「ビブリオバトル@紀伊國屋書店」の可能性
オススメ本を語りまくり、読みたい本をみんなで選ぶ「ビブリオバトル」。行ってきた&語ってきた。そして、面白いことに気づいた。書店は、本に会いに行くのではなく、人に会いに行く場なんだと。
かつては孤独なマタギのように棚めぐりをしたもの。感性と眼力を頼りにしたソロハンティングを続けるうちに、井の中の殿様になっていたのはわたし。ネットのおかげで「人つながり」ができ、グループハンティングがメインになった。
狩場はネットに限らない。「つながり」のある多人数でオススメしあうことで、わたしが知らないスゴ本を読んでいる「人」が見えるようになった。それがスゴ本オフであり、本屋オフであり、ブクブク交換であり、ビブリオバトルなんだ。
イベントだけではない、書店で最も重要な「棚」の背後には、選択・配列している「人」がいる。ある書店に通ってしまうというのは、その棚を作っている「人」が、わたしが知らないスゴ本を読んでいるから。
SWITCH「表現者たちの本棚」も、BRUTUS「世の中が変わるときに読む263冊」も「人」に焦点をあてている。たとえばSWITCHの「子どもには隠しておきたいブックガイド」。みうらじゅんが「鬼畜」(松本清張)を強力にプッシュしている、さもありなん。本谷有希子は「蝿の王」(ゴールディング)で邪悪を語る。ケッチャム読んでみたら?と背中を押してやりたい。本をノードにして話したくなる。
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売れてる本、新刊本を並べるなら誰でもできる…が、本が多すぎるのだ。だから人がハブになって本を集める。丸善の「松丸本舗」なんて発想はそのものズバリで、(絶対彼が読んでなさそうな○○本も含め)松丸というブランディングで目にとまり手にとってもらえる。ジュンク堂の「山形浩生が選ぶ経済がわかる30冊」は硬柔まざった面白いリストで、フェア期間中は小冊子を配布するという。これは、お金を出しても買いたい。本をじゃなく、人を出すことで、「顔」が見える。
Amazonの「この本を買った人はこれも…」は、その背後にいる「人」を隠している。同じカートに入っている他の本を数えているだけなのだが、マスになれば精度は馬鹿にできない。レビューアーやリストマニアのシステムは、「人」を前面に出しているものの、顔が見えない。
リアルの強みはここ、実際に「人」と「本」を見ることができる。書店の中の人とお話しすると、上層部はおしなべて「Amazonは敵」だそうな。もったいない。Amazonは敵ではなく、学ぶ相手であり、盗み先だ。うろ覚えから特定させる仕掛けや、「似た本」の見せ方は素直にパクればいいのに…と思う。その上で、リアルに誘導する。ソーシャルソーシャルってWebの世界だけだろうか?店内の通路や書架や陳列台こそ、その書店の「人」とそこに集まる「人」のsocialな場になる。
誘導する仕掛けになったら、中の人の十八番だろう。リーフレットやイベントが盛りだくさんだから。たとえば、ピクウィッククラブのこの冊子なんて一生モノ。世界文学を数百冊、短評とともにコンパクトにまとめている。また、書評空間はすごく良くできている。ただ、「人」はスタッフではなく著名人に焦点が当たっているのと、ネットに閉じているのが残念。ネット→リアルへの導線が無いから。
いっぽう、ビブリオバトルは「人」に焦点が当たっている。オススメされた本を頼りに、わたしが知らないスゴ本を読んでいる「人」を識ることができるから。さらに今回、U-streamで札幌と新宿をつないで、双方向のライブを実現したところが素晴らしい。ネット→リアルへの道筋がはっきり見える。
ちょっと残念だったのは、肝心のU-streamの音声がブツブツ途切れていたところ。理由は単純、マシンスペックが足りないのだが、これも改善されるだろう。また、事前告知を厚くして、twitterとの連動を増やすといいかも。発表者→受け手・視聴者→発表者へのフィードバックがあると、本から人のつながりが、ネットからリアルへのつながりが、さらに増える。
こうなってくるとビブリオバトルではなく、本屋オフやね。店内を巡りながら、ネットやリアルに本を紹介しながら連想を膨らませながらフィードバックを受ける。これは松丸本舗に一日の長ありやね。イシス編集学校で鍛えられたスタッフを常備しているから。
本を介して人に会い、人を介して新たな本を知る。知は本というノードに集約され、本は人というノードでつながる。ネットとリアルの双方にまたがる、ソーシャル・ブック・エリアやね(Bookshopでないところに注意)。ビブリオバトルのようなチャンネルが増えると、もっと書店に行きたくなる。
わたしが知らないスゴ本を、きっと読んでる「あなた」と会うために。
最後に、ビブリオバトルについて。わたしのオススメ本「なぜ私だけが苦しむのか」はトップはとれなかったけれど、何人かに届いたからよしとするか。当日のレポートは、「鈴木たかみつが考えると。」をどうぞ。

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