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おいしいをデザインする「建築とマカロニ」

 デザイン心を刺激する、ユニークな本。

 どの辺がユニークかというと、ずばりテーマ。日本を代表する建築家たちに、マカロニをデザインしてもらったデザイン集なのだ。スゴ本オフ@食のフィードバックで教わったとき、わたしも「マカロニって、あの"食べる"パスタの?」と半信半疑だった(mats3003さん、ありがとうございます)。

 でも、あの"食べる"マカロニだった。小麦粉を練って成形しただけの"あの"マカロニを、建築家の創造性を委ねる「構造物」としてとらえなおし、食物としての味わいを機能的に追求してもらう―――そんなプロジェクトなのだ。

 マカロニといえば、円筒形のやつから、ペンネ、蝶のような形や、貝殻のようなものまで様々。バリエーションは多々あるが、基本的に「ソースやスープの乗り物」といっていい。しかし、体積に対する表面積の比率や、溝の入り方、厚み、大きさなどの条件によって、味わいは大きく変わってくるもの。さらに、どんな複雑な形にも変える可塑性があり、乾燥させればその形態を保持することができる。

 歴史の中で様々なフォルムが取捨選択されてきた結果が、現在になる。だが、これは、マカロニの作り手が考えてきた形。これを、スケールの異なった視点から「口の中で味わう建築物」として捉えなおすと、脳の違うところが刺激されてくる。

 目を剥いたのが、WAVEと名付けられた大江匡のデザイン。"ソースにからめる"発想を完全に捨て去って、ソースと具を"閉じ込める"フリスビー型の構造。ムール貝、サーモン、帆立貝をバターで炒め、白ワインで蒸して、最後に卵黄を絡める。それを2枚のフリスビーに閉じ込めるのだ。

Photo

 形態の異形さがすごいのは、「マダムエトワルダのパスタ」と称した北川原温の設計だ。バタイユの「マダム・エトワルダ」から想を得たもので、耳たぶ、乳首、唇の形のマカロニだ。こいつを真っ赤なトマトソースのアラビアータでいただく。これは正解。食欲と色欲、食事と色事は、実は近いところにあるからね。

 同じく異様だったのが、COLCHETTE(コルケッテ)と題された、掬い絡め取られるもの───つまり、スプーンとフォークのマカロニを考案した中村好文。コンソメスープで煮込んだスプーンをスプーンで頂くという、シュールな朝食に脱帽する。他にも、ノアの方舟のような形をしたものとか、バベルの塔型のマカロニ(と読んでも良いのだろうか…)など、想像を絶する食が並んでいる。

 面白い「形」だらけなのだが、ちと気になったのがある。どれもこれも、「形」のユニークさを追求しており、マカロニが「食べ物」であることを忘れるほど遊んでいるのが目立った。というのも、デザイナーのコメントとして、「口の中に入れたときの食感」について言及している人がほとんどいないところ。皆さん、奇抜なフォルムに囚われすぎているのが、ちょっと可笑しい。

 さまざまなマカロニのフォルムは、「おいしい」のインタフェースなんだと思う。ちなみに、わたしにとって最高においしいインタフェースは、これだ。なんていう名か知らないが、ソースへの絡み具合といい、食感のモチモチ加減といい、(゚д゚)ウマー

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