この本でタバコをやめて十年目
やめた(やめられた)のは、子どものこととか懐具合とか健康を気にしてではなく、この一冊を読んだから。今やコンビニで見かけるほどメジャーになったが、本当に、本当に感謝している。文字どおり、わたしの人生を変えた一冊やね。
10年前のスペック―――文字どおりの「ヘビースモーカー」。マイルドセブンが220円だった頃から始め、マイセン系はカスタムライトまで試し、CASTERのチョコっぽさに辟易し、ピースに浮気して、結局ピースライトに落ち着いた。十年間、一日一箱を守り、さらに開高健の影響でパイプをやっていた(紙巻は肺ガンになりやすい、と信じてた)。「タバコをやめよう」なんて考えたこともなかった。タバコがない人生なんて、考えられなかった。
「読むだけでやめられる」というキャッチで惹かれて立ち読み。タバコと不可分のわたしに対する挑戦だと受け取ったから。さぞや、タバコの害を並べ立ててるんだろうなぁと思いきや、キッパリ裏切られる。真っ黒になった肺の写真も無いし、ガンとタバコの統計といったものも、一切ない。
恐ろしいのは、まえがきを読んだだけで、「やめられるのかも」と思ってしまったところ。千円でやめられるならダメ元だと買ってみる。その日に一読。一日間をおいて、さらに一読―――そして、一本のタバコに火をつけて、ゆっくりと吸い終えた。それでオシマイ。魔法のようにやめられたのだ。
時は流れ、ニコチンパッチやニコチンガムが一般化し、それでも禁煙に苦労している人がいる。が、少なくともここに一人、この一冊だけでやめられたわたしがいる。もちろん誰にでもオススメというわけではない。周りに奨めて読んでもらった3人中3人とも禁煙できなかった。だが、「タバコへの心理的依存」が軽くなることは請けあう。
タバコのメリット・デメリットに自覚的になったのは、タバコをやめてからだ。タバコは有効なリフレッシュ手段で、なおかつタバコ部屋は情報収集にうってつけだった。「タバコのデメリット」は、タバコを日常的に吸っている時代には、ピンとこなかった。「息苦しい」「体や息が臭い」「メシがまずい」「肌が荒れる」といった、タバコの良くないとされている部分が分からなかった。全て、タバコをやめた後、「改善」という形でフィードバックされた。
余得として、「匂い」が戻ってきた。女の微かな妙やかな体臭や、冬でも汗の匂い/臭いを感じられるようになった。もちろん匂いが「見える」わけではないが、濃淡がダイレクトに伝わってくる(匂いは音楽に似ている)。オフィス街を闊歩する女の後ろを少し歩くだけで、ファンデの中から脂を嗅ぎ分けたり、生理直前のアーモンド臭を嗅ぎ当ててウキウキできる(立派な変態ですな)。
この本の効果は、「吸うのをやめる」というよりも、「吸う必要がなくなる」感覚。「食後の至福の一服」とか「タバコでリラックス」といった暗示から解き放たれるのだ。ヒネた言い方でまぜ返すなら、「『タバコのメリットという幻想』からの解放という暗示」にかかったんじゃないの?とツッコムこともできる。だが10年はさすがに長いぜ。
ときおりあの、「喉が渇くような感覚」に襲われることがある。昔なら、タバコが吸いたいという体の反応だ。「タバコを吸っている夢」を見たこともある。ひょっとすると、10年経っても抜けていないのかもしれぬ。この「タバコの暗示」というやつは。
全てのタバコ吸いに捧げる、千円でタバコ依存から解放される(かもしれない)一冊。
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コメント
えー!
密かに凄い話じゃないですか!!
この本でビブリオとか、話を聞きたいですね。
これ、拡散希望でTwitter等に流させて頂きます。
投稿: 間宮亮 | 2011.12.25 22:14
>>間宮亮さん
コメントありがとうございます!
ずっとナイショにしてきたことなんですがね、「ヘビースモーカー」だったこと。でも、そろそろ時効にしてもいいのかと……
投稿: Dain | 2011.12.25 22:25