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これ読んでも嫁を言い負かすのはたぶん無理「彼女を言い負かすのはたぶん無理」

彼女を言い負かすのはたぶん無理 夫婦だから喧嘩ぐらいする。だが、これまで一度たりとも勝てなかったし、何度やっても勝てる気がしない。嫁さんに限らず、オンナと口論して言い負かすなどとは、おこがましいのかもしれぬ。議論の勝率と、主張の正当性の距離は反比例するからなぁ。

 わたしの戦法はスタンダードな二つ、「前提を疑う」「論旨の誤りを指摘する」だ。前提や定義に疑義をはさみ、誤った一般化や藁人形を挙げ、「だから詭弁だ」に落とす。嫁さんはもっとシュールだ→「あんたはアタシを怒らせた、故にギルティ」(承太郎メソッドともいう)。

 では、ケンカではなくディベートなら? というのが本作になる。「ラノベ+ディベート」の組み合わせは斬新でユニークで二度おいしい。「ディベート部」なる部活に巻き込まれる高校一年男子の主役。ヘタレな主人公が、変な美少女に振り回されるのはお約束どおり。

 だが、そこらのラノベと違うのは、このヘタレが「自分で」非日常を選びとるところ。序盤は典型的な「巻き込まれ型」なのに、途中で「ゾクゾクする瞬間」に走るのだ。開始一行目で「人生は平凡だ」と断言し、開始一頁目でハルヒとバカテスを完全否定する主人公だよ。この葛藤というか変遷が面白い───何が彼をそうさせたか?

 それは、ディベートの魅力。相手の論旨の前提や展開に揺さぶりをかけ、トドメの寸鉄で心証をひっくり返す。これ、「たくさんの人を前に主張する」をやったことがある人なら分かるはず。あふれ出るアドレナリンと、アップテンポに急拍するハート、緊張感MAXから解き放たれたときの開放感は、一度味わったらやめられない。吊り橋効果と一緒で、ペア組んだ相方が"恋"とカンチガイするのもお約束。

 ラノベのフォーマットを守りながら破って離脱しない「いさぎ悪さ」も面白い。地の文が主人公の内省なのはラノベちっくだが、そこに「俺」「僕」「私」を、(恣意的だと思うが)入れない(必要なときは主人公の姓"桜井"が入る)。つまり、地の文に内なる声と三人称の描写が混在するのだ。これは読みづらい&独特かも。

 ディベートのテーマ「ファーストキスが許されるのは小学生まで」がストーリーに絶妙にからんでいるのに悶死する(もちろんネクラ(死語)な高校生活を送っていましたが何か?)。この桜井クンのように、平凡な日常より非凡な日常を求め、もっと楽しい予感に手を伸ばしたなら、別の高校生になってた……ワケないか。

 ちょっとアレンジしているが、ディベートの方法やテクニックを紹介しているのもいい。ま、これ読んでも嫁を言い負かすのはたぶん無理かもしれないが、表紙の女の子を言い負かすのはぜったい無理。

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