宮崎駿ぜんぶ入り「シュナの旅」
ナウシカ読んでないよと告白すると、かなり驚かれる。むかし昔、映画を観た頃、同じとこ(トルメキア撤兵)まで読んだのは記憶している。「映画は"序盤"にすぎないよ」とか「あの後のナウシカが辛いんだよ」とかオフ会で刺激されてイッキ読み。虫と人との共存という映画版のテーマが、相容れない異文化の融和にシフトしてゆく様子はお見事だが、環境問題に絡めた前者の方が性に合うなぁ……
初読が311より後だったので、(わたしの)世界の見え方がまるで変わってしまっている。だから、少女が背負うには世界は重過ぎるし、広すぎるし、命に満ち溢れすぎている。メシアを崇める方角へ押しやってしまうという後知恵もアリだが、もしそうした"演出"が加わると、宗教臭さが鼻につくだろう───なんてつぶやいていると、ナウシカの原点という触れ込みで「シュナの旅」を紹介される(ゆりぽありがとう)。
「シュナの旅」を読んで驚いた、これは宮崎駿の原点だ。
貧しい国の王子シュナが金色の種を探す苦難を描いた物語なのだが、いままで観てきた宮崎駿がぜんぶ詰まっている。ナウシカに限らず、もののけ、千尋、ラピュタなどのさまざまなイメージが渾然と浮かび上がってくる。似ているというよりも、むしろ「完全に一致」してる構図・アイディアが、後から後から湧き出てくるので、映画を観たときの感情の噴出をとめるのに一苦労する。
もとはチベットの民話を児童書化した、「犬になった王子」を下敷きにしている。民を救うため辺境まで赴き、異化して戻ってくるというお話だ。物語の骨格は完全一致しているが、ロストテクノロジーや舞台やキャラによる置き換えが、異質なものにしている。骨は一緒でも、身にまとった肉や装束が違うことで、新しいのに懐かしい感覚がある。「ナウシカは虫愛づる姫君」とか「宇宙戦艦ヤマトは西遊記」と同じようなデジャヴを受けるかもしれない。
かつて「ブラッカムの爆撃機」を読んだとき[参照]、宮崎駿がどんな相似形に描くか見えなかったが、今や「シュナ」が補助線となってくれる。原作と時代や舞台を大幅にズラし、後は一つ一つ置き換えをするんだね。キャラチェンやエピソードの膨らましは、「その一つ」の置き換えに着目して行う。「ブラッカム」は第2次大戦下、ドイツへの無差別夜間爆撃をした、英爆撃部隊の若者たちの物語だ。おそらく、黙示録後の未来を舞台に、(やっぱり)主役を女の子にしてしまうんじゃないかと。
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コメント
ナウシカは、最後がどうにも。
ネタばれになりそうなので、アレですが、ヒドラを拒否し、浄化サイクルを拒否したのは、歴史への介入で、結構微妙な話で。
本人が背負ってくには、かなり重い十字架のはずなので、最後の章で省略されている、ナウシカの後半人生が少し気になるところではあります。
投稿: luckdragon2009 | 2011.04.18 07:51
>>luckdragon2009さん
彼女は、人を終わらせようとしたのだと思っています。世界にとって人こそが「疫」であることを知ってしまったからこその選択なのです。
黄昏期の人類史にトドメを刺す存在が、ナウシカ───そう考えると、物語「後」の彼女がふびんすぎる……
投稿: Dain | 2011.04.19 00:29
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今年の秋に岩波書店から出版される拙作絵本『犬になった王子(チベットの民話)』の原話は、宮崎 駿氏の『シュナの旅』の原話と同じ、君島久子先生の名作民話です。 私は小さい時より宮崎 駿アニメの大ファンで、『シュナの旅』も中学の時に読んで以来、私の最も大切な作品の一つになっています。
機会がありましたら、私の絵本作品をご覧下さいましたら有難いです。よろしくお願い申し上げます。 日本画家・絵本画家 後藤 仁
投稿: 後藤 仁 | 2013.07.28 09:34
>>後藤仁さん
ありがとうございます。『犬になった王子』は、ずいぶん昔の版を手にしたことがありますが、絵本として出るのですね。嬉しい情報ありがとうございます、ぜひもう一度、読んでみます(子どもと一緒に)。
投稿: Dain | 2013.07.28 09:50
誠に有難うございます。拙作絵本『犬になった王子(チベットの民話)』は、11月中旬に岩波書店から出版の見込みです。10月15日以降に岩波書店HP等でも正式発表があるでしょう。来年初めには東京都心の大手書店2カ所で「後藤仁絵本原画展」も開催予定です。今後ともよろしくお願い申し上げます。 日本画家・絵本画家 後藤 仁
投稿: 後藤 仁 | 2013.09.15 22:18
>>後藤仁さん
コメントありがとうございます。『犬になった王子』は入手困難なため、嬉しい情報ですね。『シュナの旅』とカップリングすると、まちがいなく愉しいひとときとなるでしょう。
投稿: Dain | 2013.09.22 11:32