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すごい言葉

すごい言葉 エレベーター読書の続き。エレベーター読書とは、会社のエレベーターを待っている時間+乗っている時間だけ読む本を決めて、毎日少しずつ進めること。詩や名句集にちょうどいい。

 今回は「すごい言葉」、一度読んだら、一生忘れられない言葉を「すごい言葉」と呼んでいる。さらに本書では、誰もが知ってるような有名なやつではなく、人知れず埋もれているような箴言・名言を紹介している。ズキンとくる辛辣なやつから、思わず笑みがこぼれる痛快なものまで取りそろえている。暗鬱から哄笑まで、エレベーターを降りたときの気分のブレが激しい。

    幸福はコークスのようなものだ。
    何か別のものを作っている過程で偶然得られる副産物なのだ。
    ―――オールダス・ハクスリー

 これなんか、ハッとするより後でじわじわくる言葉だ。「幸福の追求」という言い回しが空々しい理由に思い当たる。なんか「幸せでない」状態から、「幸せである」状態に移行したりするのじゃないんだ。幸せとは、ただそう感じるだけのもの(だから幸せを感じることができないならば、一生"不幸せ"のままだろう)。幸せとは、「なる」ものじゃなくて「ある」ものなのだから。

    未熟な詩人は模倣し、熟練した詩人は盗む
    Immature poets imitate; mature poets steal.
    T.S.Eliot

 Immature と imitate で韻を踏んでいる。言い忘れてたけど、本書で紹介されている全ての「すごい言葉」には、原文の英文が添えられている。英語関連の編者ならではの配慮だね。リズムやリピートが同時に目に入ってくる。このT.S.エリオットのは有名どこだけど、tumblr や twitter で、この変調を目にしたぞ。

    オリジナリティとは、失敗した模倣のこと。

    オリジナリティってのはね、うろおぼえのことなんですよ。
    自分が感動したものを適当に再現したら、
    それがその人のオリジナリティになるんです。

 引用元と引用先が入り乱れ、幾度も retweet や reblog を交錯しながら浮かび上がってくる。必ずしも、欲しい情報だけが欲しいわけじゃない。必要なのも、欲しいのも、欲しいかどうか分からない(けど関連しそうな)情報も、見たいのだ。この、"ゆらぎ"の入った取捨選択の技術として、tumblr は素晴らしい。

    私は書評を書く前にその本を読んだりしない。
    読めばどうしても先入観を持ってしまう。
    ―――シドニー・スミス

 「本を読まずに書評する」という態度は、ありだ。「その本を読んだ」と言うが、いったいわたしはその本の何を読んだのだろう?と自問したくなるときがある。一字一句覚えているわけでもなし、字面をなぞっただけの"読書"になったとき、いっそ読まずに、その本の「他の本からの相対位置」だけを調べあげたほうが、「読んだ」になるのではないか。「読んでいない本について堂々と語る方法」で読書観が揺さぶられると、この主張が刺さってくる。

 頭ガツンとよりも、その言葉をコアにしてゆっくり考える言葉が多いようだ。ずっと後になって伏流水が湧くようにアイデアがまとまって出てくる。「すべての歴史は現代史」とか、「芸術は真実を悟らせるためのウソである」、あるいは「人間は自ら作りだした道具の道具になってしまった」といったすごい言葉は、その例や物語を探りはじめる良い触媒となる。

 ジワジワ自分を変える言葉たちを、どうぞ。

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