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まいりました!「ロートレック荘事件」

ロートレック荘事件 おお!これは良かった。久々に一本背負いを喰らったミステリ。

 人里離れた別荘でおこる惨劇を描くのだが、これがなんともオーソドックス。「あの」ツツイがなんでこんな陳腐なモチーフを選んだのだろうといぶかしむ。ちょっと違うのは、舞台がロートレックの作品で彩られていること、主人公が侏儒であること。

 セオリーどおり、アリバイは?動機は?得する奴は?と経験に即して展開を先読みしていく――のだが、ストーリーはもっと先回りして、読み手の予想を裏切るかのように、ひとつまたひとつと展開の可能性が潰されていく。読み慣れていればいるほど、先々が行き止まりになっている迷宮に入り込んだかのような切迫気分に陥る。

 で、そいつをひっくり返すカタストロフとカタルシスが!――で、そいつをいちいち分析しだす意地悪さよ、と思いきやシメは最後は文学臭まで漂わせている。なかでも傑作なのは…と語りたいのは山ヤマだけど、ネタバレなので格納&マウス反転するね。未読の方は続きを読まずに本作をどうぞ。するする読めてしまうけれど、舐めるように刻むように。速読なんてもってのほか、というか、速読したら面白さ半減どころかゼロになるぞ。

 本書はtwitter経由で知った一冊。「筒井康隆オールタイム一位」という惹句に引かれて読了。chiron95pさん、ありがとうございます、愉しい驚きのある時を過ごせました。twitterはフロー、blogはストック。流されがちな「つぶやき」に反応した読書をここでアウトプットしていきたいものです。

 さて、

 最初はこちらも構えながら読んだ。筒井康隆のメタ・ミステリなのだから、「読者が犯人」もアリかな、と思いながらね。ハチャメチャな展開にした後、地の文に著者が出てきて、「おまえなんかが読んでるから、こっちは仕方なく話を進めるために人を殺してるんだよ」とまで言いかねない。

 ところが、これはアリバイも動機もトリックも、なんとも直球勝負の連続殺人になっている。複雑にしているのは作者の筆力によるものなので、うーんと唸ってしまった。上述の通り、「展開の可能性」がひとつひとつ消えていくうちに、一種の閉塞感に陥らされた後、目からウロコのようにタネをガラリと明かして、はい、おしまい。これは一本とられましたな。

 読み返すと、確かにヒントはあったんだよなー、ロートレックを支えた親友とか、「おれ」の二重人格性(女性忌避かと思うと夜這いかけたり)、さらに登場人物の書き方から気づくべきだった…特に最後の、人名の書き方が明らかにおかしく、他の登場人物は全て常にフルネームで書かれているにもかかわらず、「おれ」は「重樹」「浜口」と分けているところ。読んだ今となては負け惜しみなんだけれど、気づいてたんだよぅ、ただその「おかしさ」がトリックまでに結び付けられなかったんだ。

 さらに、第一章と第二章の人称を混在させているところ。第一章の「おれ」は、「重樹」に重傷を負わせた人(浜口)で、第二章の「おれ」は重傷を負ったほう(重樹)。そのため人物把握に混乱してしまった。一人称の統一をしないなんてプロの仕事じゃないぞとぷんぷんしてたのだが、フェイクだったのね。

 もちろん叙述トリックは初体験じゃなかったけれど、「ロートレック」がピカイチかと。その性質上、名は挙げられないが、他作品より頭一つ出ている。一線を画しているのは、ラストの日記だろう。「人を呪わば穴二つ」というが、愛を知らずに殺してしまうなんてなんつー運命の皮肉!引いていた読み手も思わず同情したくなるような仕掛けは手練れとしかいいようが無い。

 ところで、宣伝文の「推理小説史上初のトリックが読者を迷宮へと誘う」は誤りだろう。やっぱり元祖は「○○○○殺人事件」ではないかい?さらに、「メタ・ミステリー」だなんて書いちゃうと、叙述トリックという視点でしか読めなくなってしまうかと。

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コメント

いつもお世話になってます。
dainさんのサイトにはいつもお世話になってます。特に鬼畜毒書には…(笑
筒井さんは風刺というか人を食った話が多いと思っていましたが、いや本当に呆然としました。このカタルシスこそが、私が本や芝居を観る演る動機だと思います。
反転記載のおしゃべりにて、私も何度も「んっ」と思い、二章のドライブシーンを見返したものです。えも言えぬなんらかの不一致そぐわない感じ←この感じが大きな盲点でした。
いやあまあ、こんな楽しい時間をいつもありがとうございます、更新これからもお体に気をつけてガンバってください!

追伸、○○○○殺人事件とは…参考までに宜しければ教えてください、是非読んでみたいです。

投稿: akira | 2009.11.25 01:26

>>akiraさん

コメントありがとうございます。読書は毒書、用法を守って読みましょう。ご指摘の通り、「そぐわない感じ」はわたしも同様でした。そして、その違和感を放置したまま読み進めると…!!という展開なんですよね。

だいたいこのテのものは、知らずに手を出して→スゴい目に遭うのが正しい出会い方なので、タイトルは伏せさせていただきます。○○○○殺人事件は、マウス反転で隠した部分に出てくるキーワードでGoogleるとWikipediaあたりで見つかるかもしれません。

投稿: Dain | 2009.11.25 01:39

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» 筒井康隆『ロートレック荘事件』(新潮社) [有沢翔治のlivedoorブログ]
はじめに  オフ会で話題にのぼった一冊だったので、読まなきゃ、という変な正義感に駆られて手を出した……んですが正直、僕の趣味には合いませんでした。筒井康隆がかなり変なも ... [続きを読む]

受信: 2011.07.22 00:53

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