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やっぱり尻が好き「お尻とその穴の文化史」

お尻とその穴の文化史 女は、尻だ。

 もちろん、おっぱいも大切だ。そんなことはガッテン承知してる。しかし、おっぱいの谷底と、尻のあわいめ、どちらが見たい?と自ら質してみよう。結果は明白だ、おっぱいは尻の代替物なのだから。おっぱいの谷間から出てくるものは、色香や乳首にすぎない。いっぽう、お尻のあいだからは、糞尿だけでなく釈迦やキリスト、あなたやわたしも出てきたのだ。

 そんなお尻好きへの逸品が、これ。

 本書は、偏見と差別の仕打ちを受けてきたお尻とその穴について、医学的・歴史的観点から考察している。アヌスの機能にはじまり、浣腸やスパンキング、ソドミーの歴史が、豊富な図表とともに紹介されている。同時に、お尻やアヌスに魅せられた人びとの芸術的成果が、古今東西関係なく紹介されている。肉体の最も秘められた部位に関する知見をもとに、古代からある命題「アヌスは性器か排泄器か?」について、あらためて考えると興味深い。

 まず「お通じ」とは何かを、医学的見地から徹底的に解説する。人間の行為としての排泄を微に入り細をうがち説明する。回数、内容物、固形から液体、気体の分析から、成分、色、においを「まるで目の前で見ているかのように」示す。そして、「お通じ」を通じて人の健康状態を診る医師の歴史も詳らかにしてくれる。匂いや味(!)によって、病状を判断していたそうな。

 お通じの歴史は、浣腸の歴史につながる。主に器具を中心に、浣腸の歴史をオーバービューする。浣腸と洗浄剤は、肉体と魂を洗浄すると信じられてきたそうな。特に、中世~19世紀までは、浣腸の黄金時代ともいうべき時代で、紳士も淑女も、老いも若きも、病気になったら浣腸するのが日常だったという。ときには装飾品と見まごうほどの浣腸セットもあるが、なかでも一人でできる「セルフ浣腸キット」には瞠目した。無駄に豪華ナリ。

 好奇心を満たされるだけでなく、実用的な知識も得られるぞ。「正しい座薬の入れ方」なんて、まさにそれ。これまで、尖っているほうが「入れる方向」だと信じていたが、まったく逆だそうな。座薬は平らなほうから入れるのが正しい。そうすると、尖ったほうは直腸内で座薬を奥へ推進する役割を果たすそうな。腸管が狭まろうとする圧力が尖ったほうに働くため、平らかなほうが前に進むという原理らしい。

 あるいは、マリリン・モンローの死の真相は浣腸の事故であるという仮説は、大胆かつ説得力がある。死因となった毒物が消化管から見つかっておらず、飲み込んだ痕跡がなかったことや、大腸や直腸の状態が充血して紫色になっていたことから、クロラール浣腸の事故だと推察する。浣腸の失敗かぁ…マリリンおそるべし。

 さらに、ソドミー(アナル・セックス)の歴史が圧巻だ。キリスト教の最大のタブーなのだが、古代ギリシャやインド、中国、日本の例を挙げて、性的快楽の器官として愛されてきた歴史を振り返る。筆者に言わせると、アナルに対する性的な願望は、眺め、さわり、撫でさすり、つかみ、挿入したいという欲求にかわるという。そんな欲求が社会的・宗教的抑圧をくぐりぬけ、文化として花開くさまは涙ぐましいほど。

アヌスとお尻は、想像力のあまりない人間にとってすら魅力的な場所であり、すこし大胆な人間にとっては、あたらしい喜びを与えてくれる謎めいた穴であり、さらに大胆な人間にとっては、タブーを破ることでなおさら刺激的になる性の香辛料なのである。
 もう一歩進むと、尻はスカトロジーの殿堂になる。

 象徴としてのアヌスから、地獄の門としてのアヌスを紹介している。尻は刑罰の対象ともなっていたようだ。たとえば、真っ赤に焼けた鉄の棒を尻穴に押し入れる刑や、飢えさせたネズミを尻穴に押し込み、狂ったネズミの歯と爪で穴を押し広げさせて出血・ショック死させるものが紹介されている。読んでるこっちの尻がムズムズしてくること請合う。

 自分のモノなのに、あまり馴染みがないアヌス。液・固・気体を自動判別し、外界とのエアロック役を果たすアヌス。巧妙精緻なインタフェースであるアヌス。

 そんなアヌスに、親しみを感じられるようになる一冊。

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コメント

ひっじょーにくだらない突っ込みですみませんが、
釈迦が出てきたのはわき腹だったような気が。

スカトロジーには『ガルガンチュア物語』みたいに、他の倒錯とは違った、底抜けの明るさみたいなものがある気がします。

投稿: | 2009.05.13 23:53

>>名無しさん@2009.05.13 23:53

おおー!勉強になりました。
わきの下に白象が入り込んで懐妊したのは聞いたことがありますが、生まれ出たのもソコだったんですね。
確かにスカトロジーには、突き抜けた明るさがありますね。本書の図版にもそんな「おおらか」な雰囲気を垣間見ることができます。「ガルガンチュワ物語」は未読(のはず)なので、手にとってみますね。

投稿: Dain | 2009.05.14 23:44

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