ミステリとして食う「ハムレット」
「死ぬまでに読みたい」シリーズ。有名すぎる復讐劇だが、これをミステリとして読むと、緊迫した心理戦になる。
WhodoneitやHowdoneitは隠しようもなく描かれてしまっているから、Whydoneitを考えなおす。台詞の表層を裏読みし、一貫した別の動機をあぶりだす。ポイントはここ→「父の亡霊を信じたか/信じなかったか」この二択のどちらを選ぶかによって、王子ハムレットの台詞が、まるで違う様相を帯びる。「善いも悪いも、考えひとつ」と、価値観の相対性をうそぶくハムレット自身に、同じ相対性をつきつけるのだ。
もちろん流して読めば、父の亡霊から陰謀を知り、復讐に燃えるハムレットの葛藤の話になる。だが、二度読みされる方は、「亡霊を信じない」ハムレットという目で見るがいい。
すると、彼の葛藤は、母を奪った叔父への嫉妬が生んだ幻想になる。父の葬式と母の結婚式という、受け入れがたい現実を説明する物語の語り部として、亡霊が生まれたと考える。そして、最初は自ら(の精神)を疑っていた目を、次第次第に叔父に向け、劇中劇という罠を仕掛ける。結果からすると、"幻想の亡霊"が告げたことは真実なのだが、そこへの過程が捻れているわけ。
いや、亡霊は他の連中も見たんだから「いた」んだよ、というツッコミは有り。だが、亡霊を信じられない(でも信じたい)と苦悩していたとするなら?「しゃべらずにいれば、言葉は自分のもの。しゃべってしまえば、他人のもの」の諺のとおり、しゃべらずに(しゃべれずに)疑惑を抱え込んだまま彷徨っていたとするならば?
そして半ば信じ、半ば疑いながらクライマックスへなだれ込む。すべてが明らかになるのは、明らかに手遅れとなってから。
おまけ。岩波文庫ハムレットで、注釈のありがたさ(と時代性)を思い知る。世相としての「厚底ブーツ」が引き合いに出されるのを見ると、時代は急速に変わっているなぁと感じさせられる(今では絶滅種)。また、注釈「求愛行動を戦争用語で表わすのは、この時代の常套。女は城、求愛をする男は城攻めの敵軍のイメージ」を読むと、あの有名な2ちゃんねら名言を思い出す。男女の普遍性なのか、それともインテリねらーだったのか、想像すると笑える。
童貞ってなんで馬鹿にされるの?
処女:敵の進入を許したことのない堅城
童貞:敵の城を攻めたことがない兵士
次は、光文社のQ1や白水Uも照らしてみよう。
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コメント
いつも拝見させていただいております。
この度、まとめ野郎Aチームというサイトを作りました。
もちろんDain様のこのブログも
http://matome-a.net/book
のところにリンクさせていただきました。
もしよければ相互リンクなどしていただけると大変嬉しいです。
いきなりあつかましくてすいません。
それでは、失礼いたします。
投稿: まとめ野郎Aチーム | 2012.04.25 16:20
>>まとめ野郎Aチームさん
コメントありがとうございます。
相互リンクはやっていないのでスミマセン…
投稿: Dain | 2012.04.26 23:32