みんなでブックハンティング@松丸本舗
ありのまま起こったことを話すと、「あっという間の8時間」だった。
まずは、みんなの獲物をご紹介。
久世光彦「飲食男女」。食べることは色っぽい。「味わう」や「口に合わない」という言い方は、男と女にも通用する…湯豆腐、苺ジャム、蕎麦、桃、ビスケット、無花果、おでん…食べ物をきっかけに振り返るみだらで切ない記憶の話―――らしい。食べることはエロティック、そりゃきれいな女性におすすめされたら手にする罠。読んでも楽しいし、それぞれのテーマで自分ならどう書くかを考えると、もっと愉しいかも。
折口信夫「死者の書・身毒丸」。恐ろしい+美しい物語だそうな。物理的に会えないこと=見えない、でもtwitterや電話のやりとりでは実在していると考えている。この「いないのにいる」ことを突き詰めると、死者との交感になる。本の存在は知ってはいたが、未読。これを機に読むべし。
最終形・初期形の宮沢賢治「銀河鉄道の夜」。カムパネルラが川に入ったことを、ジョバンニがどのタイミングで知るか、初期と最終版では違うそうな。ミステリちっくにオススメしてくれたのはRokiさん。ますむらひろし版があったので確認するつもりで読む。
あそこは魔窟だから、時間を飛ばされること必至。承知の上で臨んだ松丸本舗なのだが、10時から18時まで、みっちりたっぷり巡ったにもかかわらず、まだ足りない。アクセルベタ踏み、アドレナリン昇りっぱなしになる。
そしてグループハンティング、集団で狩りをすると、スゴ本に当たりやすい。ぜんぜん知らない(でも)当たりの予感がびゅんびゅんしてくる久世光彦「飲食男女」をそっと出すRokiさん、ずっと読まず嫌いしてたマクニール「疫病と世界史」に向けて背中を押してくれるゲンさん、ジュースキント「香水」に太鼓判を押してくれたMotoさんに感謝。知ってる本を検索するアプローチではない、知らない(けどスゴ本)を捜す狩りなのだ。加えて松丸本舗の錬りに錬られた「本の並び」に、何が飛び出してくるか分からない緊張感覚ハンパねぇ。
わたしの好みは偏っている。もちろん偏ってて良くて、それでも尽きぬ真砂ほどあるのだが、その「好み」をいったんワキに置く。その上で、ブックトークの流れや、メンバーの記憶から掘り起こされる「その一冊」に集中する。とっくにメモを取ることは諦めて、「それが良いならコレは?」の無限連鎖に身を任せる。ミステリ、SF、世界文学と、その時その時の主旋律みたいな軸はあるけれど、基本自由にアレンジしたり加えたり、会話のやりとりから渦がどんどん広がってゆく―――この感覚は、即興に近い。ジャムセッションのような自由と想像と奔放にあふれている。
会議室でやる Book Talk Cafe 形式のオフは、準備の本の縛りと、しゃべりの自由さのバランスが絶妙だ。しかし、本屋でやるオフは、どう転がっていくか分からないヒヤヒヤ感を孕んでいる。素敵な女性がいるのに劇薬・猥本を持ってきたり、興が乗りすぎてネタバレスレスレ崖っぷちに立っていたりする。「それを読むならコレで!」なんて本を探してウロウロするのもまた楽し。
たとえばエンデ「はてしない物語」。あれは、あかがね色の表紙で、中を開くと二色刷りになっている、あのハードカバーで読むしかない。欲にボケたのか分冊・文庫版が出ているが、ぶっちゃけありえない。「文庫じゃダメ? 安いし」とAirさんが探し出すのを全力で阻止する。なぜそうなのかは……読めばきっと、膝を打つからってね。Airさんのレポートはスゴ本オフ ハンティングをどうぞ、視点とコメントが秀逸ですぞ。
次回の課題もある。オギジュンさんが推していた「世界史読書案内」は図書館かAmazonになるだろうし、フラバル「あまりにも騒がしい孤独」は次回買う。思い切れなかった谷崎源氏とベイトソン「精神の生態学」は、買うなら松丸で、と決めている。
松丸スタッフの方にもお世話になって感謝。ずっと一対一で応対してもらい、わたしの知らないスゴい奴をじゃんじゃん紹介してくれた森山さん、ありがとうございます。正剛センセ直々にオススメいただいた「リリス」を探し出していただいた立岩さん、感謝してます。そして、ハンティングに参加いただいた皆さま、ありがとうございます。次もやりますぞ。
次回の本屋オフの課題というか、メモ
- twitterでつぶやきながら巡るべし。ハンターは「やってるのかしらん?」と不安にさせないためと、タイムライン上のハンターの協力を仰ぐため。今回は周るのとおしゃべりに夢中になってしまったが、タイムラインのレスポンスも侮りがたし(スゴ本オフ@ジュンク堂)
- 先達がいると心強い。いわゆる本の案内役。松丸本舗はBook Shop Editorという水先案内がいて、とてもゼータクに周遊できる。他の書店で望むのはキツいので、ハンターが「買って出る」ことになりそう
- 写真やメモは、普通の書店ではご法度。いわゆるデジタル万引きやね。これは松丸本舗が特殊だからと思ったほうがいい。「黙認」してくれる大型書店は知っているけれど、大勢でガヤガヤ写真撮ったりはダメだな(他のお客の手前もある)
- ブログやtwitterを通じて、ネットに飛び散ったハンターたちを、リアル書店に連れ戻しているのが本屋オフやビブリオバトル。書店公認のグループハンティング(の時間)や、展示即売会的な出張書店、はたまた「本店の売れ筋ランキング vs Amazonのトップ10」といったコーナーなど、ネットとリアルを撹拌しよう
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コメント
この度はお世話になりました。
ご紹介、恐れ入ります。
「はてしない物語」買いましたし、読みました。
無論 ハードカバーです。
「夢落ち」とも「本に魔法がかけられた」とも
「これはただの本だ」とも読み手の数だけ物語が
変化する、まさに「はてしない物語」でありました。
さて、自分の歪んだ感想としては
「本の中の世界こそが真の世界で、本の外の世界が幻の世界で、
本として開かれた、覗かれた時だけは
何者かの意志には逆らえず、何者かの都合のいいように~」
・・・・・・・・・・・・何を言っているのか
わからないでしょうが、あくまで個人的な感想です。
その内ブログにまとめます、ぜひDainさんのご意見を
お待ち申し上げます。
異論、反論は存分に認める。
投稿: Air | 2011.08.03 11:42
ここを覗くたびに読書の虫がウズウズしてきます。
投稿: ダイゴ | 2011.08.03 12:50
>>Airさん
オフ会ご参加、ありがとうございます。ブログでも紹介していただき、大感謝です。「あかがね色のハードカバー」で読む理由もご理解いただけたかと存じます。
バスチアンが、「閉じている本の中の物語はどうなっているのだろう」と自問するシーンがありますが、Airさんのコメントと激しくつながっていますね(さらに、ドン・キホーテの巨大な妄想にもつながっています)。
本と、(物語中の)読み手と、その物語そのものの読み手のそれぞれの解釈・多段解釈を捻ると、おもしろい読みができるかも(わたしもそのうち、ここで書きます)。
>>ダイゴさん
ぜひオフ会にもどうぞー
投稿: Dain | 2011.08.03 18:10
再び恐れ入ります。
トラックバックを失礼いたします。
はてしない物語
魔力を持った本のご紹介をありがとうございました。
唸るほど傑作。
投稿: Air | 2011.08.05 00:22
>>Airさん
傑作認定、トラックバック、ありがたいです。
「はてしない物語」の次は、「モモ」をどうぞ。
読みながら唸りながら、考えること必至かも。
投稿: Dain | 2011.08.05 20:51