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最優秀の集大成「ピュリツァー賞 受賞写真 全記録」

ピュリツァー賞受賞写真全記録 凡百の言葉よりも選一の写真が雄弁だ。そんな最優秀を集大成した一冊。

 米国で最も権威あるピュリツァー賞、その受賞写真を年代順に眺める。ベトナム戦争、冷戦、アフリカでの紛争、イラクやアフガニスタンと戦争報道が多いのは、米国の国際的関心とフォトジャーナリズムの潮流が同期していたから。地震や噴火、津波などの災害モノもあり、安全な場所から歴史の現場を垣間見ることができる。

 ただし、内側・地方紙の報道写真も挟み込むように受賞している。井戸に落ちた乳児が救出される瞬間を捉えた一枚とか、大柄な赤ん坊を産み終えた直後の母親の笑顔とかに出会うとホッとする。パレードの交通整理をしている警官が、小さな子どもと目線を合わせている微笑ましいショットなんて、見てるこっちの頬がゆるむ。

 共通しているのは、一枚で全てを物語っているところ。出来事の背景や状況の説明、カメラマンのプロフィールから撮影情報まで記載されている。だが、そうしたキャプション抜きで、"起きていること"がダイレクトに伝わってくる。撮り手のメッセージ性は見えにくいが、ひたむきな"伝えたい"は熱いほど感じる。

 ショッキングなやつもある。たとえば公開絞首刑の図。ニヤニヤしている"観客"を背景に、ぶらぶらしている死体に椅子で殴りかかっている構図は、おもわず目を背けた。あるいは超高層ビルの崩壊。巨大な構造物が真っ二つになり、真ん中あたりから自重で沈む様子は、(何度も目にしたにもかかわらず)カタストロフを直接受ける。

 見るたび考えさせられた一枚にも再開する。「ハゲワシと少女」だ。スーダンの飢餓を訴えたもので、1993年3月のニューヨーク・タイムズに掲載されると同時に、称賛とバッシングにさらされた一枚だ。飢えた少女がうずくまっている背後で、その死を待ち構えているハゲワシが写っている[google画像検索]

 強烈な批判は報道のエゴイズムに向けられる。「"よい写真"を撮ることを優先し、なぜ少女を助けなかったのか」という問いが突きつけられる(後日、撮影者は自らの命を絶った)。少女の傍らに母親がいたとか、カメラマンは救護センターの場所を少女教えたといった情報をネット越しに聞いたが、"よい写真"は揺らがない。キャプション抜きで成り立っているから。何を入れて何を外すかは撮影者の意思による。写ったものが全てだと思い込むのは無邪気すぎる。だが、写ったものは"伝えたいもの"だ。

 こういった報道写真をもっと見たい。大御所はLIFEか、日本ならアサヒグラフ(休刊中)だろうか。歴史の目撃者の視点眺めると、「世界を変えた100日」になるだろうし、雑誌ならDaysJapan(マグナムフォト)、ネットならBIG PICTUREになる。

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コメント

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。

投稿: 賞罰の履歴書 | 2012.02.19 14:47

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