近未来ならぬ現未来の海洋SF「イルカの島」
アーサー・C・クラークが、こんなにあざやかなジュヴナイルを書くなんて。人類存在の根源を問うような重厚なハードSFと思いきや、肩透かしを喰らう。書かれたのは1962年、この時代からすると近未来サイエンス・フィクションなのかもしれないが、読んでる今から見ると、現未来小説になる。舞台は2010年(今だ!)のグレートバリアリーフで、少年とイルカの交流を描いているものの、まさに「今のいま」の話にも取れる。
というのも、水中マイク(ハイドロフォン)を使ってイルカとのコミュニケーションを図るのだ。「イルカ語」なんて代物で、意思の疎通を図り、イルカ側も人の気持ちを汲み取ろうとする。カリカチュアライズされているものの、東京ディズニーシーの「タートル・トーク」が近い世界になるかも。ネタなのかマジなのか分からないが、商品化されている「バウリンガル(犬語翻訳機)」とか「WhyCry(赤ちゃん泣き声翻訳機)」を見ていると、いずれ「Dolphingal(ドルフィンガル)」が出てくるのは必至。
人とイルカのコンタクトをテーマにしているものの、それを少年の成長譚をモチーフにし、さらに全体をSFでコーティングしているしているところが美味い。しかも、「人類の科学技術 < 大自然の猛威」なトコもきっちり盛り込んでいる。「気象学はいまや厳密な科学となって、予報官はこれからなにがおころうとしているのか、自信をもって発表することができる―――ただし、わかったからといって、たいして打つ手があるわけではないのは昔とおなじだ」なんて件には思わずニヤリとさせられる。
ただ、事実は小説よりも奇であることに、軍用イルカは既にいる。機雷探知を任務として、1990年の湾岸戦争および2003年のイラク戦争では、実戦で使用されている[wikipedia:軍用イルカ]。イルカとの共栄を夢見たクラークのナナメ上を突破している現実にうなだれる。
ともあれ、読んでうれしかったのは事実。これはスゴ本オフ(SF編)のブックシャッフル(本の交換会)で、sako0321さんからいただいたもの。そいや、クラークの「幼年期の終わり」もオススメされていたけれど、同じ作者とは思えないほど幅広やね。ちょうど両者は、クラークの両極なのかも。sako0321さん、たいへん楽しい一時間をいただき、ありがとうございます、感謝します。濃くて重くてエロい小説ばかり追いかけているわたしにとって、清涼剤のような一冊ですな。

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コメント
こんにちは。
スゴ本オフ会は、興味があったのですが、日時があわず、断念しました。
でも、バリバリのSF好きな皆様のなかでは、何にも語れず縮こまっている自分を想像してしまいます。(ロジャー・ゼラズニィしか語れないもので)
アーサー・C・クラークの本は、家に何冊かありますが、親の本で自分は手に取りませんした。
「幼年期の終わり」ぐらいは、と思い現在まで来てしまいました。
イルカといえば、「イルカの日」ですね。映画は好きで見ましたが、原作は、高校の時、手に取り断念してからその後は出会ってません。(そんなのばかりです。)
SFのとんでもイルカ本といえば、「スタータイド・ライジング」や「知性化戦争」のデビット・プリン氏。知性を発達したイルカ達が、宇宙船を動かすのだから、アシモフ等のSFを読んできた母があまりにも馬鹿馬鹿しくてと放り投げました。
私は、おもしろく読ませていただきました。(笑)
投稿: zawa | 2010.04.15 19:36
>>zawaさん
「イルカの日」は初めて知りました、まさに本書で語られているテーマそのものですね。教えていただき、ありがとうございます。イルカの知能を利用する(悪用する)ことは、SFとの親和性が高いかもしれません。それから、スゴ本オフは、構えなくても大丈夫ですよ。好きな作品を好きなように語る場なので。次回は「LOVE」がテーマです。そのうち発表しますので、しばしお待ちください。
投稿: Dain | 2010.04.16 22:05
景山民夫がイルカの博士(スポック博士?)について
ずいぶん書いていました。
でも博士は軍事利用に嫌気が差して研究をやめた、とエッセイには書いてありました。
投稿: ko1 | 2010.05.21 03:34
>>ko1さん
情報ありがとうございます。イルカの軍事利用が実用化される一方で、それに心を痛める人もいるようです。まさに、SFが現実になっていますね。
投稿: Dain | 2010.05.21 07:06