集まれ!化学バカ「Mad Science」
狂ってるとしか思えないが、美しい。
凍った稲妻や、硬化した雪の結晶は、綺麗かつ不思議だ。ふつうなら一瞬に起きる現象を「見える化」する。オレオクッキーを燃料にしたロケットを発射したり、シャボン玉爆弾を放ったり、身の回りのものから物騒なものを作り出す。自称(?)マッド・サイエンティストである著者が、自宅やガレージでできる究極の化学実験をフルカラーで紹介したのが、本書だ。
そもそもまえがきのところで、「この本の実験の中には、狂っているとしか思えないものがある。どう考えても狂っているものが」と断言している。そして、朱書きで、
この本には、
すべての実験を安全に行うために
必要なことが
書いてあるわけではない!
と警告する。材料や方法や実験手順が図解で示されているので、「やればできる」気に思わずなってしまう……のだが、マグネシウムリボンを強火にかけたり、ナトリウムの反応を加速させたり、ちっぽけなコインに高電圧を目一杯かけたりと、危険きわまりない。わたしのようなシロートは、写真だけでニヤニヤ楽しむことにしよう(この映像が迫力きわまりないのだ)。動画が公開されているので、わたしが一番気に入っている「凍った稲妻」をご紹介。
これは、プラスチックの塊を駆け抜ける電荷を凍結して、電気の動きを見る実験だ。まず、アクリルに電子をぎゅうぎゅうに詰め込んでおく。そして、打ち込まれた釘を合図に閉じ込められた電子が数百ナノ秒の間に輝く枝状のスパークとなって飛び出してゆく。手の中のイナズマという不可思議な光景なり(リヒテンベルク図形
[google画像])。
世界で一番アブない化学の授業が、安全に楽しめる一冊。
……ここから余談。これ読んで、高校3年の3月を思い出す。受験がひと段落したころ、「自由参加の実験」なるものを持ってきた。化学のセンセとしては、詰め込み授業の罪滅ぼしか、受験優先へのささやかな反抗だったのかもしれぬ。卒業単位に関係ないのだが、ヒマつぶしのつもりで挙手する。
フタを開けてみると、センセ、わたし、女子一名(種島ぽぷら似)とお寒い限り。教科書を開けば10分で済む話を、座学、準備、実施、レポート、後片付けと手間ヒマかけたのに、残念ながら欠片も覚えておらぬ。黙々とこなしつつ、傍らの女子(種島ぽぷら似)に「なぁ、なんでこの補習受けたの?」「なんとなく……」「化学好きなの?」「べつにー」などという会話を交わす。そして幾年月が流れた、いまなら分かる、オジサンになったから分かる、あれはフラグだったんだ……さもなくば、フラグになり得たんだと。
フラグは大切にね!
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コメント
種島ぽぷらを画像検索して確認しまますた!たしかにフラグは大切に!ですね。
投稿: nobu | 2011.02.09 18:29
>>nobuさん
後知恵なのですが、オッサンを極めれば極めるほど、ケツの青いガキだった自分が不甲斐なくて不甲斐なくて……
投稿: Dain | 2011.02.09 22:50
はじめまして。Mad Scienceの訳者です。
すばらしいご紹介ありがとうございます。「訳者あとがき」に経緯を書きましたが、ぼくにとって心に残る大好きな作品です。
そうそう売れる本とは思わなかったのですが、おかげさまで多くの方々に読んでいただいております。この記事がきっかけでまた流行ってくれるといいなぁ。
投稿: 高橋信夫 | 2011.02.10 09:23
>>高橋信夫さん
おお、訳していただいた方ですか、コメントありがとうございます。「ちょい危ない本」として学校図書室でまわし読みされるような存在ですね。amazonで順調に売れているようですが、残念ながら一時的な在庫切れ状態となっています(そして背取屋が暗躍する……)
投稿: Dain | 2011.02.10 10:34
>後知恵なのですが、オッサンを極めれば極めるほど、ケツの青いガキだった自分が不甲斐なくて不甲斐なくて……
この文章に感心した直後、すなわち俺もかと全身に沁みてサブイボが立ちました。処方箋をお願いしたいです。なんか今、不甲斐ない青写真ばかりが頭を巡り、クラクラしてます。エントリの本と関係ない話ですみません…。
投稿: TH | 2011.02.11 15:50
>>THさん
処方箋、ですか……わたしもその一員だから分かるのですが、ナントカにつけるクスリはないので、あきらめています。なによりも、「いま」を過ぎてン年後には、「いま」を振り返ってその未熟さに痛たたとなるはず。
なので、「いま」の最良を目指すしかないかと。
投稿: Dain | 2011.02.11 21:34
ちょっと数理的になるけれど、ダイセルイノベーションパークの久保田邦親博士(工学)の人工知能(AI)の数学的な話をまとめた材料物理数学再武装って結構面白いよ。
投稿: | 2022.06.11 21:39
自己潤滑性特殊鋼の境界潤滑メカニズムを極最表面分析を駆使しながら,解析した結果,境界潤滑のほぼ全貌を説明しうる基本モデルに到達した。それは摺動に伴って,潤滑油が分解し再合成された炭素の結晶体の構造により,摩擦特が支配されるというモデルで名称は炭素結晶の競合(CCSC;Competitive Cristal Structures of Carbon)モデルで提案しており,化学反応を制御することで摩擦特性が変化することを報告する。さらには高面圧トライボシステムへの展望についても述べる。(著者抄録)J-GLOBAL
投稿: CCSCモデルもすごい | 2023.06.02 08:10
つまりKコンセプトということですね。
投稿: 特殊鋼サムライ | 2023.07.03 00:18
日立金属(現プロテリアル)のSLD-MAGICというマルテンサイト鋼の自己潤滑性解明のために開発された理論の花🅂ですね。なんとも分野横断的、DXコア技術なんだろう。
投稿: トライボロジー関係 | 2023.07.28 22:26
AI時代は工学(ものづくり)のもつ意味がますます重要になりそうですね。
投稿: プロの魂 | 2023.07.28 23:03
これはプロテリアルの再上場につながるビッグビジネス事業構想のヒントにつながりそうだ。
投稿: バイオエンジン | 2023.08.07 22:42
DXテクノロジーの心臓部ってとこでしょうか。
投稿: 最高峰発見隊 | 2023.09.06 02:44
求心力というものを再発見した感があります。
投稿: ボールオンディスク | 2023.11.07 03:50
なんか別分野の人が多くなってきていますが、きっとバックオフィスがらみの調達、教育、人事、財務、経理関係でKPI競合モデルという材料物理数学再武装の関数接合論の別名が流行っているからだと思われます。いずれにしても久保田博士のFacebookは一読すべきだと思います。
投稿: マクローリン | 2023.11.17 03:27
最近はChatGPTや生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタイン物理学のような理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズム人間の思考を模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、中国の文化大革命のようなイデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな科学哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。こういうのは従来の科学技術の一神教的観点でなく日本らしさとも呼べるような多神教的発想と考えられる。
投稿: グローバルサムライ | 2024.06.29 11:33
やはり世界を引っ張るハイブリッド日本車の技術力の前に、EVシフトは不調をきたしていますね。特にエンジンのトライボロジー技術はほかの力学系マシンへの応用展開が期待されるところですね。いくらデジタルテクノロジーを駆使しても、つばぜり合いは力学系マシン分野がCO2排出削減技術にかかってくるのだとおもわれます。
投稿: カーボンニュートラル | 2024.07.02 13:30
関数接合論ですね。
1/h^n=1/f^n+1/g^n、
第一式おもしろい着想ですね。経済学のホットな話題として財政均衡主義と現代貨幣理論(MMT)の競合モデルなんてものはできないのでしょうかね。
投稿: グリーンデジタル | 2024.07.08 00:22