はっきり言います、あなたのような生き方をしている限り、人生は千年あっても足りません。時間などいくらあったところで、間違った生き方をすればすぐに使い果たしてしまうものなのです
人生の原則本として扱ってもいいが、かなえられなかった人生へのレクイエムとして読むと、より魅力的な本になる。
「人生の短さについて」を読むと、ある気づきがもたらされるが、これを読もうとするような人は、遅かれ早かれ、自ら気づくに違いない。そのエッセンスはこうだ。
人は自分の時間を無駄遣いしている。自分が永遠に生きつづけるものと思い、他人のために使っている、今日という一日が、最後の一日かもしれないことを、忘れてしまっている。
死を免れないものとして、何もかもを恐れながら、そのくせ不死の存在であるかのように、何もかもを手に入れようと望んでいる。追い立てられるように毎日を過ごし、病にかかったかのように、未来を切望し、現在に辟易としている。
未来に確実なものなど、何もない。今、ここを生きようとしなさい!
セネカに言わせると、「人生は短い」とは大嘘だそうな。人生が短いと言うものは、与えられた時間の大半を無駄にしているにすぎないという。人の一生の短さを嘆くアリストテレスをひきあいに出して、「賢者にはとうてい似合わぬ」とバッサリ斬っている。
では、どんな「無駄」をしているのかというと、これまた容赦ない。
- 無意味な仕事にあくせくするもの
- 酒や怠惰な生き方に溺れるもの
- 上司にこびへつらって疲弊するもの
- 誰かに評価されることに血道を上げるもの
- 拝金主義に突き動かされ、儲けのために走り回るもの
- 自分が傷つけたくないばかりに、戦いの衝動にとりつかれるもの
いいや、違う、そんなことは「無駄」じゃない。富や権力を求め、才能を伸ばすことこそ、「人生を生きる」ことだと信じる人に対して、セネカは神皇アウグストゥスを持ってくる。この初代ローマ皇帝の一番の願い――国務から解放され、悠々自適の毎日を送りたい――を指摘し、激務の毎日や栄華への犠牲に注目する。「そんな人生、ホントにいいの?」と、大きな疑問符をつける。
事業や仕事に打ち込む者を無駄だと断じ、芸術や趣味に生きるものを人生の浪費だとこきおろす。そのくせ、「悠々自適な人生」とは何か、なかなか示そうとしない。後に、「悠々自適=哲学」だと主張し、それ以外を無意味だと貶める。「自分の人生を自分のために使おう」というメッセージは共感できるが、そのためにあらゆる他者を批判するやりかたは、「最近の○○はなっとらん」と同じ臭いがするぞ。
では、著者セネカ自身は、どんな人生だったのかというと、疾風怒濤がお似合いの人生だったそうな。
セネカは裕福な騎士階級に生まれ、三十代で財務官の職を得、元老院議員になる(当時の出世コース)。トントン拍子もつかの間、宮廷内の陰謀に巻き込まれてコルシカ島へ追放される。八年間の流刑地生活後、ローマに戻り、法務官に選出され、公職の頂点である執政官まで上り詰める。
さらに、暴君ネロのバックボーンとして活躍するが、横領の罪で告発され、皇帝暗殺未遂の咎で自殺を命ぜられる。最初は毒人参を飲んだが死に切れなかったため、風呂場で静脈を開いて死に至ったという。
「人生の短さについて」は、政界から退いた晩年に書かれたものだが、そこでは、まさに彼が選んできた「生きかた」そのものが批判されている。「自らをもって経験してきたことだから、信用できる」と言えるかもしれない。しかし、そのワリには、自らの体験が述べられてない。批判する材料を他人に求め、「わたしの人生」は、本書を読む限り、一切述べられていない。まだ、「わたしは後悔している」と正直に告白するほうが反面教師になるのだが、最後まで「いいこ」でいようとしているのがあざとい。
本書はいわゆる「古典・名著」の類なので、分かったような口をきくことはたやすい。しかし、せっかくだから、著者の背景から照射してみよう。わたしは、「ローマ人の物語 悪名高き皇帝たち」が参考になった。
はっきり言います、あなたのような生き方をしている限り、人生は千年あっても足りません。時間などいくらあったところで、間違った生き方をすればすぐに使い果たしてしまうものなのですこの言葉は、セネカが自らに投げかけた言葉だと読むと興味深い。裏返しに読むと、かなえられなかった人生への、強烈な嫉妬心に満ちていることがわかる。すでに手遅れとなった人生への呪詛を、社会批判にすり替えた鎮魂歌なのかもしれない。そんな彼には、いささか使い古されてはいるものの、この言葉を贈りたい。
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( ´∀`) オマエモナー
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コメント
新年初笑いをありがとう!(笑)
投稿: ひろし | 2018.01.02 23:32
>>ひろしさん
わざわざコメントありがとうございます!
初笑いのお役に立ててうれしいです。
投稿: Dain | 2018.01.06 08:04