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「マンガの創り方」はスゴ本

マンガの創り方

 『マンガの創り方』は、語り手のためのバイブル。

 ストーリーマンガ、特に短編を中心に解説しているが、マンガに限らない。小説やシナリオなど、あらゆるストーリーメーカーにとって有用だ。なぜなら、読者や観客といった「受け手」を楽しませるための秘訣があますところなく明かされているから。

 いわゆる、「マンガ入門」ではない。ネーム作ったら下書きしてペン入れして…といったイロハ本ではなく、「ストーリーの作り方」「ネームの作り方」に限定している。だから、本書の技術を習得することで、次のことが根源から分かる・使える。

  • 面白いストーリーとは何か、どうすれば「面白く」なるのか
  • 良い演出とは何か、どうやって身につければよいか
  • 素晴らしいクライマックスにするために、どうすればよいか

 何を面白い/良いと感じるかなんて、人それぞれ。だからそんなテクニックなんて無い――そんな意見もある。あるいは、先天的なセンスの問題だからと断定する方もいるかも。しかし、それは違うんだ。60点のストーリーを90点まで面白くする方法はあるし、「良い」演出をもたらすセンスを磨くトレーニングも紹介されている。

Pの悲劇

 しかも、徹底的に具体的だ。高橋留美子「Pの悲劇」と山本おさむ「UFOを見た日」の全頁を収録し、32ページの作品に200ページかけて解説する。マンガをブロック単位に分解し、そこで作者がどのように考え、どのようなテクニックを用いてマンガを面白くしていったかを解き明かす。おそらく、かなりの人たちが手さぐりでやってきた作業が、実践的な形を与えられている。

 自分が楽しんでいるとき、「なぜ面白いのか」「どこが良いと感じるのか」という視点は持たない。読み終えて振り返ってみても、その「面白さ」はうまく言語化できないもの。その面白さを論理的に種明かししてくれている。できあがったアウトプット(完成稿)から、そこへいたるネーム、箱書き、構成、ネタ逆算している。紆余曲折の過程で、効果的なテクニックを紹介し、どうやってそのマンガが面白くなっていったかをリコンパイルしてくれるのだ。

 するりと流しそうなコマにも、いちいち目を留め、伏線や繰り返しの効果を紹介する。目に留まっていなかったが、意識のどこかに潜り込んでいたイメージが想起されて、「ああっ」とうならされる。

 一番うならされたのは、3の法則。受け手に印象づけるために、同じパターンを3回くりかえせというのだ。小津安二郎監督「東京物語」を持ってきて、忘れもののシーンが3回あるという。観た方は「空気枕」や「日傘」というキーワードで出てくるだろう。それだけ印象づけに成功しているということ。で、同じテクニックが「Pの法則」でも展開されていることを指摘する。敵役が現れる直前は、バタバタしている主人公に「ピンポーン」というチャイムがおっかぶさるように鳴り響くというのだ。ええっと見直すと、確かにある。印象づいているというより、一種のパターンとして染み込んでいるのかも。

 演出とは何かについても、ズバリ答えている。演出とは、文字に書いたものを画にするときに出てくるもので、シナリオのないところに演出はありえないと断言する。簡単なやつなら「怒っている人の背に火を燃やす」が思いつくが、本書はプロ向け。複数のカットを組み合わせて意味を作る「モンタージュ」や、感情移入やメリハリを誘う「視点操作」、省略のための「カッティング」といった基本から、「音消し」「スローモーション」といった映画技術を拝借したものまで揃っている。

 では、どうやって身につけていけばいいのか。道具だけあっても、使い方や応用が利かなければ意味がない。マンガや映画をたくさん見れば、そんなセンスやワザが身につくのか。ここで目ウロコの学び方を教わった。ここが本書のスゴいところになる。

 つまりこうだ。「画が描いていないものを、最初に見ろ」というのだ。できあがった映画やマンガを見るだけでは、演出は分からない。だから、映画やマンガを見る前に、まずシナリオなりネームを読むことを強く勧めている。そして、画のない状態で自分がどれだけ考えつくか、やってみる。カメラはロングなのかバストアップなのか、キャラの配置や位置関係をどうするのか、どう動かし、どこでしゃべらせるのかを考え抜く。

 その後に、できあがった作品を見るのだ。自分が考えついたものと、実際に映画監督やマンガ家がやっていることを比べてみる。それが演出を見るということだという。比較すると、思いもよらなかったような画が必ずあるという。そこが「盗む」ところなんだろうね。反対に、映像が思い浮かべられないようなら、シナリオが弱い・悪いことになる。

 しかし、ネーム「だけ」原稿なんて、そうそう見当たらない。映画シナリオなら書店で売っているが、アシスタントでもない限り、目にすることもないだろう。それが、本書にあるのだ。著者が描いた「天上の弦」のネーム「だけ」があり、次ページには解答である完成原稿が続いている。読み手は最低限の状況説明とネームにいきなり対峙し、自分で画を考えてみる。その後、完成原稿と比べてみることができるのだ。ネームと完成作は微妙に違っているが、その差がどうして生じているかが、著者の思考をトレースしながら明かされている。そのキャラにそうしゃべらせる「理由」や、なぜそこがカットされたかが、リクツで分かるのだ。これはスゴい。

 これは画がともなっていなくても使える。マンガというフォーマットでなくても、応用できるのだ。つまり、キャラの会話の必然性や、状況描写の密度・粘度、話の運び方、省略の仕方、ダレさせない工夫がそのまま、小説なり脚本にあてはめることができる。

 もっとさかのぼって、プロットの転がし方や、アイディアの見つけ方も分かる。状況設定と登場人物が決まったら、それを自由に動かしていくことを「プロットを転がす」というそうな。プロットというのはどこからか「持ってくる」ものではなく、作ったり、発見していくものだという指摘には目ウロコ。何かを見ても、つい過去の何かと照らし合わせながら見て・読んでしまう自分が情けないね。


 プロットを転がすポイントは「動き」だそうな。登場人物を動かし、事件を起こし、「動き」を作ることが面白さにつながる。そのための技法として、対立を起こしたり、主人公を危機的状況に陥れたりしろという。テーゼとアンチテーゼ、主人公と敵役、因果や伏線などの技術が惜しみなく紹介されている。

 ここでの題材は、幸村誠のプラネテス「ささやかなる一服を星あかりのもとで」。読んだ方ならご存知だろうが、まさにこの「プロットが転がっていく」のを楽しむお話だ。加速する欲求とサスペンス&ドタバタが、ラストの解放感に直接つながっている。アイディアを出し、プロットに組み込む、逆にプロットからアイディアをひねり出す、その行き来の過程が詳説されている。未読の方は、本書と併せて読んでおくべし、傑作ですぞ。

 

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コメント

はじめまして。
いつも読ませていただいてます。
当方演劇に携わり劇作モドキをしている学生です。
『マンガの創り方』、とても興味を持ちました。
小説でも劇作なんでもそうなんですが、ぼんやりとした抽象的な技術論では『なるほど!』と腑に落ちず、なんとなく理解した気にはなるけれど実際身に付いているものが少ない、といったことがこれまで多かったので、こういったシナリオ、演出を具体的に製作過程とともに論じてくれている本は非常に有り難いです。

池袋ジュンクなど大きな書店なら扱っているでしょうか。
貧乏学生なので一度目を通してから購入に踏み切りたいものです。笑

投稿: 和久 | 2009.06.14 17:46

>>和久さん

「プロットを転がす」「アイディアを入れる」「演出とは」あたりが参考になるかと。本書は長らく絶版状態なので、大型書店でも扱っていないと思います。図書館なら確実でしょう。そろそろAmazonでは「せどらー」たちが暗躍しそうですね。

投稿: Dain | 2009.06.14 21:43

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