驚異の数、魅惑の図形「偏愛的数学」
ひたすら驚き、戸惑い、不思議がる数学書。
簡単な四則演算なのに、単純な円や三角形なのに、驚くべき性質やふるまいを次々と紹介される。特徴は、タネやしかけを言わないところだな。普通の数学書だと、興味深い数や図形の性質を示した後、「なぜそうなのか」という証明を延々と述べる。ところが本書は、論証抜きで鑑賞しようというのが狙いになる。
これは諸刃の剣で、数式や証明を追いかけるのが大好きな方には、フラストレーションが溜まるかもしれない。「驚異の数」で畏怖の念を味わい、「魅惑の図形」で視覚的美しさを堪能する、一風変わった数学書なのだから。その代わり、手助けとなる推奨文献の注釈が充実しているのでご安心を。
著者曰く、「不思議だが本当だ!」でビックリさせられたのは、次の式「和ゼロの驚異」。これはなんて事のない偶然0になっただけの式に見える。
123789^2 + 561945^2 + 642864^2 - 242868^2 - 761943^2 - 323787^2 = 0
ところが、次の操作を行っても、和はゼロのままになる。
【操作1】 各数値の10万の位(左端の数字)を消してみると…
23789^2 + 61945^2 + 42864^2 - 42868^2 - 61943^2 - 23787^2 = 0
なんと!結果はゼロのまま。さらに各数値の左端の数を消すというプロセスをつぎつぎにくり返してみると…やはりゼロのまま。信じられないが、本当だ。だんだん怖くなってくる。
3789^2 + 1945^2 + 2864^2 - 2868^2 - 1943^2 - 3787^2 = 0
789^2 + 945^2 + 864^2 - 868^2 - 943^2 - 787^2 = 0
89^2 + 45^2 + 64^2 - 68^2 - 43^2 - 87^2 = 0
9^2 + 5^2 + 4^2 - 8^2 - 3^2 - 7^2 = 0
【操作2】 各数値の1の位(右端の数字)を消してみると…
12378^2 + 56194^2 + 64286^2 - 24286^2 - 76194^2 - 32378^2 = 0
1237^2 + 5619^2 + 6428^2 - 2428^2 - 7619^2 - 3237^2 = 0
123^2 + 561^2 + 642^2 - 242^2 - 761^2 - 323^2 = 0
12^2 + 56^2 + 64^2 - 24^2 - 76^2 - 32^2 = 0
1^2 + 5^2 + 6^2 - 2^2 - 7^2 - 3^2 = 0
【操作3】 さらに、右端と左端の数字を同時に消してみると…
2378^2 + 6194^2 + 4286^2 - 4286^2 - 6194^2 - 2378^2 = 0
37^2 + 19^2 + 28^2 - 28^2 - 19^2 - 37^2 = 0
なんでこんなことができるんだ!と目を疑う。この規則性が一般的でありえないのは明らかだが、そもそも誰がどんなきっかけで思いついたんだと想像すると、正気と狂気の境目に目を剥く。
もっと単純に、美しさに気づかされることがある。実際に足すことなくたくさんの数値の和を求める話で、次のS1、S2の式がある。これらは等しいだろうか?
S1 = 100000000 + 120000000 + 123000000 + 123400000 + 123450000 + 123456000 + 123456700 + 123456780 + 123456789
S2 = 987654321 + 87654321 + 7654321 + 654321 + 54321 + 4321 + 321 + 21 + 1
規則性は瞭然だが、足さずに表に示すことで、直感的に結果が明らかになる。
こんな感じで、おなじみ友愛数や回文数から、ネーピアの算木、ロシア農夫式乗算法といった数の不思議さを満喫する。
さらに下巻では幾何を中心に扱い、円、三角形、長方形といった一見単純に見える図形から引き出された驚くべき(でも正しい)事実を述べている。ナポレオン三角形なんて、ここで初めて知った。おもわず「あっ」と叫んだのは、「円に内接するどんな四角形からでも長方形を導き出す方法」だ。円に内接する四角形の各角の二等分線を引き、それらが円と交わる4つの点は、いつでも長方形をなすという。これはスゴい!
おそらく中学レベルの問題なのだろうが、とっかかりがつかめぬ。「円に内接する」という本質が分かっていないのだろう。けれど、「証明」してしまったらこの魅力がタネ明かしされてしまう。完全に負け惜しみだが、ここは不思議なままにしておこう。今の頭だとエレガントな解法が思い浮かばない…半径1、原点(0,0)の円と円周上の4つの点を適当にとってゴリゴリ力技でやっちゃいそうだなぁ…

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コメント
≪…驚くべき性質やふるまい…≫は、『自然比矩形』に繰り広げる 『カオス表示』(e)と+ー 1 2 3 4 の関係式 や 1 0 × / と『カオス表示』(e)との関係式だ。
『コスモス表示』との混在している数式に着目したい。
投稿: 偏愛的数学 | 2021.07.15 13:33
コツをつかむと何種類も式ができます。②、④のように
数字の並びを逆にしても式は成立します。
① 123789^2 + 627854^2 + 858952^2
- 214778^2 - 445876^2 - 949941^2 = 0
② 987321^2 + 458726^2 + 259858^2
- 877412^2 - 678544^2 - 149949^2 = 0
③ 123789^2 + 572235^2 + 637674^2
- 756453^2 - 361347^2 - 215898^2 = 0
④ 987321^2 + 532275^2 + 476736^2
- 354657^2 - 743163^2 - 898512^2 = 0
投稿: 筍 | 2022.04.28 13:33
>>筍 さん
ありがとうございます! 式として成立することは分かるのですが、何回見ても、「なぜそうなのか」「どうやって見つけたのか」が理解できず、魔法を見ているかのようです。
投稿: Dain | 2022.04.29 13:44
123789^2+561945^2+642864^2 = 242868^2+761943^2+323787^2
左辺と右辺を上下に並べ見比べると、①と②のことがわかる。
1 2 3 7 8 9
5 6 1 9 4 5
6 4 2 8 6 4
2 4 2 8 6 4
7 6 1 9 4 3
3 2 3 7 8 7
①万、千、百、十の位の数字は、上下同じで差が一定
2・4・6、 1・2・3、 7・8・9、 4・6・8
②十万と一の位は、3つの和が等しく2乗和も等しい
1+5+6=2+7+3 1^2+5^2+6^2=2^2+7^2+3^2
9+5+4=8+3+7 9^2+5^2+4^2=8^2+3^2+7^2
①のように、3つの数字の差が一定のもの
1・2・3、 1・3・5、 1・4・7、 1・5・9
2・3・4、 2・4・6、 2・5・8、 3・4・5
3・5・7、 3・6・9、 4・5・6、 4・6・8
5・6・7、 5・7・9、 6・7・8、 7・8・9
②のように、3つの数字の和が等しく、2乗和も等しい
数字の組み合わせ。
3+3+0=1+1+4、 4+4+1=2+2+5、 0+4+5=6+2+1、
5+5+2=3+3+6、 6+5+1=2+3+7、 0+6+6=8+2+2、
0+5+7=8+3+1、 6+6+3=4+4+7、 0+5+8=9+2+2、
7+6+2=3+4+8、 0+7+7=9+4+1、 7+7+1=3+3+9、
8+6+1=2+4+9、 7+7+4=5+5+8、 8+7+3=4+5+9、
8+8+5=6+6+9、
①と②を、あるいは②だけでも適当に組み合わせて
エクセルの2乗の関数を駆使すれば、短時間で式を作れます。
投稿: 筍 | 2022.05.04 21:44
なるほど! ありがとうございます。
一見バラバラで、計算結果だけが0になると思っていましたが、理屈が分かると納得できました。
万、千、百、十の位の数字(つまり、最大の位と最小の位を除いた位の数字)は、①の条件さえ満たせば、左辺と右辺は同じ数になりますね。
ただ、②の条件で腹落ちしていないのが、「3つの和が等しく」の点です。2乗和さえ等しければ十分で、わざわざ「3つの和」を等しくしなくても、成り立つのではないかな……と思いました。
また、①と②は応用できそうですね。今は十万でやっていますが、「最大の位と最小の位の数」と「それを除いた間の位の数」という条件にすれば、何桁でもできそうです。
いずれにせよ、丁寧に説明いただき、ありがとうございました。
投稿: Dain | 2022.05.05 17:53
≪…単純な円や三角形なのに、驚くべき性質やふるまい…≫の風景は、3冊の絵本で・・・
絵本「哲学してみる」
絵本「わのくにのひふみよ」
絵本「もろはのつるぎ」
投稿: 〇△▢乃庭 | 2022.05.23 20:26