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読書は"競争"か?「つながる読書術」

 対照的なのに得るもの多し。いや、対照的だからこそ学ぶところが多いのか。

つながる読書術 ブログから飛び出して、リアルな場所で読書会を開いたり交じったり。会議室で、本屋で、飲み屋で、レンタルキッチンで、たくさんのスゴ本と、「スゴ本を読むあなた」と会う。その動機は、面白いから、ワクワクするから……漠然としてたのを、本書は一言で喝破している―――「つながる読書」なんだ。

 著者のいちいちが的を射る。本書の提案はこうだ―――個人で完結するのではなく、発信とフィードバックを重ねることで、おもしろさを循環させよ。この、「みんなでおもしろがる読書」は、まさに「スゴ本オフ」でやっているので、身近なレベルで納得できる。p.174にこうある。

本という一つの素材を使って、お互いの意見や「おもしろさを感じる部分」を交換して知的な刺激を受け、思いがけない着想を得たり、コミュニケーションをとったりして楽しむ新しい場(メディア)です
 そのとおり。自己と他者の違いを、共通する一冊というスケールで測ることができる。同じ本を読んでも、反応するところが異なる。違うから面白いし、違いから自己を拡張できる。殻や井戸に閉じこもる読書、さんざんやったけれど、「みんなで読む」ほうが広く深く早い。「ソーシャルリーディングは、大人の部活」は言いえて妙なり。

 さらに、この日垣隆氏、質量ともにハンパない。「年間の本代は600万円」、「270人の大読書会を開催」とスケールのデカい話が飛び出す。瞠目したのが、松本清張について「新潮45」に書いた手順。締め切り3ヶ月前で取り掛かったアクションと所要時間は次の通り。「文献収集は短時間で。漫然と時間をかけてたら、収拾がつかなくなる」というヒントは肝に銘じるところ。

  1. 「松本清張全集」(文藝春秋)全巻=古書検索サイト「日本の古本屋」にて(所要時間2分)
  2. 全集にない解説を読むために、文庫約40冊をネット注文(20分)
  3. 清張以外の著者による"清張論"=ネット書店にて(15分)
  4. 日本最大のジュンク堂書店(10分)
  5. 国会図書館などのデータベースから、全集に含まれなかった文献を検索して入手(自分で=40分、スタッフによる複写が3日間)
 まるでレストランの全メニュー全制覇のような勢い。これだけの注文した「料理」を平らげていく様子は、スゴいというより凄まじい。目も脳も手も足もフルに使いまくった後、一気呵成にアウトプットする。その鬼気迫る様に、プロフェッショナルとはここまでやるのかと感心する。作家を生業とするなら、これだけ厳しいのかと思うと、読書のヒントよりも、ため息の方が多くなる。

 いっぽう、引っかかるところもある。「本読み競争」や「自分を追い込む読書」といったフレーズに示される、著者のポーズだ。読書「量」を競ったり、「ノルマ」をこなす姿勢は、わたしと偉い違う。もちろん、ピンチョンなら「格闘する読書」になるし、「読んでから死ね」シリーズや、やりなおし数学は、わたしの課題だ。しかし、著者や他の読み手との「対決」姿勢といったものは無い。読書を「競って」るわけじゃないから。

 では、なぜ、本を読むのか?わたしにとって、「おもしろいから」という理由で割り切るには手広くなりすぎた。だから、まなめ王子を見習ってみよう。

 まなめはうすの先頭に、「良いニュースで、良い人生を。」とある。昔こんなことを聞いた、「情報を集めるなら、ネットでいくらでもできる。でも、なぜ情報を集めるかというと、"良い選択"をするため」。ここで"正しい"選択と言わないところがミソ。"正しい"と言った瞬間、誰にとっての/どの立場にとっての"正しさ"といった基準が浮上するから。

 ところが、基準や立ち居地があっても、揺らいだり、変わるのがわたし。そのわたしにとって、より良い選択のために、読む。すでにケースケさんが言ってるとおり、「良い本で、良い人生を。」だね。

 日垣氏は、図書館派について冷ややかな目で見ているようだ。「敵とも思いませんが、勝手にやってください」というスタンス。わたしにとって、損切りを回避しつつ多読できるのは、図書館あってこそ。本書でも、「つまらない本は的確に損切りする」ことを推奨している。「お金を出したから、読まないと損」と読み通すのは、お金だけではなく、時間も無駄にするから。サンクコストの発想は激しく同意だが、図書館は保険になると強調したい。

 また、「つながる読書」の場は、図書館にもある。本好きが集うのは、書店だけではない。書店では、「本を買う人」しか見えないが、図書館では、「本を読む人」が見える。どんな人が何を読んでいるか、その「場」では何がオススメされているか、予約されている人気本(≠ベストセラー)は何か、直接確かめることができる。図書館のコミュニティを通じて、スゴ本の輪を広げてきた。

 これは、プロフェッショナルの読書と、アマチュアの読書の違いなのだろう。自分の"正しさ"と違うからといって叩く人がいる(Amazonレビューが典型)。だが、違うから面白いし、違いから自己を拡張できる。参考にしつつ、アマチュア読書を充実させていこう。

 人生は短く、読む本は多い。良い本で、良い人生を。

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コメント

読書術はあっても読書道がないのは不思議ですね
一人悶々と道を極めてもいいし
他流と組み合ってもいいのに
そしてこの著者は割りと言動が怪しい人ですよ

投稿: kartis56 | 2011.12.11 20:54

>>kartis56さん

コメントありがとうございます。これまで手にしてきた、数々の本の軌跡が「道」となっているのかもしれませんね(例:作家の読書道↓)。
http://www.webdoku.jp/rensai/sakka/

著者の言動はWikipediaなどで見聞していますが、さておき、参考になるところは吸収するつもりです。

投稿: Dain | 2011.12.11 23:15

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