この恐ろしくも美しい未来「Build the Future」
この世のものとは思えない。
ロストテクノロジー話のラスボスで、世を統べる神のような存在は、こんな姿をしているんじゃない?現実離れした造形、悪魔的工学は、人の造りしものとはかけ離れている。手術衣のようなもので全身を覆った技術者は、アーキテクトというよりもアルケミストのようだ。
種明かしをすると、これは岐阜県にある核融合科学研究所の大型ヘルカル装置。核融合ではプラズマを一億度以上にする必要があるが、そんな高温に耐えられる物質はない。そこで磁場によってプラズマを容器から浮かせることで超高温度を達成しようと考え、磁場によるプラズマコントロールを追及した結果、このような特異な形になっているそうな。
テクノロジーの薀蓄はさっぱり分からないが、底光りするモリブデン鋼の螺旋構造体を眺めているとゾクゾクしてくる。高度に発達したテクノロジーは魔法と区別がつかないといったのはクラークだが、わたしには螺旋力を溜め込んだウロボロスに見える―――怖いのだ。
そういう、人の造りしものとは思えない設備、装置、機械、構造物を、わんさかわんさとレナウン娘並みに撮ってきたのが西澤丞。工場萌えとかのレベルをはるかに超えており、シビれるというより畏怖するように魅入る。巨大構造物なのだから工学的・力学的に効率を追求しているはず……にもかかわらず、先端科学技術というよりも、むしろアートの一形態のように見える。撮り手もソコを意識しているようで、テクノロジーの中に生態系的というか魔術的な"なにか"を写し取ろうとしているような構図がちらほら。
たとえば、首都圏外郭放水路の立ち並ぶコンクリ柱群は、そのままヨセミテ国立公園のセコイア・ジャイアント杉をほうふつとさせる。精緻を極めた建築物なのに、まるで巨大生物のように見える。そこでは、人の方が異物じみてくる。ギーガーが泣いて喜びそうな光景だ。あと、大強度陽子加速器施設とかスゲえぞ、直径500mのメインリングを2秒間で30万周する粒子は、ミクロン単位でコースを外れない。10億分の1の精度で、どういう魔法を使ったらそうなるのか見当もつかない。巨大かつ繊細な顕微鏡、その加速器は、プラグインされたドラゴンの胴体のように見える。
SFだとか未来予想の範囲を超えており、素直に科学万歳と喜べない、寒気すら感じる。いっそ、異世界だとか未来人のテクノロジーだとか言ってもらったほうがいいくらい―――それほどわが目を疑うものばかり。畏怖と恐怖のほかに、究極の構造美を受け取るだろう。
「Build the Future」の紹介ページはフォトグラファー西澤丞のサイトをどうぞ。小さい画像だが一部を見ることができる。

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コメント
ttp://hamusoku.com/archives/3224277.html
お勧めです。
ぜひ読んでみてください。
投稿: 阿碧 | 2010.06.02 12:44
3ヶ月後ですけど、是非。
http://openhouse.kek.jp/
投稿: | 2010.06.02 21:18
>>阿碧さん
それなんて俺www、と自嘲しながら自爆する。それでも、ソリチュードとロンリネスは違うよ、と窓あけて大声で主張したい、深夜だけど。
>>名無しさん@2010.06.02 21:18
ありがとうございます、この記事を書くに当たり、核融合科学研究所のサイトは見ましたが、高エネ加速研究機構は知りませんでした……安全第一に運営していることは聞かされていますが、それでも惑星砲並みのエネルギーが手に入るのは事実……近未来のインテリテロリストは、ソコを狙うような気がして心配&プロットのネタになりそうです。
研究、がんばってくださいね!どんな「形」になるか、わくわくしています。
投稿: Dain | 2010.06.02 23:11