« グルーヴィな教養「かたち三昧」 | トップページ | 「虚航船団」はスゴ本 »

リトマステスト的読書「アメリカの鳥」

アメリカの鳥 19歳の若者の「よちよち」具合が面白い、といったら失礼か。

 も少し言葉を選ぶなら、自分の若かりし頃と重ね合わせ、彼の未熟さが引き起こす失敗や悩みを、一緒になって悲しんだり心配する。ただし、その失敗や悩みのいちいちがみみっちく、くだらない。リベラル的な発言は叩かれなれていないせいか、あっちへヨロヨロこっちでボカスカされる。

 そこに普遍性を見出したのか、選者の池澤夏樹は「傑作」だとほめたたえる。彼とは趣味がかなり違うことも分かっているし、わたしなんざ足元にも及ばぬほどの読書経験を積んでいることも分かるが…ホント?面白がるポイント外してた、ボク?と自問したくなる。

 主人公はアメリカの若者。カントの黄金律「他人の利益が自分のふるまいの目的となるようになせ」をよりどころにしている。時はベトナム戦争当時、所はアメリカの片田舎、パリ、そしてローマ。フランスという異文化でセイシュンやってる男の子の前に、さまざまな問題が立ちはだかる――汚すぎる公衆トイレの掃除をすべきか?慈善行為は隠れてすべきか?ワリカンになっていないことを指摘すべきか?

 次々と現れる些細な(すまん、本当にどうでもいい些細な)問題のそれぞれに、良心のレベルで思い悩む。好きな人なら食えるネタが、わたしにはひたすら青臭くてうっとおしい。その「若さ」を良しとするならば本作は良作だろうが、自らを偽善者だと名乗る弁明はウンザリさせられる。あこがれていた女子が処女か処女でないか気を揉んだり、そんな自分を激しく内省する姿なんぞ、読んでるこっちが痒ーくなる。

地下室の手記 もっと深掘りして、「偽善を名乗る偽善」(^を意識する偽善)で苦悩すれば面白くなるのだが、そんなメタ思考はアメリカ人の好むところではないらしい。ロシア人あたりが適当か。ドストエフスキー「地下室の手記」の強烈な自意識なんて、ヤケドするぐらいだぜ。過剰すぎてコミュニケーション不全を起こしているトコなんて、自分の(なかったはずの)黒歴史を強制的に見させられているような気分になるしw

 なんでこんな作品を選んだのだろうか?とGoogleると、小谷野敦がタネ明かしをしている。これには笑った。出典は「アメリカの鳥」書評 : 風刺消え「リベラル」肯定より引用。

なぜ『グループ』の新訳ではなくてこんな失敗作を選んだのか、といえば、この「全集」を1人で編纂(へんさん)している池澤夏樹が解説で、こちらの方が『グループ』より優れていると、驚くべきことを言っている。しかしそう思って読むと、主人公は池澤と同じ1945年生まれ、学者の父と演奏家の母の間に生まれ、両親は離婚し、少年自身は題名にもある通り鳥類好きのナチュラリスト、政治的にも池澤によく似ているのである
で、返す刀でこの文学全集シリーズ自体、「文学的価値よりも政治的意図で選ばれたものが多く、感心しない」と。いまどき文学全集を立ち上げている心意気を買ってやりたいが、本作については小谷野に一票いれたくなる。

 あと、「グループ」が読みたくなったではないか!池澤が価値なしと斬り捨て、小谷野が傑作だと持ち上げている。両者を測るリトマステスト的読書になりそう。待てよ、これは孔明の罠かもしれぬ、わたしの積読山を増大させるための。

 …ちょっと図書館いってくる。

このエントリーをはてなブックマークに追加

|

« グルーヴィな教養「かたち三昧」 | トップページ | 「虚航船団」はスゴ本 »

コメント

確かに、「グループ」を読みたくはなりますね。
この文学全集、確かに小谷野敦氏の言うことも、もっともだし、編纂意図に疑問がつきまとう全集であるのも、気になるところです。池澤氏の意見にも疑問があるところ。ただ、小谷野氏も結構政治的発言のある方なので、学問的業績以外は用心した方が・・・
なんて言うのは、小谷野氏が私の好きな平野啓一郎氏の「決壊」をけなしたからでは、ありません。(なんてね)小谷野氏には山本薩夫監督、三國連太郎主演の社会派喜劇の傑作、「にっぽん泥棒物語」という傑作を紹介してもらいましたし・・・(ただ、氏が井口昇監督の「卍」をほめるセンスはいただけませんが・・・)
小谷野氏のレヴューはAmazon.jpのレヴュー欄でまとめて読めますが、とても面白いです。興味があったら見て下さい。話が変な方向にいってしまって、ちょっとスミマセン。(なんてね)

投稿: よしぼう | 2009.10.19 20:51

>>よしぼうさん

借りてきました、「グループ」。
1972年のカタい訳なので、最近のこなれた翻訳小説に慣れた舌に合わせるのに一苦労しています。小谷野氏の選書眼は優れたものだと思っています。ただ、よしぼうさんと同様、センスが合わないと感じる一面もあります。単純な好き/キライよりもむしろ、それぞれの立場から「意図」を持って発言されているのだろうなぁ、と前向きに解釈しています。しかし、とばっちりを喰らってハズレを掴まされると…!

投稿: Dain | 2009.10.21 06:47

はじめまして。突然のご連絡失礼いたします。

弊社は株式会社ニューノーマルと申します。

現在弊社では、「R+ (レビュープラス)」という、普段から書籍や雑誌などのレビューを書いていらっしゃる活発なブロガーの皆様と、企業とを結びつけるレビュー専門ブログネットワークを運営しております。

本日はブログを拝見させて頂き、ぜひわたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる様にもレビュープラスにご参加していただきたく、ご連絡させて頂きました。

サービスの内容といたしましては、出版社が提供する書籍や雑誌をブロガー様に配布し、ご自身のブログにてそのレビューを執筆して頂く、という流れです。
ブロガー様には、無料にて献本させて頂きます。もちろんご利用も無料です。

またレビューの内容につきましては、本サービス独自のランク付けを行い、優良レビュアーとなったブロガー様には、今後優先的にレビュー依頼を行う予定です。
詳細はこちらより、ご覧くださいませ。
http://reviewplus.jp/service

これまで「ニューズウィーク 日本版」「週刊ダイヤモンド」「経営予測エイジ」「MacPeople」「クーリエ・ジャポン」等を実施しており、クーリエに関しましては、講談社編集部によるレビューブロガーコンテストも同時に開催させて頂いております。
http://c.reviewplus.jp/

ご興味をお持ち頂ければ、ご登録いただければ幸いです。
ご質問等ございましたら、何なりとお問い合わせくださいませ。

突然のご連絡にもかかわらず、長文大変失礼いたしました。

失礼いたします。

投稿: R+ (レビュープラス) | 2009.10.21 17:14

>>R+ (レビュープラス)さん

おさそいありがとうございます。
レビューの発表の場はここで充分ですし、読む本は文字どおり山のようにあるので、そちらでわたしが協力できることは少ないかと。

投稿: Dain | 2009.10.23 00:08

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: リトマステスト的読書「アメリカの鳥」:

« グルーヴィな教養「かたち三昧」 | トップページ | 「虚航船団」はスゴ本 »