真実より正しいフィクション「アイの物語」
人類が衰退し、マシンが君臨する未来から、「現代」をふりかえった秀作。
SFがすばらしいのは、現代を「ふりかえって」眺めることができるから。未来や別次元から、「いま」を理解しなおすのだ。もちろんテクノロジーが混ざるから、バイアスはかかる。だが、拡張された鏡ごしに、「いま」を観察できるのだ。「人生は後ろ向きにしか理解できないが、前向きにしか生きられない」と喝破したのはキルケゴールだが、人生だけじゃなく、「いま」も然り。
アンドロイドがヒトに語る6つの物語。それぞれの物語が、「いま」で言う「SF短編」となっている。元ネタ探しが楽しい―――シーマン、BBS、連作小説、攻殻機動隊、老人Z、ラブプラス……「ラブプラス」は世に出ていなかったから、"予言"的中度をふり返ってもなかなかのもの。500頁超の大作だが、ミステリ要素の強い展開とあまりの面白さにイッキ読みしてしまう。
なぜマシンが支配しているのか?どうしてそんなフィクションを語って聞かせるのか?布石のように敷かれてゆく「SFの短編」は、最初はぎこちない習作のようで、だんだんと上手くなってゆく。つくり話めいていればいるほど、地の話の真実味が増すという仕掛け。6つ目の話が終わったとき、アンドロイドは言う。
「ええ、あれはみんなフィクションだけど、真実よりも正しい」
そして7つ目の物語が語られるとき、真実よりも正しいフィクションのチカラを感じるだろう。惹句に「機械とヒトの新たな関係を描く、未来の千夜一夜物語」とあるが、本当に千夜のストーリーに拡張したならば、「銀河鉄道999」のような伝説となるだろう。これは、SF短編を包含したSF大作なんだな。
本書はスゴ本オフ(SF編)で小飼弾さんがアツく語ってたもの(弾さんのレビューは「感無量 - 書評 - アイの物語」)。「現実よりも物語の方が素晴らしいじゃないか!物語が現実でもいいじゃないか!」というメッセージがずしんとくる。なるほど、こういう意味だったんですな。おかげで夢中本に出合えました、ありがとうございます。
そこでも一度みなさんに告知ーわたしが知らないスゴ本に出合えるオフ会がありますぞ→スゴ本オフ(夏編)。これは、本そのものだけでなく、「そのスゴ本」をオススメする人と出会う場なんだ。
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