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ゲームと犯罪と子どもたち

ゲームと犯罪と子どもたち まずアメリカの現実。次の選択肢のうち、正しいものが一つある、あててみて。

  1. ゲーム・プレイヤーの大半は子ども(18歳未満)で、50歳以上でTVゲームやPCゲームをする人は、ほとんどいない
  2. ベルトウェイ狙撃事件犯のマルボは、Xbox「ヘイロー」をしながら殺人の練習をした。「人間の姿をしたものを何度も撃って、感覚が麻痺していました」
  3. 2005年8月、アメリカ心理学会は、「テレビゲームの暴力シーンの73パーセントで犯人は罰を受けておらず、暴力は紛争解決の有効な手段であると教唆している」と発表した
  4. 米国医師会によると、2001年、もっとも暴力的ゲームの一つとして「星のカービィ64」が挙げられた。





































 答えは4。

 ゲームプレイヤーの平均年齢は35歳で、50歳以上は25%を占めている(*1)。"Halo"の敵は昆虫型だし、狙撃犯マルボは、本物の銃で練習した(*2)。「暴力を教唆している」と批判されたのは、ゲームではなくテレビ番組で、1998年の調査結果(*3)。「星のカービィ64」は、全体の72パーセントが暴力シーンで、もっとも暴力的だと判定された(*4)。

 本書は、ハーバード大学医学部の研究者たちが、ゲームで遊ぶ子どもたちを、犯罪との関連性から調査している。政府から150万ドルの予算を得、1257名の子ども、500名の保護者、数百名の業界関係者を科学的な手法で徹底的に調査した結果だ。犯罪の原因をゲームに求めることで見のがしてしまう、根源的な問題が何であるかが暴かれている。このレポートを読むと、「ゲームと子ども」の認識がいかに混乱しており、科学的データの誤用や似非科学、ひいては政治的駆け引きにまみれていることが分かる。

 本書は、ゲームに対する誤った認識を植え付け、保護者の恐怖を煽ったのは「報道」であると、はっきり述べている。暴力的なゲームが子どもたちを暴力的にしているとか、ゲームのせいで残虐な犯罪が増えているといった事実は、ないのだ。本書は、ゲームに限らず、テレビ、マンガ、映画、大衆小説といった新たなメディアが誕生した際、もっともらしくその弊害を主張し、規制しようとした歴史を振り返る。

 たとえば、テレビ。放送される暴力は犯罪を生みだすという確信のもとに、暴力的テレビ番組の視聴率の規模と地元の犯罪発生率を比較した研究がある。この研究により、顕著な関係が判明したが、予想とは反対の結果だった。暴力的番組の視聴率が高いほど、暴力犯罪の発生率が低かったのだ(*5)。もちろん、そこに因果をこじつけるつもりはないが、予想した正の相関の結果だったとしたら、他の検証プロセスをすっとばして、強い因果関係として「報道」していたことは想像に難くない。

 他にも、マンガや大衆小説(ダイム・ノベルと呼ばれた)の中での暴力描写や犯行の手口が、青少年への悪影響をあたえるといって糾弾された歴史を紹介する。魔女狩りよろしく調査を行うのだが、恣意性にまみれ、わずかな証拠と不正確な仮定、似非科学に基づいていることを、徹底的に暴いてみせる。そして、テレビやマンガをめぐる保護者の懸念、マスコミの批判、「研究者」の態度が、現在のゲームに関する状況と、驚くほど似ていることを指摘する。新しいメディアは、いつだって時代の非難の的なのだ。

 むしろ、M指定(17歳以上)のゲームをする子どもは、いじめの対象になりにくいと主張する(p.144)。なぜか?著者の仮説はこうだ。M指定のゲームをする子どもたちは、よく集団でプレイすることが確認されている。そのため、他の子どもよりも社交術を身に着けているため、いじめに遭いにくいという。また、見知らぬ子同士の最初の会話が「どんなゲームが好き?」をきっかけとしているのを指摘し、コミュニケートツールとしてゲームが有用だという。さらに、子どもたちはゲームのなかの仮想世界と現実世界を混同していない事例を挙げている。むしろ怒りを発散し、現実世界での争いを回避する手段としてゲームを活用しているというのだ。

 ゲームで社交性?ちょっとハナテと思うのだが、「イマドキのゲーム」を考えてみると理解しやすい。もちろん昔のゲームも2Pプレイはあったが、それはスコアを競い合ったり、闘いあったりするためのマルチプレイ。しかし、最近のゲームは、二人で戦うのではなく、二人(以上)で協力するものが数多くある。単独プレイしてても頭打ちとなり、多人数で、役割分担し、声を掛け合ってプレイするのが普通だ。"Biohazard5" や Monster Hunter" が象徴的だね。

 では、いいことばかりかというと、そうではない。「よくないゲーム」についても指摘している。"Postal2" のこと?あるいは、"Grand Theft Auto 4" なと思いきや、違うのだ。GTAがどんなゲームで、どんな「悪いこと」がなされているか、子どもも承知している。ゲームだと納得づくでプレイしているのだ。GTAの魅力について、ある子どものコメントが興味深い。

犯罪者を逮捕したり、運び屋になったり、火を消したり。警察のために働くこともできるし、気が向いたら人を撃ったりできる。このゲームは同時にいいヤツと悪いヤツになれるんだ!
 麻薬や銃を扱ったゲームを規制すれば、麻薬や銃が消えてなくなるわけではない。むしろゲームにでてきたのをきっかけに、親子で話し合えばよいという。社会になぜこのようなものがあり、どう扱われているのか。それらにどのように向き合うか(向き合うべきか)について、率直に意見を交わすよい機会を、ゲームは提供してくれているのだ。

 本書が問題視しているのは、暴力ゲームではなく、「アドゲーム」になる。アドゲームとは、 advertising game で、メールアドレスなどを登録すると、無料でできるゲームのことを指す。スポンサーにとっての魅力は、見込み客である子どもたちの連絡先や個人情報を手に入れ、直接アプローチできることにある。子どもたちに個人情報を入力させようとするウェブサイトを、保護者は警戒すべきだという。

 さらに、特定の思想に染まったゲームについて、注意を喚起している。たとえば、アウシュビッツ強制収容所でユダヤ人の「ネズミ」を撃つ"Concentration Camp Rat Hunt"や、ネオナチ団体が製作販売している、民族浄化を意味するタイトルの"Ethnic Clensing"、あるいは、インティファーダに参加するティーンエイジャーを募集するために開発された"Under Ash"などが該当する。これらはゾーニングされているが、一定の思想へ誘導する意図をもって作られており、注意が必要だという。

 青少年の暴力的な犯罪を、「ゲームのせい」にすることは簡単だ。ゲームに限らず、新しいメディアを諸悪の根源のようにみなし、叩くことは、マスコミや親の性のようなものだ。しかし、それが事実ではないとしたら?ゲームを攻撃することで満足し、より重要な、暴力的な犯罪を防ぐ方法から目をそむけることになりはしないか?

 バージニア工科大学の銃乱射事件が象徴的だ。事件から数時間とたたないうちに、専門家たちは、テレビ、ラジオ、インターネットで、ゲームを非難しはじめた。これは、全く根拠がないことが明らかになった。警察が彼の部屋を捜索した際、ゲームやゲーム機、その他のゲーム関連機器は一切発見されなかった。この事件を受け、銃の購入者の犯罪歴や精神障害歴を厳しくチェックする法案が2008年に成立したが、ゲームとの因果関係を主張したお歴々は口をぬぐったままだ。

 本書ではそうしたデタラメを垂れ流す学者や政治家の実名をできうる限り洗い出しているが、同様のチェックは、日本においても必要だね。偽科学の根拠を牽強付会したがる人は、誰で、なぜそうするか、必ず理由があるはずだ。「子どもの味方」をアピールしたい政治家、「ゲーム脳」で世情を煽る学者、疑心暗鬼を捏造するマスコミ関係者に、特にオススメ。本書の角にアタマぶつけて死ぬがいい。

 そうそう、「ゲームと犯罪と子どもたち」の原題のタイトルがナイスなり、"Grand Theft Childhood" だってさ! "Grand Theft Auto" は車両窃盗罪だったよね?なら、子どもを人質にして、票や銭を稼いでいる奴は誰なんだろうね。

*1 Essential Facts About The Computer And Video Game Industry, 2008[pdf]
*2 Washington Times Malvo team cites role of violent media, S.A.Miller, 2003
*3 National Television Violence Study, Sage Publications, 1998
*4 Journal of the American Medical Association,Violence in E-rated video games, K.Tompson, K.Haninger, 2001
*5 Aggression and Violent Behavior : Does viewing violent media really cause criminal violence? A methodlogical review, J.Savage, 2004

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コメント

デーヴ・グロスマンの『「戦争」の心理学-人間における戦闘のメカニズム』
には、これと全く正反対のことが書かれていますので、
比較して読むときっと面白いと思います。

投稿: akira | 2009.07.21 22:09

『ヒルガードの心理学』という、
世界で広く信頼されている心理学の教科書があるのですが、
そこには暴力メディアと子どもの暴力との関係について項目がありますので、
読んでみると学問的な状況がわかると思います。

投稿: akira | 2009.07.22 13:35

>>akiraさん

さすが本職ですね、的確なオススメをありがとうございます。「戦争の心理学」は、本書でも取り上げられていました。調査方法が恣意的だと批判されていました。該当箇所を探してみますね。「ヒルガードの心理学」はとても興味があります。チェックしてみますね。

投稿: Dain | 2009.07.22 14:26

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