手塚治虫の戦争ポルノ「人間ども集まれ!」
戦争ポルノ(war porn)なる言葉がある。安全で暖かいところから、ネット越しで、冷酷で残虐な戦場を観覧する。一種の恐いもの見たさで、いかがわしい好奇心を満たしてくれる。無人偵察機が写したり、収容所で隠し撮りされた映像を後ろめたい気分で眺めていると、つくづく戦争はショーなんだと痛感する。
戦争をショーだと喝破したのは、何もわたしが初めてじゃない。いまどきの人なら、森博嗣or押井守の「スカイ・クロラ」だろうが、残念!積山の中。オッサンなわたしは「銀河鉄道999」のライフル・グレネードのエピソードを思い出す。これは本物の戦争を観光資源としている話だ───なんてつぶやいていたら、当たりを教えてもらう。手塚治虫の「人間ども集まれ!」だ(ありがとうございます、ひできさん)。
ナンセンス風刺とでもいうべきか。太平洋戦争~ベトナム戦争、冷戦の時代を映し替え、セックスとバイオレンスとギャグてんこ盛りの"問題作"となっている。今だと発禁レベルの、口に出しにくい差別を容赦なく扱っており、嘲笑(わら)うにはちちょっとした度胸が必要だ。
人と違った精子を持った主人公が、人工授精の実験材料にされ、そこから「製造」される新人類は、男でも女でもなかった───という展開なのだが、丸出しの悪趣味に辟易する。手塚センセ、抑圧されてたのかしらん、それとも、あの三丁目の夕日の時代こそ俗悪リミッターカットされてたのかも。いずれにせよ、今では書くことも読むこともためらわれる作品だ。
ここでは完全に戦争はショー化される。もちろん、リアルだってそうだ。一糸乱れぬ隊列やトレーラーに積んだ弾道ミサイルのパレードは、国威の"見せびらかし"だ。戦闘機のアクロバットや艦隊の洋上演習は、それだけの戦争能力があることを内外に見せるため。だが本書ではもっと大がかりで、ホンモノの戦争を引き起こすことで、「それだけの戦争能力の担い手を作り出すことができる」ことを見せびらかそうとする。
口上はこうだ。
あなたがたのお国が戦争をなさる
戦争には人間が必要だ しかも、死んでもいい人間が!
そいういう人間や軍隊を、
私どもの国では格安にお売りしてるんですよ!
規律正しく
忠実で勇敢で
死を恐れない
無性人間!
米ソ両方が買ったため、ベトナムでは南北に分かれ、冷戦の代理戦争の代理として戦うなんて外道そのものやね。弾よけ扱いされていた黒人は大喜び、なぜなら黒人の弾よけになるから、なんてキツすぎるブラックだ。
人間の代理戦争を任されるほど「生産」され、地球に広まった無性人間が、次に何をするか───カタストロフの予想どおりなのだが、ラストはちょっと切ない。
手塚治虫の狂気の極北を眺めつつ、戦争とは「見る」ものなのだと、あらためて知ることができる。「スゴ本オフ@戦争」にて、わたしがプレゼンした一冊なのだが、あまりにキッチュでオススメしにくいかも。
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コメント
初めまして、本のセレクトに置いて参考にさせてもらってるものです。主には感謝しています。
ですが、いつも主の話し方はとても偉そうに見え不満に思えます。なんというか本を読んでると偉いような選民思想的なものが文から滲み出てると思います。
主も面白い本を求めたくさんの方々に意見を求めている時がありますが、失礼過ぎやしませんか? 時間を惜しんでオススメの本を教えて下さる方に対して端的に「その本は好きになれそうになれない」だの「その作者は嫌い」だの、取捨選択はもちろん自由でしょうが謝辞くらいかけたらどうですか? ごめんなさい、ありがとう、それを付け加えるくらいしましょうよ。いくら本を読もうと礼儀を忘れると幼稚もいいとこです。
それと作家さんを馬鹿にするような表現はやめてもらいたい。自分も作家志望なので読ませていただいた作家さんを馬鹿にされるのは耐えられません。批評は自由ですが作家を蔑ろにするような言い方は控えていただきたい。
私が言うのも偉そうに聞こえるかもしれませんが、今のままの貴方は本を読んでるだけで実際には想像力のない人間に見えすよ。それなら私は一冊でもその本をとても愛してる常識人の方がよく思えます。
気分を害したなら謝ります。二度になりますが本のセレクトにおいて参考になり感謝しております。長文失礼です。
投稿: alive | 2012.02.13 17:28
>>aliveさん
ありがとうございます、耳に痛いです。
が、ご指摘の通りです(だからこその感謝です)。
エラそうなのは一種の煽りで、よりスゴい本をオススメいただくための方便と解釈いただければと存じます。「その本がスゴいのなら、コレは?」というツッコミこそありがたいです。
投稿: Dain | 2012.02.14 00:36