祝・復刊「家畜人ヤプー」【18禁・グロ注意】
ある意味「わたし」を決定づけた禁断の一冊。もちろんケも生えていない小僧が、人体改造や汚物愛好、マゾヒズムの洗礼を受けることになる。今なら問題ありまくりだが、当時は「サイボーグ009」の延長で簡単にアクセスできた。あれだ、少年探偵団のノリで「人間椅子」や「芋虫」を読んでしまった衝撃と一緒だね。
白が頂点に君臨し、黒は奴隷、黄色は家畜として養殖・飼育されている未来社会を描いたSFがこれ。ジャパンとは邪蛮(ジャバン、邪悪で野蛮)であり、スウィフトのヤフー(Yahoo)を文字ってヤプー(Yapoo)と称される「日本人」の末裔たち。縮小機や染色体手術により、徹底的に改造されたヤプーたちは、器物であり、動力であり、玩具であり、食物であり、機械装置にもなる。
人権?ナニソレ?ではなく、最初から「人」ではないのだから権利もへったくれもないという設定が潔い。人種差別という範疇からも外れるのだ。「色のある皮膚は人権とマッチしない。でも、こんなことはヤプーとは関係のない話だわ。黒人は奴隷(slave)だけど、ヤプーは家畜(cattle)だもの」と言い切る。イルカは知能があるから殺しちゃダメとかいうレベルじゃないのだ。
白人>>>>>> 黒人 > ■■人間の壁■■ ヤプー
では、家畜のように使役され、屠殺され、皮や食用にされるだけの存在かというと、そうでもない。ヤプーの知性は高いというのだ(人でないのに!)。そして、その頭脳を利用して黒を監視する「黒奴監督機」なるものが登場する。つまり、つまり、白人はヤプーを使って黒奴を支配しているといえるのだ。「知能が高いから殺しちゃダメ」という理屈が鼻で笑われている。
いちばんキたのは、生体家具(living furniture)と肉便器(セッチン)やね。特に肉便器の設定は本能を揺さぶられる。たとえ空想上だけでも、そういうものがあることを考えるだけで何かを掴まれたような気分になる。ヒロインの白人女性が、恥じらいながらオシッコを肉便器に飲ませるところは、厨房時代のわたしと激しくシンクロした。なつかしさとおぞましさが、記憶の深いところから喜びとともに立ち上ってくる。
この郷愁と後ろめたさは、甘詰留太の「キミの名を呼べば」に相似する。ただし、その方向は逆になる。「キミの名を」は、ノスタルジックあふれる学園生活が舞台となっている。性欲のはけ口として学園の備品である肉奴隷少女への、許されぬ恋を描いたエロマンガだ。「ヤプー」が人からモノへと意識変革を推し進めるのとは反対に、「キミの名を」ではモノから人への回帰を見ることができる。
方向は逆だけれど、読後の徹底したやりきれなさ感は一緒。そこでは、モノを人とみなすこと、人をモノとみなすことは、「異常」として扱われる。その世界の「常識」からの凄まじいまでの同調圧力。両方を知る読者からすると、異常なのはどっちだ?と自問する仕掛けが施されている。
妄想を弄べ。現実か妄想かなんて、多数決で決まるものだから。

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コメント
気になっていた一冊だったので、つい全部読んでしまいました。あいかわらず素晴らしい考察で感服します。
なかなかキワドイ作品なのだろうなという事はAmazonの紹介文でなんとなく分かっていたのですが、Dainさんの文章を読むと、なんだか自分が思っていたキワドサが全く浅いものの様に思えました。「性描写漫画の作者は卑しい仕事」と簡単に言う都知事もいますが。(http://japanimate.com/Entry/1582/)
私的な事で恐縮ですが、最近、漫画を割と読むようになってきて、最近だと吾妻ひでおの「アズマニア」という作品を読みました。Dainさんは既に読んでいる可能性が高いですが、一応勧めておきます。不条理・エロ・パロディ、さらに作者の自意識の昂りが凄いです(なのに手塚タッチ)。
投稿: のどぼとけ | 2010.06.20 09:45
>>のどぼとけさん
オススメありがとうございます、吾妻短篇はいくつか読んできているので、なつかし感ひとしおです。「不条理日記」を読むだけでも涙モノかも。
某都知事の昔のブンガクとか読むと興味深いです。単なるエロ以上に、ブンガク的描写を追求しようとする証跡が残っていますもの。そのノリで「性描写を芸術まで高めてみろ」と挑発してほしいですねw
投稿: Dain | 2010.06.20 21:54