3週間でやりなおす「高校数学の教科書」
習うより慣れろ、学ぶより真似ろ。
やりなおし数学シリーズ。いつもと違うアタマの部分をカッカさせながら、3週間で一気通貫したぞ。もとは小飼弾さんへの質問「数学をやりなおす最適のテキストは?」から始まる。打てば響くように、吉田武「オイラーの贈物」が返ってくる……が、これには幾度も挫折しているので、「も少し入りやすいものを」リクエストしたら、これになった。
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本書の特徴は、「つながり」。アラカルト方式を改め、高校数学の体系を一本化しているという。なるほど、上巻の「数と式」の和と差の積の形に半ば強引に持ち込むテクは、下巻の積分の展開でガンガン使うし、図形と関数はベクトルと行列の基礎訓練だったことに気づかされる。ベクトルが行列に、行列が確率行列に、さらに行列がθの回転運動や相似変換に「つながっている」ことが「分かった」とき、目の前がばばばーーーっと広がり、強制覚醒させられる。
上巻
1章 数と式
2章 方程式・不等式と論理
3章 平面図形と関数
4章 順列・組合せと確率
5章 指数・対数と数列
6章 三角関数と複素数平面
下巻
7章 ベクトル・行列と図形
8章 極限
9章 微分とその応用
10章 積分とその応用
11章 確率分布と統計
高校ンときと明らかに違うのは、テストするのは、自分であること、期限がないこと。期末試験も受験もない(そういや、「数学=テスト」という構図から、ついに逃れられなかったなぁ、高校時代)。好きなだけしがみついてもいいし、早々とあきらめてもいいわけだ。おかげで、全体のなかの部分として学びなおすことができた。要するに、高校数学とは微積分なんやね。
概念やテクニックの集大成として微積分に収斂されていく全体像が見えてくる(確率・統計という例外もあるけど)。微積分を理解するために極限があって、それを支えるアプローチや、同じ本質の別のふるまいとしてのベクトルや行列、三角関数や対数が説明される。それらの理解の基礎として、図形や関数、方程式や論理が準備されている。逆順に話したが、数学という道具を使いこなす段階を考慮した章立てだね。
最初は扱いやすい「こんぼう」から始まって、慣れてくると「はがねのつるぎ」、体力をつけて「バトルアックス」、技を重視して「レイピア」、熟練を重ねて「エクスカリバー」を使えるようになる……そうした過程をトレースするような3週間だった。
同時に、かつての強迫観念(?)「数学は役に立たない」を木っ端微塵にしてくれる。たとえば、対数の学習で複利計算をするんだが、「ヤミ金融でトイチで『1円』借りたら」で爆笑した。トイチ(10日で1割、複利)で1円借りて、10年間返済しなかった場合、元利合計は1000兆円を超える。1年を365日とすると、10年は3650日である。10年後の元利合計は、10日ごとに1.1倍だから、3650/10で365となるから、
1×(1.1)^365(円)
x=(1.1)^365 をとると
logx=log(1.1)^365
=365log1.1
=365×0.04139 常用対数表よりlog1.1=0.04139
=15.10735
したがって、
x>10^15=1000兆
となる。
その前に救済法が発動するんじゃないの? というツッコミはともかく、この計算ができない(理解できない)人がいることは事実だし、その人を食い物にして肥える人がいることも事実。理解できない人を気の毒に思うのか、肥える人を非難するのか、反応が割れるところだが、少なくともわが子にはちゃんと仕込んでおこう。
また、方程式や不等式と図形の関係から、「線形計画法」につなげる手腕は、鮮やかさと懐かしさがない混ぜになる。複数の材料を仕入れ、最も高い利益をたたき出す製品を作るには、何をどれだけ作ればいい? といったコンサルタントが喜びそうな問題が並んでいる。そういや、マッキンな人が武器のように振り回してたなぁと遠い目になる。本当に使えるかどうかの分かれ目は、
1. 変数を何にするか
2. 条件式をどう設定するか
による。言い換えると、ここをいじれば、欲しい結論に誘導する説得材料を得られる。確かに数学は仕事に不可欠だけれど、「数式にもっていく」前段で勝負ついているのが、ビジネスの現場なのかも。同じ理屈で経済学の乗数理論や、株式投資のポートフォリオ、標準偏差も解説されるが、あくまで数式として、道具として学びなおす。数式に意志を抱かせるのは、人の役割なのだ。
著者のスタンスとして素晴らしいのは、「説明」を主としているところ。やり方を覚えて答えだけ導けばよい、という受験対策ではなく、自分で組み立てられることが大切だと説く。かつて暗記数学でしのいだわたしにの耳が痛い痛い。
高校数学を通して、ストラテジー(発見的問題解決法)を身につけろという。個々の問題に対するテクニックとは異なるものだ。何らかの発想上の工夫を見つけないと解けない問題を解決するための手段を、いくつかの型に一般化しなさいというのだ。
昔ならチャート式、今ならデザインパターンだろうか。「~が分かるためには、……が分かればよい」という推論をいくつかくり返す「逆向きにたどる」方法や、問題を特殊な状況に落とし込むことによって解決しようとする「特殊化」、既知の解決法を新たな問題にあてはめようとする「類推」といった手法が、演習で解説される。車の運転やビジネスプロセスと一緒で、実際に動かして身につける能力やね。
取り組み方について。ちびちびやると挫折するので、キアイを入れて「通しで」やることを心がけた。演習の難度は青チャートぐらい。しかし、「ウォリスの公式」や「シュワルツの不等式」など、とうてい歯が立たないものも平気で展開してくる。嬉しい(?)ことに、「難しかったら、○ページまで飛ばしてよろしい」とささやいてくれる。ありがたく飛ばさせてもらう。目的は通し稽古なので、拘泥しないようとにかく進め、進めのノリで行く。
面白いことに、高校のときと同じ所でつまづいている。ベクトルの和や差はベクトルなのに、積が「量」なのは何故かとか、操作としては理解できるが、腹の底から納得しきれない微積分など、同じ部分で壁にぶつかる(というか思い出す)。要するに、のびしろは自分自身なんだね。
これで、いつでも戻れるベースができた。「高校数学の教科書」をもとに、次は「オイラーの贈物」に進もう。「数学ガール」の再読がもっと楽しくなるぞ。小飼弾さん、いい道しるべを示していただき、ありがとうございます。

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コメント
だから高校数学は「青春の高校数学」だって言ってるのに!
投稿: progress | 2011.06.18 00:56
>要するに、高校数学とは微積分なんやね。
いや、物理のための数学、ですね。
投稿: | 2011.06.18 12:56
途中で挫折しそうw
投稿: 若様 | 2011.06.19 05:51