大学入試問題で語る 数論の世界
素数、完全数、ゼータ関数…数論の入門書は多々あれど、料理の仕方が素晴らしい。大学入試問題を俎上にのせ、次々と問題を解くことで、数論の深さと美しさを堪能するのだから。
高校生なら受験勉強を兼ねた好著になるが、むしろ本書は受験を終えた人にオススメ。受験勉強として通り過ぎるには勿体ないから。かくいうわたしこそ、学び直すべき。「数学は暗記科目」と割り切ってチャート式をひたすら"覚えて"しのいでしまったからなぁ。
そして本書は、「問題を解いて終わり」ではない。解いた後、問題が語りかけている世界の本質を知らせるよう、問題を「改変する」のだ(ここが面白い&恐ろしい)。面白いというのは、ほんの一部を変えるだけで難問になりかわり、全く異なるアプローチを要するところ。さらにちょっとヒネるだけで、大学入試問題が、今なお解決されていない問題に大化けする。数論の先端を知るとともに深淵を覗き見たような気分になる。
たとえば、2006年の京都大学のこの問題。
2以上の自然数nに対し、nとn^2+2がともに素数になるのは、n=3の場合に限ることを示せこの解法はすんなり入れた。
n=2のとき n^2+2=6
n=3のとき n^2+2=11 ←これだけ素数
n=5のとき n^2+2=27
n=7のとき n^2+2=51=3・17
n=11のとき n^2+2=123=3・41
n=3以外は3で割り切れるように「予想」できる。なので、nを3で割った余りで分類するのだ。n≧5のとき、nが素数であることから、n=3k+1、n=3k+2の2つの場合がある。
n=3k+1のとき
n^2+2
=9k^2+6k+3
=3(3k^2+2k+1) ←これは3の倍数
n=3k+2のとき
n^2+2
=9k^2+12k+6
=3(3k^2+4k+2) ←これも3の倍数
で京大が解けてめでたしメデタシ…ではない。著者はさらに条件を締めて「n^2+2が素数となるのはどのような場合か」を考える。等差数列、つまり自然数nの一次式{an+b}について、aとbが互いに素であるならば、この中に素数が無数にあるというディリクレの算術級数の定理を引き合いに出した後、まだ分かっていないというのだ。
代数的に見れば何もいうことはない式なのに、これを素数という観点から眺めると荒野に放り出されるらしい。ただ、不思議なことに、楕円曲線と関係があることは分かっているとのことなので、数論はいくらでも遊べそうだ。
その時代のトレンドを映した問題もある。1998年の信州大学なんてそうだ。フェルマーの最終定理のニュースを受けて、こんな問題がある。
フェルマーの定理を知らないものとして、次を証明せよ。「x,y,zを0でない整数とし、もし等式x^3+y^3=z^3が成立しているならば、x,y,zのうち少なくとも一つは3の倍数である」もちろん問題を出す人も解く人も、フェルマーの最終定理が完全に証明されたこと、その証明は複雑すぎてとても入試問題にならないことを知っている(はず)。でもそいつを和らげて(n=3)、ちゃんと問題に仕立てているのは面白い。これは背理法で解けるので、お試しあれ(p.80)。
完全数や黄金比、パスカルの三角形、フィボナッチ数列あたりまでは楽しめたが、ゼータ関数やリーマン予想は歯が立たなかった。「数学ガール」を読み直そう…

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