むしろ初心者におすすめ「プロフェッショナル・プレゼンテーション」
既に[ レビュー ]したが、もう一度ほめておこう、「プレゼンテーションZen」は良い本だ。シンプルで、ヴィジュアルで、眠くならない(←これ重要)なプレゼンをするための必読本――なのだが、これは上級者向けだろう。コンテンツの作り方やストーリーラインの決め方、さらにデリバリーの基本といったプロセスの解説はほとんどない。そういうことは分かっている人向けに、取り組み方とか心構えといったスタンスを説くものだから。
では、そうしたプレゼンの基本のキを知るためには何を参考にすれば――という視点で、一冊選んだ。アイディア出しからロジックの組み立て、ヴィジュアル化、チャートへの落とし込み…といった、プレゼンの基礎手法が網羅されており、新入社員や、プレゼンは初めてといった人にとって必要十分な知識を得られる。
たとえば、「キーとなるメッセージは、プレゼン後に聴衆の心に残したいものだ」とか、「キーメッセージは相手の"価値観"にまで踏み入っていくことだから、論理力に(相手の)判断基準を考慮しろ」といったアドバイスがある。ここまでは普通だ。では、どうすればキーメッセージを作り出せるのか?
その極意は、キーメッセージの主語を「あなた」にすることだという(「御社」でも同じ)。「この施策を実行するべき」の頭に「あなた」を付けて、「あなたは、この施策を実行するべきです」に変えるのだ。すると、聞き手は「なぜ?」「どうしてそう言えるの?」という反応を促すことになる。そして、そんな反応を見越したプレゼンの準備ができる。ただ漠然と「○○するべき」「○○してほしい」だけでは、「お前がそう思うんならそうなんだろ、お前ん中ではな」で終わってしまうからね。
さらに、単なる提言だけに留まらず、相手を動かしたいときにはコンプリートメッセージにまで持っていけという。コンプリートメッセージとは、"What", "Why", "How"の三つ全て入っているメッセージのことだ。"What"とは、何をすべきかで、"Why"は、なぜそうすべきか(動機付け)、そして"How"は、どうしたらできるかのこと。現状分析→目標提示(○○すべき)に終始したプレゼンは、"What"に応えているだけで、聞き手への動機付けも具体的方法も無い。まさに「お前ん中ではな」プレゼンといえる。
また、ストーリーラインの設計で極めて同意なのが、「ストーリーとは重みの配分である」というところ。モレヌケの無いようにロジックをきっちり組むことも重要だが、すべてを網羅的に話す必要はない。聞き手の立場や傾向を予測し、プレゼンの力点を決めるわけだ。よく準備されたコンテンツであればあるほど、この罠に陥りやすい。調べあげ、組み上げたから全部しゃべりたくなる気持ちは分かる、でもそれは「眠くなるプレゼン」への第一歩なんだ。どこにスポットを当てるかは、プレゼンのストーリーそのものになる。
1. キーメッセージの明確化
2. 論理構築
3. 根拠の証明
4. ストーリーの設計
5. ビジュアルの作成
というプロセスも良い。パワーポイントを起動するのは、最後の段階なんだよね。わたし自身、眠くなるプレゼンを何度もやったのだが、不思議なことに、この逆順でコンテンツを作ったことを思い出した。反面教師にしてほしい。
いろいろ誉めたが、反面、いただけないのもある。ビジュアルや主張にマッキンゼー臭がするのは仕方ないとして、「ダミーチャート」を提案している。ダミーチャートとは数字は適当で、「こういうものがあったらいい」チャートを、いわば捏造的につくること。メッセージから遡及してデータを特定していく仮説思考は確かに有効だ。そして「データを加工したり捏造したりしないように」と著者は釘を刺すのだが、調査者の良心に任されているのは極めて危うい。
まだある。「資料はプレゼンの先に渡せ」というアドバイス←これは致命的なのでマネしないように。先に渡したら、聴衆はこっち(プレゼンター)を見ないよ。手元の資料を見ることで満足→寝るか、資料に反論・アラ探し→目がランランかで、どっちの場合も聞いちゃいない。どっかの教授が学会の発表とまちがえてるんちゃうか?と著者を確認したら案の定だった。プレゼンテーションはコミュニケーション、この愚を犯す莫れ。
手放しでオススメできないのが残念だが、それをさっぴいても有用な一冊。
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