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これからの本のつくりかた「デザインの現場」

デザインの現場 これからの「本」について、ユニークな視点が得られる。

 「本が売れない」といわれるいま、普通の流通とは別のところで広がっている試みがある。いわゆる、出版社や取次や書店を介したシステムにビルトインされた方法ではなく、個人が嗜好の延長上で実現させる形態なんだ――それは「本」というよりも、「パーソナルメディア」というべきかも。

 発想が面白いなー、と思ったのは、藤本やすし[Cap]

 「出版とは、新しいセルフブランディングのシステム」という視点は、これまでと逆転していていい。プレゼンスやブランドを高めるための出版活動なので、「本」を出すのは従になる。だから、「なにをブランドとするのか?」をまず考えるんだ。今までの、「本というパッケージに何を詰め込んで、世間サマにプレゼンテーションする?」という固定観念が溶けていくぞ。

 物理的な「本」なのだから、もっとフェティッシュに走ってもいいのかも、と感じたのは、尾原史和[plancton]

 出版とは、「さらにモノをつくりたいという衝動を駆り立てるための手段」だそうな。自分の感情に忠実なモノ――1000部限定の出版物からスタートしているが、いわゆる「本」に限定していない。それは家具や衣服であってもよく、「一生これだけを身につけ続けたい」と思えるような普遍的なものを作ることを目指している。

 普遍的な存在としての、たまたま一つの方向が「とある本」になるのか。それがわたしになるのか分からないが、誰かの人生を変えてしまうような一冊は、こうした人からリリースされるんだろうな…

 もっと泥臭い話もある。粗利の折半が基本という菊地敦己の話は、かなり過激だ。出版業界全体が淘汰され、本の内容に対応する数と価格の再構築が必要だという。「著者にきちんと還元されないようでは、良質なものなんて生まれるわけがない」と、非常にまっとうながら、印税数%の風潮に真っ向正面から立ち向かう。あるいは、竹熊健太郎なんてスゴいぞ。出版社は、「町のパン屋さん」のようになれという。

明治時代に還ればいいんですよ。夏目漱石の「吾輩は猫である」は初版2000部程度だったといいます。その分、装丁にも力を入れている。本は、知的な読者に向けた高級品だったんでしょうね。
 「本」を日用品のように扱っていたわたしにとって、少し怖いが面白い――本の値段を10倍にする。そこで残れない本は、もともとゴミだったんだ――そういう考え。一週間しか並べられないゴミみたいな本を(返本相殺のため)大量に刷るのではなく、1000部にして一年かけて売っていこうという考え。

 そこで重要となるのは、「売るということ」。

 編集やデザイン出身なら、企画して執筆・製作するところまでは、経験の延長上でこなせるだろう。しかし、できあがった本を売るためには宣伝活動が欠かせない。でないと、本の存在自体が伝われないまま朽ちることになる。上述で紹介した、藤本やすし、尾原史和ともに痛感していて興味深い。尾原の言を引く。

「商品を持つという責任は大きい」と感じています。在庫を抱えるには物理的な場所も必要ですし、それらを移動させるだけでも相当な費用がかかります。このあたりのことは、始めて実感したことです
 取次・流通に囲い込まれ、商品を右から左に移している人からは、絶対に生まれない発想だ。機械的に全国に本を振り分けてしまう取次に流通を任せていても、こうした本は売れないことは明らか。いまの流通システムでは、欲しい人には絶対に届かない。

 出版技術の向上により、物理的な「本」を作る敷居は格段に下がっている。流通も同様(だと思う)。個人で出版に手をそめる際、足りないのは、欲しい人に認知させる手段と、欲求を惹起させる方法――営業だ。

 広く宣伝を打ったり、リクエストに沿った本を示したり、逆に客層・傾向からオススメを提示する。そんなエージェント的な活動を全国規模でできるのであれば、この「売るということ」という問題を解決できる。三次元の書店や出版社がその役割を担っているが、わたしたちは、もっと身近にそれが「できる」存在を知っている――amazonをはじめとした、ネット上の書店だ。

 amazonは「在庫」と「流通」からスタートしたが、「企画」や「出版」といった、作る側から着眼している事例も紹介されている。BCCKS(ブックス)がそうだ。Web上で本をつくり、読むことができるシステムから、リアルに飛び出そうとしている。Web上で製作したウェブブックのデータをオンデマンド印刷のフローに乗せ、紙の本として小部数出版を行うものだ。「ブックス文庫」の版型を見ているとゾクゾクする。

 ネット本や2ちゃん本は沢山あるが、多くは出版取次流通にロックインされたもの。ブログサービスの自費出版も沢山あるが、「そのブログ」の射程範囲での流通に留まっている。ネットはネット、リアルはリアルの中からうまく出られない。相互を流通するチャネルが育ってないのだ。

 ネットは宣伝と割り切り、時間をかけて浸透させる仕掛けを作る。BCCKSから出た本を、オフ会や文学フリマで売り歩いたり、ヴィレッジヴァンガードに置いてもらったり(もちろん、お返しにフリマやVVの宣伝もネットで受け持つ)…考えるだけでニヤニヤしてくる。「売る」のは二次的であり、本はセルフブランディングの目的なのだから。

 そういうアイディアや妄想をたくましくさせてくれる一冊。

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コメント

本が売れなくなったのは、ネットのせいもあるでしょうけど、自分はネットのおかげで活字慣れして読書するようになりました(笑

投稿: gingertech | 2009.10.07 12:03

>>gingertechさん

物質としての「本」を離れ、液晶画面で読書する人は、ものすごく増えています。「最近の若者は本を読まなくなった」という老人の嘆きを聞きますが、逆です。今どきの若者こそ、もっとも沢山読んでいます(以下に実証データがあります)。

「本の現場」はスゴ本
https://dain.cocolog-nifty.com/myblog/2009/09/post-141b.html

投稿: Dain | 2009.10.08 08:35

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