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通勤電車でよむ詩集

通勤電車でよむ詩集 朝はバッテラ状態なので、ちゃんと本が読めるのは帰りの電車になる。寝る人・読む人・学ぶ人、狩る人・観る人・聴き入る人さまざま。そんな中で、「じわじわする人」という珍種になれる一冊。

 小説とは異なり、詩を読むことは、同じ「読む」でもかなり違う。もっと身体的な作用・反作用を生じさせる。たとえば、アクロバティックでエロティックな言葉づかいに目眩を覚えたり、行間を跳躍する飛距離に総毛だったりと、かなり忙しい。プロットがどうとかテーマがあれだとか、アタマでの再構築がいらない分、わたしの感情に、直接、ことばが流れ込んでくる。疲れて眠くて無防備な顔で読んでいると、思いがけない行に心を奪られて、涙がとまらなくなるときもある。あぶないあぶない。

 本書は、「通勤電車で読める」ことを目的に、目方を軽く、窓口を広くとった詩のアンソロジー。辛みを呟いたり、哀しみをぶちまけるような元気な詩は入っていない。代わりに、疲労困憊の心や、磨耗した感情に、やさしく寄り添うような作品がいっぱい詰まっている。

 41のそれぞれに、編者のコメントが添えられている。最初はうるさく感じたが、詩の色を変えるような一言が混ざってたりするので、悪くないかも、と見直す。面白いことに、読み直すたびに、「気に入った詩」がころころ変わる。最初に通読したときは、「言語ジャック」(四元康祐)、「昨日いらつしつて下さい」(室生犀星)に惚れたんだが、いまあらためて見ると、「しずかな夫婦」(天野忠)、「踊りの輪」(永瀬清子)が疲れた心にスッとはいってくる。

 編者は小池昌代、みめも、ことばも、きれいな人ですな[参考]。薄手の新書なので、カバンの底に放り込んで、帰りの電車で開きたい。

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コメント

天野忠さんの「しずかな夫婦」はいい詩ですよね。
現代詩文庫という思潮社のシリーズで
天野忠さんの選集があり、そこではさらに面白いのが読めます

投稿: イダヅカマコト | 2009.11.27 12:29

>>イダヅカマコトさん

教えていただき、ありがとうございます。ちょうど行きつけの図書館にあったので、さっそく借り出してみますね。誰かの詩集も味わいがあっていいですが、誰かの選集も出会いがあっていいですね。

投稿: Dain | 2009.11.28 08:28

>面白いことに、読み直すたびに、「気に入った詩」がころころ変わる。

そうなんですよね!
自分でも気がつかない底のほうの感情みたいなものが、ある一行にとつぜん素直に反応するのがすごく面白い。
特段、哀しいことがなかったような日でも
ある詩をよんでいたら不意打ちのように涙が止まらなくなってしまったりして。
それで、ああ、じつはけっこう疲れてたんだなあと気づいて、ふと肩の力がぬけるんです。

同書所収の「孤独な泳ぎ手」(衣更着信)は、
はじめて読んだときには、たいしてきれいでない浜辺で「いたずら心」からパンツ一張になっていわしの群れを追いかけるおじさん、という映像ばかりが印象に残ったのですが、
ある日とつぜん、<さわれないのが、lifeというものである>という真理が
すとんと落ちてきました。

ほかにも、歳をとるのも悪くないかもしれないと
思わされる詩がたくさん載っています。
電車だけでなく、ひとり呑みのお供にもおすすめです。

投稿: フクダナオコ | 2009.12.04 13:53

>>フクダナオコさん

  > 自分でも気がつかない底のほうの感情みたいなものが、
  > ある一行にとつぜん素直に反応するのがすごく面白い。

すばらしく上手いこといいますね、まさにその反応を愉しんでいます。
顔を洗っていたり、ちょっと振り向いたときに、ダイレクトに想念に降りかかってくるのが、面白いです(自分の感情を実験台にしているみたい)。

いま、イダヅカマコトさんのオススメで「天野忠詩集」を読み読み、一杯やっているのですが、この読み・呑みはいいです。気をとられていると、突然ハッとクるので、油断のならない読書になっています。「しずかな夫婦」なんてまさに、「歳をとるのも悪くない」と思わされる一編です。

投稿: Dain | 2009.12.04 23:44

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