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お尻を理解するための四冊 【紳士限定】

 女は尻だ。

 何度でも言う、女は尻が肝心だ。もちろん、おっぱい山頂への関心は否定しないが、お尻のあわい目への興味と比べるまでもない。なおかつ、男はおっぱい星人であるとともにオシリストにもなれる。お尻を賛美することは、おっぱいを否定することにならないのだ(逆もまた然り)。

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 女の尻のすばらしさについては、室生犀星が「蜜のあわれ」で力説している。人間でも金魚でも果物でも、円いところが一等美しいのだという。そして、人間でいちばん美しいのは、お尻だと一気呵成にヒートアップする。太字化はわたし。

人間では一等お尻というものが美しいんだよ、お尻に夕映えがあたってそれがだんだんに消えてゆく景色なんて、とても世界中をさがして見ても、そんな温和しい不滅の景色はないな、人はそのために人も殺すし自殺もするんだが、全くお尻のうえには、いつだって生き物は一匹もいないし、草一本だって生えていない穏やかさだからね、僕の友達がね、あのお尻の上で首を縊りたいというやつがいたが、全く死場所ではああいういつるつるてんの、ゴクラクみたいな処はないね。」

 激しく同意、つるんとしたお尻に顔を乗せてまったりすることは、人生の至福の一つだ。この作品は美尻礼賛として称えるべきなのだが、世間サマではちょっと違っており、ロリ小説として有名だ。金魚が少女に変身する話なので、ロリだと考えがちなのだが、相方の「おじさま」がいい具合に脂が抜けており、あくまで形而上のロリ談義。むしろ上で引用したお尻問答を推したい。

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 まてよ、お尻問答といえば、稲垣足穂を外すわけにいかない。「A感覚とV感覚」では、お尻をこのように定義している。「そもそも臀部とは人体にあって最も愛嬌のある、福々しい、いついつまでも齢を重ねないような部分」――そう、愛嬌と福福しさをそなえた、みんなの大好きポイントなんだ。

 そして稲垣は、お尻中心主義ともいえる、人間疎外をお尻から解消する視点を示してくれる。普段は気にも留めないような「その場所」が主張しはじめるとき、われわれは便所へ向かう。外部から隔離された空間で、人間が本来の自己を取り戻すことができる。全室が使用中だったときの、あのせっぱ詰まった感覚や、ようやく確保して間髪をいれず射出する瞬間の、えも言われぬような戦慄を経験した方であれば、あれは自己解放そのものだということに同意するだろう。あるいはウォシュレット初体験の「ア゛ッー!」という感覚を思い出してもいい。稲垣はそれを、A感覚と名づけた。そしてV感覚(膣感覚)との違いを、こう説明する。

膣感覚は、腸管における排出時の快楽の変形だ、フロイトがこのように説明するところは僕も賛成します。で、加えて次のように云えるでしょう。そもそもV感覚が成立するのは、それより先にA感覚が存在していたからだ。けれどもいったんV感覚として派生し、独立すると、たちまちそこに安住し、対象化され、自身を覗く機能を喪失してしまう――

 自分を再発見するため、A感覚を研ぎ澄ませるのだ。V感覚は子宮によって限界づけられているが、A感覚は無底、オフリミッツだというのだ。たしかにそうだね、弁や門があるものの、われわれの消化器官は一本の長大な管にすぎないのだから。

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 A感覚への動機付けは、「お尻とその穴の文化史」で加速することができる。本書は、偏見と差別を受けてきたお尻について、医学的・歴史的観点から考察している。アヌスの機能にはじまり、浣腸やスパンキング、ソドミーの歴史が、豊富な図表とともに概説されている。同時に、お尻やアヌスに魅せられた人びとの芸術的成果が、古今東西関係なく紹介されている。肉体の最も秘められた部位に関する知見をもとに、古代からある命題「アヌスは性器か排泄器か?」について、あらためて考えると興味深い。著者の定義によると、こうなる。

アヌスとお尻は、想像力のあまりない人間にとってすら魅力的な場所であり、すこし大胆な人間にとっては、あたらしい喜びを与えてくれる謎めいた穴であり、さらに大胆な人間にとっては、タブーを破ることでなおさら刺激的になる性の香辛料なのである。

 好奇心の入り口であり、美の象徴であり、時には地獄の門としても扱われるお尻、そしてアヌス。液・固・気体を自動判別し、外界とのエアロック役を果たすアヌス。巧妙精緻なインタフェースであるアヌス。そんなアヌスに、親しみを感じられるようになるに違いない。

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 A感覚への親近感を理解へと進めてみよう。「アナル全書」は、うってつけの一冊であり、類書が存在しない唯一のスゴ本でもある。本書は、アナル・エリアとその機能についての自覚を深め、アヌスへの否定的な感情や、苦痛・緊張を緩和する、もしくは取り除くことを目的としている。

 そして本書は、たんに読まれるだけではなく、経験されるように書かれている。受け身で消費するためではなく、能動的な利用のために書かれている。各章を読み進めるごとに、読者は、自らのアナルを用いて、探求のプロセスをたどることになるのだ。

 そう、アヌスとは自分の体の一部であるにもかかわらず、「ないこと」「意識させないこと」として扱われている。意識に上るときは切羽詰った事態か、何らかのトラブルが発生したときである。日常会話からは注意深く取り除かれ、口に上るときはたいてい罵倒句(**s hole!、ケ○を舐めやがれ!)になる。

 著者はまず、自分のアヌスに注意を払い、観察することを提案する。そして、アナル部位を健康に保つため、食習慣、排泄習慣、メンタルトレーニング、一定のケアが必要だと説く。興味深いことに、アヌスの状態は、われわれの抑圧された感情を表しているのだという。自分ではケンカしていないつもりでも、自分のアヌスが硬く締まっていることに気づいた娘の例が面白い。この娘は著者のセミナーを受けて、自分のアヌスに気を配ることにより、抑え込んでいた緊張や怒りに気づいたという。

 つまり、自分のアヌスに注意することは、自分の感情に注意を払うこと一緒なのだ。さらに、自分のアヌスを健康に保つことは、そのまま即ち、自身の体を健康にすることになるのだ。

 25年かけて得られた知識と経験の裏づけはダテじゃない。ホモフォビア、性役割、病気、そしてタブーへの葛藤――著者は、薄皮を一枚また一枚とはぐように取り除いてゆく。アナルの健康を維持し、精神的な抑圧を取り除くことで、アナルを自己の認められた一部として再獲得できるというのだ。そして、自律的にコントロールできるようになれば、エロティックな目的にも応用できるという。本書を読むことは、疎外された身体未開地の探求、即ち究極のラスト・リゾートの旅となるに違いない

 女の尻から自分の尻へ。お尻を理解することは、自分を理解することなのだ。

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受信: 2009.07.08 15:44

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