イメージファイト!「エンダーのゲーム」
ちと古いが、「イメージファイト」(Image Fight)というゲームがある。iremの縦シューで、PC-Engine がこれとR-TYPEの専用機となっていた20年前の話だ。いわゆる覚えゲーで、敵の出現箇所や攻撃パターンを記憶・攻略するのがミソ。他のSTGと違ってユニークなのが、「訓練ステージ」と「実戦ステージ」があるというところ。つまり、ゲームというバーチャルな空間を、「訓練」と「実戦」に区切っているのだ。
「訓練ステージ」で一定の撃墜率を達成しないと、「実戦」へ配備されず、代わりに「補習ステージ」に送り込まれる。これが鬼のような難度で、実戦よりも泣かされる。「エンダーのゲーム」がまさにコレ。読みながら、わたしの頭ん中では「イメージファイト」が響きわたっていた。
「エンダーのゲーム」の基本は、一人の天才のビルドゥングス・ロマンといえる。類稀なる才能を秘めた少年が、異星人の侵略を阻止するための幹部養成校に放り込まれ、さまざまな葛藤を経て成長していく話―――とまとめてしまえば簡単だが、ミステリとしての謎も隠されている。圧倒的な科学力を持つ異星人が、二度も撃退されているのだが、どうやって?趨勢を決める決定的な映像が検閲されているのはなぜか?主人公だけをわざと過酷で不利なルールで戦わせるのは?それぞれの謎が晴れるとき、ちょっとしたカタルシスが得られる。
この幹部養成校での模擬戦闘や戦略ゲームの設定が面白い。まさに「イメージファイト」の世界で、訓練のゲームと実戦のゲームが混交している。幼いといってもいいほどの主人公が、年上の先輩たちを知恵と閃きで"やっつける"ところは痛快かもしれない。他の生徒と異なり、少年は自分をコントロールすることができる、完璧に。思考も行動も感情も、感覚すら支配できる。怒りにわれを忘れたり、アンフェアなルールにカッとなったりしない。常に冷静に、自らの怒りすらをも利用して、戦いに挑む。自分を消して、粉にして、勝利への導火線に縒り込むのだ。
しかし、授業の一環としての「ゲーム戦」で"やっつける"だけならいいものの、やはり面白くないと考える先輩もいる。ちょっかいだけならまだしも、あからさまな妨害工作までしてくる。「ゲーム」はいつしかゲームでなくなり、必死になって戦う真剣なものとなる("game"には「遊び」と「真剣勝負」の二つの意があるのが意味深だ)。一線を越えるとき、少年は、取り返しのつかない蹉跌へはまりこむ。そこからのあがきやもがきは、読み手の青春時代でぶつかった様々な"壁"を思い起こすかもしれない。SFの、宇宙の話なのに、妙な親近感を抱いてしまう。
エンダーの「ゲーム」には、もう一つ、大きな意味が隠されている。残念ながら半分ほどで分かってしまった。逆なのだ。「エンダーのゲーム」の影響を受けた他の作品に触れているので、その世界設定だとこうするとつじつまが合う(面白くなる)、しかもあと○ページで……という発想で先読みをしてしまったのだ。残念。スレっからしの読み方なので、マネしないように。
ともあれ、ミステリとしても◎、成長譚としても◎、倫理への揺さぶりとしても◎、もちろん奇抜な世界観のSFとしても◎の良作でしたな。blogのコメントやtwitterでオススメいただいた方々にマジで感謝!ありがとうございます、ワクワクハラハラの一時間でしたッ。
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コメント
エンダーのゲームは、ぜひ続編も読んでみてください。
予想外の方向に話が動いていきますので。
投稿: もも | 2010.04.04 01:13
>>ももさん
オススメありがとうございます。続編の存在は楽しみですが、おそらくロストテクノロジー展開か、「『エンダーのゲーム』という人類向けのゲームだった」のどちらかに至るような気がします。
投稿: Dain | 2010.04.04 04:21
> ロストテクノロジー展開か、「『エンダーのゲーム』という人類向けのゲームだった」のどちらかに至るような
どちらも少し違うような気もします。
2番目の方は、確実に違います。
テクノロジーの話は出てくるのですが。
ロストと言うより、バガーが持っていたテクノロジーの発展系みたいな感じでしょうか。
詳しくはネタバレになるので。
「死者の代弁者」がすぐ次の続編で「ゼノサイド」がその次です。
「ゼノサイド」は宗教色が強く出るので好き嫌いが出ると思います。
次に出た「エンダーズシャドウ」から、少年兵ビーンの物語になります。
上記2つと違って、エンダーのゲームの時代の話に戻るのでノリが似てきます。
ビーンから見たエンダーの描写も、なかなか興味深いです。
投稿: もも | 2010.04.04 08:53
>>ももさん
ネタバレ回避しつつのご紹介、ありがとうございます。
「エンダー」だけを読んで続作を考えると、「バガーは、かつての人類の進化系であり、バガーの遺物を弄っているのが地球に残された人類だった」展開か、あるいは、「より強大な銀河系レベルの敵がおり、それに対抗するための戦士もしくは戦団を集めるための侵略こそが、バガーの攻撃だった」という(ありがちな?)ネタを思いつきます。そうでなければ、後日譚、成長物語、戦略モノ、といったより小さい枠内に収まってしまいそうで……強さのインフレを加味しつつ、広げたフロシキを畳めるようだと嬉しいですね。
投稿: Dain | 2010.04.04 18:27
> 強さのインフレを加味しつつ
この展開を予想なさっているなら、まったく違う物語が読めると思います。
とりあえず、エンダーのゲームの内容から直で連想した感じの物語にはなっていません。
確かに、後日譚ではあるのですが。
成長物語、戦略モノ。どちらでもありません。
私もSFに関して(だけ)はすれっからしの読み手なのですが。
続編、と言われているのに、ずいぶん違う方向に話がいくんだなあ、と思いました。
その分、「エンダーのゲーム」と同じようなイメージを期待して読むと、違うという事でガッカリする人もいるかもしれません。
しかし私は、「死者の代弁者」はとても面白く読みました。
「ゼノサイド」は宗教色のため、私は少し苦手でしたけど。
とりあえず、ご想像のものとは違いますし、小さくまとまっているわけでもないと私は思いますので。
もし気が向いたら、読んで感想を書いてくださると嬉しいです。
というのも実は、コメントは初めてなんですけど。こちらの評論、面白くて。
1年くらい前から通わせていただいています。
というわけで、感想を聞きたいなあ、とついオススメしてしまいました。
気が向きましたら、ぜひ。
投稿: もも | 2010.04.04 23:07
>>ももさん
了解です、物語のパターンにあてはめて読むのを避けつつ、手にしてみますね。
投稿: Dain | 2010.04.05 06:50
ゲーム内容も大変興深い話ですが、それよりネットの匿名性を利用して名声を高めていく様は、あの時代に良く描写できたと唸りました。
投稿: ジムジム | 2010.04.05 13:42
>>ジムジムさん
「子ども」がフォーラムだけで有名になっていくところは先取りしているなぁ……と思いました。その一方で、昨今のソーシャルメディアを見る限り、底の浅さ(薄さ?)はカンタンに見破れるような気がします。
投稿: Dain | 2010.04.05 22:55