作権の勉強会の第2弾として「音楽を作る側の最新事情」を知るためのワークショップ。KORGの人に最新のシンセを持ってきてもらったり、PCで作曲する人に作曲の方法を見せてもらったり、ギター弾きさんに二胡弾かせたり、いろいろやります。ボーカロイドのPさんも来るかも。参加費千円。
8/26 15:00-21:00 スゴ本オフ「音楽」
スゴ本オフ、音楽の本の会です。場所はKWCさん。参加費2千円です。当然ですが、音楽の本だけじゃなくて「音楽」そのモノもアリです。CDもDVDも。放流できない本やCDは紹介するだけでもOKです。定員20名くらい。開始時間はひょっとすると早まる可能性アリ。
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コメント
確かにカドカワは「読書は娯楽だ!」という感じですね
思い返してみるとフォーサイス以外カドカワの海外作家の作品を
読んだ記憶がないので「海外の秀逸モノ」を少しずつ読んで
いこうと思います。
投稿: ラッキーマン。 | 2012.06.27 05:58
私も本が大好きなので、とっても参考になる記事ありがとうございます!うそつき~買ってみます^^
投稿: 芸能通 | 2012.06.27 15:21
「アラビアの夜の種族」真にファンタスティックな物語を、久々に読みました。
奇しくも角川シバリのスゴ本オフを催されたことで、思い出したことがあります。
「面白いは正義」も、突拍子もないことをすることもあり、角川でもその昔、「呪いの王 バテク王物語」としてW.ベックフォードの「ヴァテック」を文庫で出してたんです!
「アラビアの夜の種族」ほどの物語の分厚さはありませんが、このゴシック文学の傑作が「ゴシック名訳集成・暴夜(アラビア)幻想譚」(学研M文庫―伝奇ノ匣)として、今でも楽しめるのは幸せなことです。
投稿: oyajidon | 2012.06.27 22:20
「アラビアの夜の種族」
2-3年かけて読んでいてようやく読み終わるところですが、こんなに時間がかかったのは
自分が期待したのとは違うというコレジャナイ感で。詩集ですが高校のころに読んだルパイヤートのほうが面白かったような。
「シャングリ・ラ」、「図書館戦争」
原作は違うのかもしれないですが、どちらもアニメの方を見た感じでは、変に思想がかっていてそこの詰めが甘いような印象でした。
「STEINS;GATE」
XBOX360版でやりました。これはオススメ。
途中まではあのノリについていけないと脱落しやすいかもしれないですが。
角川だとかつてホラー文庫とかがんばってた気がしますが、今はラノベのほうが勢力強いですよね…
今回のラインアップで未読のものだとやっぱり劇薬系が気になります…
投稿: kartis56 | 2012.06.28 19:09
>> ラッキーマン。さん
はい、カドカワ海外勢はクセの強いものが多いですが、「面白さ」という基準で選ばれている印象です。「リーダビリティの高い~」でもなく、「網羅的に資料として~」でもなく、「面白いかどうか」がキーでしょう。コエーリョ「アルケミスト」なんて、良く錬られた物語として面白く読めるくせに、凡百の自己啓発本を凌駕する気づきが得られるでしょう。反対に、自己啓発本として学ぶ気でいると肩透かしをくらうでしょう。
>> 芸能通さん
実は「嘘つき~」は2冊ある罠。「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」と、「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」なのです。どちらも面白くてグっと来ることでしょう。
>> oyajidon さん
オススメありがとうございます、嬉しいことに未読です。amazon でプレミア価格がついており、近所の図書館も軒並み見つからない―――ですが、なんとしてでも読みたいですな。そして、「ゴシック名訳集成」のシリーズそのものも気になる…古書店めぐりに楽しみが増えました。
>> kartis56 さん
コメントありがとうございます。「ルバーイヤート」はイスラームなのに仏教に通じる無常観がいいですね(わたしのレビューは以下の通り)。「シャングリ・ラ」のアニメは、原作小説を読んだ方の感想は「不十分」だそうです(濃さが違うとのこと)。ライトノベルは別の場のテーマにするつもりですが、イイのがあったら教えてくださいませ。
無常観のリマインダー「ルバーイヤート」
https://dain.cocolog-nifty.com/myblog/2009/11/post-eee0.html
投稿: Dain | 2012.06.28 23:18
貴志祐介ファンとしては「青い炎」のノミネートがなかったのは残念…(他のスゴ本特集で取り上げられていたような気もするけど)。
次回のホラーで「黒い家」や「天使の囀り」が取り上げられることを期待。
投稿: ふじ | 2012.06.28 23:32
>>ふじさん
「青い炎」と「黒い家」は以前のスゴ本オフ(かその後の飲み会)で強力にプッシュされていました。もし未見なら、映画「黒い家」をオススメ。大竹しのぶが強烈すぎて、原作を上書きする勢いなのです。
投稿: Dain | 2012.06.30 08:33