じぶんの闇を覗く「猟奇歌」
「あンたが深淵を覗く時、深淵のほうももあンたを覗きこんでいるので気をつけな」という警告がぴったりの一冊。本書は、「深淵」そのもの。本書に深く潜ることは、じぶんのなかで飼っている怪物そのものと正対すること。寒い夜とか、独りのときとか、沈んでいるときに読むと、より効果的に苦しめることを請け合う。いい換えると、心が弱っているときに触れると、大ダメージを喰らうだろう。
「猟奇歌」は、雑誌「猟奇」に掲載された夢野久作の短歌作品の総称を指す。青空文庫[猟奇歌]には二百五十余りの全作がそろっているが、本書では、そこから百十六首、選ばれている。選者は赤澤ムック、劇作家であり演出家であり女優でもある方らしい。いくつか引いてみよう。
ある女の写真の眼玉にペン先の
赤いインキを
注射して見る
誰か一人
殺してみたいと思ふ時
君一人かい………
………と友達が来る
白い乳を出させようとて
ダンポポを引き切る気持ち
彼女の腕を見る
本書は、ひとが抱く残虐さをどうやってことばだけで再現しようかという実験だ。誰かをバラバラに殺したい、脳と腸を裏返しにしたいといった、狂気や怨嗟を三十一文字だけでいかに表現しようかという試みなのだ。ページをめくるたび、いちいち嫌な気にさせてくれる(しかも抗えない魅力をもつ不快感を抱かしめる)。重野克明の銅版画が感情を加速させる。この、なんと表現していいか分からない臓器のようなモノクロ画像を見ていると、鬱感がジワジワと深まる。
ふしぎなことに、青空文庫の、電子化された文字列を見ても、「こわさ」は感じない。わたしが上に掲げた歌は、端末のディスプレイで見ると、むしろこっけいに感じる。「本」の魔力というよりも、挿絵の魅力なのかもしれないが、余白まで計算しつくしたページという構成は、読むというよりもむしろ、視覚にクる作品なのかもしれない。
さいごに。わたしが、いちばん、いやになった歌をひとつ。
ァ ァ,、
,、'` ,、'`
'` '`
何遍も自殺し損ねて生きている
助けた奴が
皆笑っている
ァ ァ,、
,、'` ,、'`
'` '`

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