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徹夜小説「ガダラの豚」

 2ちゃんねらが絶賛してた「ガダラの豚」読了。なるほど、「寝る間も惜しんで読みふけった」のは、激しく同意、わたしにもあてはまった。

 図書館に限るが、面白い小説を探す方法がある。天(本の上面)から見てみよう。新刊本なら長方形の天が、平行四辺形になっているはずだ。つまり、背(背表紙)がナナメになっているのが、面白い本なのだ。本は開くと、開いた場所から背がひしゃげてくる。閉じると、元に戻ろうとするが、ずっと開いていると、開きグセがつく。つまり、ナナメになっている背が急角度であればあるほど、「ずっと開きっぱなしになっていた」すなわち「閉じる間もなかった」本になる。

 わたしが借りた、一巻本の「ガダラの豚」の背は、45度だった。これほど急角度なのは珍しい。半信半疑で読みはじめ、とまらなくなる。テーマは超常現象と家族愛。これをアフリカ呪術とマジックと超能力で味付けして、新興宗教の洗脳術、テレビ教の信者、ガチバトルやスプラッタ、エロシーンも盛り込んで、極上のエンターテイメントに仕上げている。中島らも十八番のアル中・ヤク中の「闇」も感覚レベルで垣間見せてくれる。

ガダラの豚1ガダラの豚2ガダラの豚3

 エンタメの心地よさといえば、「セカイをつくって、ブッ壊す」カタストロフにある。緻密に積まれた日常が非日常に転換するスピードが速いほど、両者のギャップがあるほど、破壊度が満点なほど、驚き笑って涙する、ビックリ・ドッキリ・スッキリする。この後どうなるんだーと吠えながら頁をめくったり、ガクブルしながら怖くてめくれなくなったり。

 面白さはいたるところにあるが、わたしがいちばん惹かれたのは、「読めない」ところ。つまり、スーパーナチュラルという「筋」なのか、そうでないのか、最後まで分からない。超能力を見せつけたあと、そのトリックを暴く。宗教のウサン臭さを追い詰めたあと、宗教がリアルに及ぼす力を見せつける。呪いが荒唐無稽であると語った直後、効く根拠として科学的・文化的背景をとうとうと述べる。

 オカルトとサイエンス、両方に軸足を置いて、どっちにも転べるようにしてある(そして、どっちに転がしても「読める」ように仕掛けてある)。ホンモノの呪いなのか、プラセボ合戦なのか、最後まで疑えるし、読み終わっても愉しめる。どっちに倒すのかは、読み手がどっちを信じてるのかに因るのかもしれん。その証拠に、キャラを換えシチュを変え、こう言わせる。

人間っちゅうのはな、見たいと思うもんを無理矢理にでも見るもんなんや
信じたい気持ちだけがそこにあった。彼女はただ、自分の業苦から救われたかったのである。
君たちは、ほかに説明を思いつかないというだけの理由で、簡単にまちがった結論に飛びついてしまう。それを知ってほしい。何か説明できないことがらがあっても、ただちにそれをスーパーナチュラルだと思い込まないでほしい。

 トリックだトリックだと思い込ませておきながら、スーパーナチュラルな事象をたたみかけてくる。仕掛けたタネをあばきながら、読み手に「いや、でも違うぞ」と自問自答させながら転がってゆくお話は、先がウスウス分かっていても、こ・わ・い・デ。

 もちろん、アラを探せばいくらでも、叩けばネタは山ほど出てくる。ラストの怒涛の活劇では、強引なつじつまあわせに鼻白むし、(ネタバレ反転)サブリミナルが出てきたときはガックリときたが、それでも物語のパワーにもっていかれる。そう、もっていかれる読書なのだな。

 二十年も前に書かれた小説なので、歯がゆいところも出てくる。イマドキの若者なら、敵陣に乗り込むときはiPhone+GPSで装備するだろう。志村うしろ的シチュエーションも、U-Stream や twitter 実況で回避してしまうかもしれない(当然、超常演出はガジェット向けに強化されるだろう)。むしろ逆手を取って、ガジェットをオカルト化してしまうかもしれない。「着信アリ」とか「女優霊」が浮かぶが、そっちのセカイへ逝ってしまっており、肌合いが違う。「ガダラの豚」は、日常と親和した異常というか、現世と来世のネガポジ関係が、互い違いにあらわれている。

 ウンチクともかく、寝食忘れて読みふけれ。まちがいなく面白いから。

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コメント

いつも拝見させていただき、私の読書の指標にさせていただいてます。

「虐殺器官」読了後、まさに今日から「ガダラの豚」を読もうとしているところでした。

かなりの分量なので不安でしたが、なかなか楽しい夜が続きそうで楽しみです。
今後も面白い記事楽しみにしています。

投稿: absurde | 2011.01.04 22:23

>>absurdeさん

おお、なんという偶然!面白いですね。「ガダラ」は確かにボリュームありますが、読む楽しさが分量を上回ります。飛ぶように読めますよ。

投稿: Dain | 2011.01.05 08:18

ついでに、いとうせいこう『解体屋外伝』もどうぞ。文庫も出てます。16年前の作品ですが、こちらは洗脳戦争です。

投稿: 金さん | 2011.01.06 12:46

>>金さんさん

おお、オススメありがとうございます。早速手にしてチェックしますね。洗脳合戦といえば、「インセプション」を思いつきます。一秒たりとも観ていませんが、なんとなくそう感じます。

投稿: Dain | 2011.01.06 23:55

ガダラの豚、読んだのは8年前ですが、今でも鮮明に思い出せるほど面白かったです。僕にはその面白さを人に伝えることができなかったのですが、ここではそれがうまい具合に紹介されていて、なんだか嬉しかったです。

このあたり↓
>> オカルトとサイエンス、両方に軸足を置いて、どっちにも転べるようにしてある(そして、どっちに転がしても「読める」ように仕掛けてある)。<<

京極夏彦の本を読んでも、この本を読んでも、「オカルトではなくサイエンス的な意味でも呪いってあるなぁ」と思ってしまっています。

投稿: junichiro | 2011.01.07 10:56

>>junichiroさん

「呪い」というとオカルト、「洗脳」というとサイエンスですね。とはいうものの、ラストのどんがらがっしゃんで著者自ら大きく一歩踏み出しているのも事実(これをサイエンスで語るとかなり大掛かりですし)。

投稿: Dain | 2011.01.08 08:41

こんにちは。

ガダラの豚いいっすよね!!

コレ読んだ時は呪具がなんなのか分かった時に本当にすげー!!
そっか~なるほど~って、もう狂喜乱舞した記憶があります。

それと、以前も書きましたが終わりの唐突なる大どんでん返しに愕然としました。
ここ来てそれっ!!
と。

しかし、兎に角そんなことよりもホントに続きはどうなるんだろうとドキドキわくわくが止まらなかったなぁ。
面白い小説でした。

投稿: 浮雲屋 | 2011.01.14 15:29

>>浮雲屋さん

「呪具=兵器」だと思いました。
で、その威力は歴史分だけあるなぁとガクブルしながら読みました。そして、それでなお、そういう延々と続くお話が読みたい/書きたいと思わせるらも上人、すげぇです。

投稿: Dain | 2011.01.15 01:06

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