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本好きが選んだ新潮文庫の160冊

 好きな本を持ち寄って、まったりアツく語り合うスゴ本オフ。今回のテーマは「新潮文庫」。ジャンル不問・冊数未定でありながら、やってみるとむつかしい。

 なぜと問うなら、自分の書棚と脳裏を浚ってみるといい。文芸、海外、歴史、冒険、SF、純文、対談、ミステリー、ファンタジー、ドキュメンタリー、エッセイ、記憶から積山から、懐かしの一冊から流行りの新刊まで、いくらでも出てくるから。ありすぎて選べないのだ。

 それでもムリヤリ選んだのが、「この新潮文庫がスゴい!(徹夜小説編)」。これは「新潮文庫」+「寝食忘れる徹夜本」という組み合わせで厳選したもの。そして、人力検索はてなで質問したのが、「『この新潮文庫がスゴい!』という、あなたのオススメを教えてください」になる。わたしの偏見「理系のはてな」を跳ね返す文理入り乱れの怒涛のラインナップが揃った。

 そして、実際にみんなで語り合ったのがスゴ本オフ。新潮文庫の良さ(と悪さ)をぶちまけながら、新潮文庫の中の人の熱い想いを聞きながら、濃密なひとときを味わう。読書体験の思い出だったり、節目節目での気づきだったり、さまざま。わたしも読んだ同じ一冊が、記憶の媒体というか"とっかかり"となっているのが面白い。根岸さんのこのコメントが、素晴らしいまとめ。

今夜のスゴ本オフでわかったのは、新潮文庫ってどの世代にとっても青春の記念碑なんだということ。文学とエンタメの境目で、僕らに素敵な世界を案内導き続けてきてくれた。これからも、よろしくお願いします
 まぁ見てほしい、大人が選んだ新潮文庫を。

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 そう、新潮文庫はどの書店にも必ずあって、ハズレが無い。しかも安い(想像力と数百円)。間口の広さは、子どもが本の世界に入る最初の(自分で買う)一冊になるし、読み巧者なベテランには古典や新ジャンルを開拓するトバ口になる。「新潮文庫は人生の教科書、これなくして大人になれなかった」とか、「わたしの十代と二十代は、新潮文庫で出来ている」など、名言炸裂してた。

 ただし、いいことづくめでもない。熱血気味にオススメしたいのが絶版だったりすることが多々ある。わたしのマイベスト新潮文庫「シャドー81」「大聖堂」は、現在では他社が扱っている。「なんで絶版なの?」愚痴気味に尋ねると、新潮文庫の中の人曰く「全国書店の棚は有限なのに、毎月20冊新刊が追加される、どこかで涙を飲まにゃならんのです」とのこと。編集と営業で「絶版vs重版未定」のせめぎ合いがあるようだ。

 裏話というか、興味深いことを聞いた。新潮文庫の裏表紙にある「あらすじ」、あれは176文字なんだそうな。ここを書くのは編集者の仕事で、ネタバレを回避しつつ「読みたい!」気分をソソるよう上手にまとめるのが腕の見せ所だ。編集者の熱量(と力量)を知るには、「ここが176字ピッタリか」に着目する。情報量を詰め込んで、176字を使い切っているほど(編集者の熱量と力量が)良いらしい。

 オフ会で、ブログで、はてなで、twitterで、「この新潮文庫がスゴい!」をテーマに集まったものを並べてみる。本好きが選んだ新潮文庫たちだ。

 もちろん分かってる。「これが入ってない!」「あれを入れないなんて!」と言いたいでしょうに。だが、それはきっと、あなたの青春の一冊なんだ。

  • 「軍艦長門の生涯」阿川 弘之
  • 「最後の恋」阿川 佐和子ほか
  • 「砂の女」安部 公房
  • 「他人の顔」安部 公房
  • 「ゴールデンスランバー」伊坂 幸太郎
  • 「ダレカガナカニイル…」井上 夢人
  • 「孔子」井上 靖
  • 「勝ち続ける力」羽生 善治・柳瀬 尚紀
  • 「沈黙」遠藤 周作
  • 「海と毒薬」遠藤 周作
  • 「哀愁の町に霧が降るのだ」椎名 誠
  • 「コンスタンティノープルの陥落」塩野 七生
  • 「ローマ人の物語(ハンニバル編)」塩野 七生
  • 「ローマ人の物語(ユリウス・カエサル編)」塩野 七生
  • 「球形の季節」恩田 陸
  • 「上と外」恩田 陸
  • 「こころの処方箋」河合 隼雄
  • 「蜘蛛の糸・杜子春」芥川 龍之介
  • 「ワイルドソウル」垣根 涼介
  • 「星虫」岩本 隆雄
  • 「零式戦闘機」吉村 昭
  • 「関東大震災」吉村 昭
  • 「羆嵐」吉村 昭
  • 「あかんべえ」宮部 みゆき
  • 「火車」宮部 みゆき
  • 「レベル7」宮部 みゆき
  • 「流転の海」宮本輝
  • 「螢川・泥の河」宮本輝
  • 「最長片道切符の旅」宮脇 俊三
  • 「完全復刻・妖怪馬鹿」京極 夏彦
  • 「溺れる魚」戸梶 圭太
  • 「流れる」幸田 文
  • 「神様のボート」江國 香織
  • 「ベルリン飛行指令」佐々木 譲
  • 「エトロフ発緊急電」佐々木 譲
  • 「双頭の鷲」佐藤 賢一
  • 「国家の罠」佐藤 優
  • 「ア・ルース・ボーイ」佐伯 一麦
  • 「あんちゃん、おやすみ」佐伯 一麦
  • 「カリスマ―中内功とダイエーの『戦後』」佐野 眞一
  • 「絶対音感」最相 葉月
  • 「風が強く吹いている」三浦 しをん
  • 「豊饒の海」三島 由紀夫
  • 「鏡子の家」三島 由紀夫
  • 「クラッシックホテルが語る昭和史」山口 由美
  • 「不毛地帯」山崎 豊子
  • 「沈まぬ太陽」山崎 豊子
  • 「ぼくは勉強ができない」山田 詠美
  • 「累犯障害者」山本 譲司
  • 「梟の城」司馬 遼太郎
  • 「歴史と視点」司馬 遼太郎
  • 「峠」司馬 遼太郎
  • 「飢えて狼」志水 辰夫
  • 「隠密利兵衛」柴田錬三郎
  • 「雪舞い」芝木 好子
  • 「ウルトラダラー」手嶋 龍一
  • 「薬指の標本」小川 洋子
  • 「恋」小池真理子
  • 「夜ごとの闇の奥底で」小池 真理子
  • 「柩の中の猫」小池 真理子
  • 「屍鬼」小野 不由美
  • 「サクリファイス」近藤 史恵
  • 「白鳥の歌なんか聞えない」庄司 薫
  • 「全国アホ・バカ分布考」松本 修
  • 「孤高の人」新田 次郎
  • 「芙蓉の人」新田次郎
  • 「ヰタ・セクスアリス」森 鴎外
  • 「そして二人だけになった」森 博嗣
  • 「ホワイトアウト」真保 裕一
  • 「縛られた巨人──南方熊楠の生涯」神坂 次郎
  • 「本格小説」水村 美苗
  • 「水木しげるの日本妖怪紀行」水木 しげる
  • 「BRAIN VALLEY」瀬名 秀明
  • 「妖精配給会社」星 新一
  • 「ボッコちゃん」星 新一
  • 「桶川ストーカー殺人事件」清水 潔
  • 「パーマネント野ばら」西原 理恵子
  • 「4TEEN」石田 衣良
  • 「国防」石破 茂
  • 「幽霊屋敷の電話番」赤川 次郎
  • 「雪国」川端 康成
  • 「掌の小説」川端 康成
  • 「五郎治殿御始末」浅田 次郎
  • 「蝦夷地別件」船戸 与一
  • 「アマノン国往還記」倉橋 由美子
  • 「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」村上 春樹
  • 「一瞬の夏」沢木 耕太郎
  • 「深夜特急」沢木 耕太郎
  • 「細雪」谷崎 潤一郎
  • 「剣客商売」池波 正太郎
  • 「剣聖」池波 正太郎ほか
  • 「夫婦茶碗」町田 康
  • 「そこに僕はいた」辻 仁成
  • 「魚雷艇学生」島尾 敏雄
  • 「夏の庭」湯本 香樹実
  • 「笑うな」筒井 康隆
  • 「家族八景」筒井 康隆
  • 「虚航船団」筒井 康隆
  • 「私説博物誌」筒井 康隆
  • 「旅のラゴス」筒井 康隆
  • 「ロートレック荘事件」筒井 康隆
  • 「用心棒日月抄」藤沢 周平
  • 「鋼鉄の騎士」藤田 宜永
  • 「そして殺人者は野に放たれる」日垣 隆
  • 「しゃばけ」畠中 恵
  • 「スクールアタック・シンドローム」舞城 王太郎
  • 「葬送」平野 啓一郎
  • 「決壊」平野 啓一郎
  • 「日蝕」平野 啓一郎
  • 「カンバセイション・ピース」保坂和志
  • 「この人の閾」保坂和志
  • 「消された一家」豊田 正義
  • 「楡家の人びと」北 杜夫
  • 「凶笑面」北森 鴻
  • 「触身仏」北森 鴻
  • 「写楽・考」北森 鴻
  • 「月の砂漠をさばさばと」北村 薫
  • 「スキップ」北村 薫
  • 「河童が覗いたインド」妹尾 河童
  • 「河童が覗いたヨーロッパ」妹尾 河童
  • 「日本仏教史」末木 文美士
  • 「文人悪食」嵐山 光三郎
  • 「西の魔女が死んだ」梨木 香歩
  • 「死ぬことと見つけたり」隆 慶一郎
  • 「一夢庵風流記」隆 慶一郎
  • 「鬼麿斬人剣」隆 慶一郎
  • 「マイブック」
  • 「朽ちていった命――被曝治療83日間の記録」NHK「東海村臨界事故」取材班
  • 「アシモフの雑学コレクション」アシモフ
  • 「ロリータ」ウラジミール・ナボコフ
  • 「ウンベルト・エーコの文体練習」ウンベルト・エーコ
  • 「人はなぜエセ科学に騙されるのか」カール・セーガン
  • 「冷血」カポーティ
  • 「異邦人」カミュ
  • 「りっぱな犬になる方法」きたやま ようこ
  • 「シャンタラム」グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ
  • 「リプレイ」ケン・グリムウッド
  • 「大聖堂」ケン・フォレット
  • 「蝿の王」ゴールディング
  • 「フェルマーの最終定理」サイモン・シン
  • 「暗号解読」サイモン・シン
  • 「宇宙創成」サイモン・シン
  • 「ナイン・ストーリーズ」サリンジャー
  • 「ママ・アイラブユー」サローヤン
  • 「人間の土地」サン=テグジュペリ
  • 「最後の晩餐の作り方」ジョン・ランチェスター
  • 「ゴールデンボーイ」スティーヴン・キング
  • 「クージョ」スティーヴン・キング
  • 「ダーシェンカ」チャペック
  • 「カラマーゾフの兄弟」ドストエフスキー
  • 「ハンニバル」トマス・ハリス
  • 「ホース・ウィスパラー」ニコラス・エヴァンス
  • 「優しい関係」フランソワーズ・サガン
  • 「報復」フリーマントル
  • 「朗読者」ベルンハルト・シュリンク
  • 「風と共に去りぬ」マーガレット・ミッチェル
  • 「ストーンシティ」ミッチェル・スミス
  • 「白鯨」メルヴィル
  • 「赤毛のアン」モンゴメリ
  • 「かもめのジョナサン」リチャード・バック
  • 「シャドー81」ルシアン・ネイハム
  • 「ジャン・クリストフ」ロマン・ロラン

 ちなみに、わたしのイチオシ最新は、「シャンタラム」。新潮文庫の翻訳物編集者が選ぶオールタイムベストらしいが、さもありなん。鉄板の面白さなので、必ず三冊そろえてから読むこと(これより面白いのがあったら、逆に教えて欲しい、喜んで読むから)。そして、裏表紙の「あらすじ」はネタバレ全開なので、一切見ることなしの予備知識ゼロでハマってくれ。そうそう、「河童が覗いたインド」が傍らにあるといいかも。

シャンタラム1シャンタラム2シャンタラム3

 おまけ、若鶏のグリルレモン添え。ジューシーさと酸味が相まった絶品で、ワインがいくらでも入りました(ごちそうさまでした)。他のご馳走は、やすゆきさんのレポートは「新潮文庫シバリのスゴ本オフ」は名作ぞろいで最高だったし、なかのひとイヂリが楽しかった件からどうぞ。

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 参加いただいた方、ありがとうございました。次回は「女と男」でやりますぞ。


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コメント

筒井康隆の「家族八景」が2回出てきてたぞw
個人的にこの作品はちょっと苦手
面白いけど、読んでて人間というものが不快になる作品だった

投稿: | 2012.03.20 16:42

確かに新潮文庫にはお世話になってます。

個人的にはガルシア=マルケスの「予告された殺人の記録」が印象深いかな。
小説を物語だけじゃなくて、構成力とかそういう観点から観てみようと思い始めたころで、あの構成にはただただ感服するばかりでした。

投稿: 千歳飴 | 2012.03.20 21:22

そうですねー、絶版、多いですよねえ
絶版の憂き目にあったスゴ本だけで夏100を開催できそうです。

ところで裏表紙のあらすじのくだりで思い出したのですが、ほかならぬ新潮文庫の、久世光彦『聖なる春』のあらすじが気合入ってて本屋で手に取ったときには思わず見入ってしまいました。本とのこういう類いの出会いかたはめったにないので強く印象に残っています。内容も素晴らしかったです。
ちなみに数えてみれば(ちょっとズルしてるけど)176字スペースきっかり。

しかし、絶版…なかなか人に薦められねえ…

投稿: | 2012.03.20 22:27

>>名無しさん@2012.03.20 16:42

カブってごめんなさい。重複を避けるよ気をつけてたのに。「人間というものが不快になる作品」って、誉め言葉です。「隣の家の少女」とどれくらいガチンコできるか楽しみですね。

>>千歳飴さん

「予告された殺人の記録」は一度だけ読んでいますが、構成の妙まで意が回りませんでした。再読して確認します。マルケスの構成のスゴい奴なら(有名どこですが)「百年の孤独」を思い出します。神話の中に小さい神話が畳み込まれている様子は、コッホ曲線そのものだし。

>>名無しさん@2012.03.20 22:27

176字のオススメありがとうございます。その本は未読です、まずは図書館で探してみますね。絶版本の恨み辛みは言いたいことがたくさんありますが、出す方の事情を聞くとなんとも言えなくなったり。

投稿: Dain | 2012.03.20 23:33

「河童が覗いたインド」も2度出てきてます。
私の一冊は、椎名誠「哀愁の町に霧が降るのだ」。

投稿: | 2012.03.21 21:12

『「絶対音感」最相 葉月 』が2回出てきています。
私の一冊は近藤 史恵「サクリファイス」!
面白いエントリーをありがとうございました。

投稿: tatsuya24mt | 2012.03.22 20:09

>>名無しさん@2012.03.21 21:12
>>tatsuya24mtさん

ご指摘ありがとうございます、重複を消してオススメを追加して、著者名順にソートしました。このリスト、順々に消化していこうかと。

投稿: Dain | 2012.03.23 00:17

こんにちわ~
こういうイベントも何だか面白そうですね(`・ω・´)

ニューヨークの遊び方 : ニューヨークで開催中の人気フィクション本のトーナメント大会、Book Madness?!
http://blog.excite.co.jp/nyliberty/18020695/

投稿: らいおん | 2012.03.26 10:22

>>らいおんさん

これは面白い!「本のバトル」なんですね。
「勝敗は一般投票で決定する方式なので、アウト・オブ・プリントが決めてる分けじゃない」とありますが、このプレゼン方法だと、どうしても表紙のカッコよさに目がいってしまいそう…

「スゴ本オフ」は、"勝負"や"ランキング"から距離をおいていますが、別の企画としてやってみたいです。

投稿: Dain | 2012.03.27 00:40

はてなブックマークからきました

とても参考になりました

ありがとうございます

投稿: ユッキー | 2013.05.03 11:12

なるほど

参考になりました

他の記事も拝見させていただきます

ありがとうございます

投稿: 毒舌野郎 | 2013.05.05 22:42

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■徹夜したり週に5時間以下しか寝ない人は、血中アルコール濃度0.1%に相当します。人によっても違いますが、ビールでいうと大びん1~2本飲んだ状態。つまり、睡眠不足で仕事をしている人は、「頑張っている人」...... [続きを読む]

受信: 2012.03.22 02:10

» [雑記] [ネットの端で、待ち合わせ]
本好きが選んだ新潮文庫の160冊がすごい。でもそんなに読めねぇ。今まで読んだことがあるのは 孤高の人 カラマーゾフの兄弟 ヰタ・セクスアリス 蜘蛛の糸・杜子春 海と毒薬 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド そして二人だけになった だけです。どれもはずれなし... [続きを読む]

受信: 2012.03.22 20:33

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