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人体売買の告発書「ボディショッピング」

もぎたてフレッシュ!角膜  $30,000
つみたてフレッシュ!肝臓  $130,000
とれたてフレッシュ!心臓  $150,000
あなたの生命          priceless

 人の臓器や細胞、組織が売買されている。

ボディショッピング 赤ん坊から遺骨まで、あらゆる人体組織が商業目的で用いられている。肉体の商品化とマーケットの実体を明らかにしたレポートをいくつか読んできたが、本書は類書と明確に一線を引いている。大勢が賛成もしくは条件付き容認している一方で、本書は明確に反対の立場をとっている。すなわち、遺伝子や体内組織を加工し、販売して利益を得ることについて、警告し、抵抗することを目的としている。

 たとえば、精子バンクと卵子バンク。別々に精子と卵子が選ばれてきたものを、まとめて選べるようになっただけだから、新たな倫理的問題が発生するわけではないという主張がある。これを、ワンストップショッピングだと断じ、赤ん坊を露骨にカネで買うことだとバッサリ。

 あるいは、卵子を売ることで生計を立てる女たちは、献血をするのと同じ感覚で、提供したあとは忘れてしまうと非難し、「単純に、預金や株式などの財産と同じように考えていいのだろうか?」と疑問を投げかける。

ビューティー・ジャンキー また、「ビューティージャンキー」[レビュー]を例に挙げ、美容整形手術の行き着く先は、「新しい顔を買う」行為だとする。「ほんとうの私」を取り戻すための自分探しはどこまで追及されるのかと疑問を呈し、フランスの顔面移植手術を非難する。化粧品を買うようにフェイスショッピングできるようになるのも時間の問題だという。

 提示される金額はどうであれ、人体組織の売買は搾取だと言い切る。それは、人間をモノとして扱い、人間の尊厳を傷つけることだと主張する。遺伝子が特許化され、卵子が「収穫され」、さい帯血が「バンクに保管され」ている昨今に、それらに対する違和感は見過ごされているそうな。

 しかし、「反対」という立場は分かるのだが、その理由が伝わってこない。あるいは、どこまで反対なのかも分からない。たとえば献血。売血は批判しているものの、自己犠牲を動機とした献血は否定しない。では献血の見返りに、ちょっとしたドリンクやお菓子が渡されたら?透析のリスクを免れるため、腎臓の提供を求めることは、「人間の尊厳を傷つける」ことになるのだろうか?子どもがほしい夫婦の不妊治療は「悪」なのか?――疑問点は出てくるが、本書では論点の対決を回避している。

 おそらく、議論のトリガーとして「こういう事例がありますよ」という立場なのだろう。リスクに注目させ、非人道的扱いを指摘し、違和感を掻きたてるだけで目的達成としており、読み手はフラストレーションに陥る。現実と(書き手の)理想のギャップは分かった、じゃぁどうする?がないのだ。高らかに告発する「No!」は聞こえても、前提や範囲が見えない。

 こうした議論に入る前に、わたしは「もし自分の身に降りかかったら…」と考えてしまう。人間の尊厳は守られるべきだが、それはわたしのいかなる部位にも宿っているのだろうか?といった観念論から、自分が透析に苦しむようになったら、光を失ったらといった仮定の話、さらには、自分ならまだしも、わが子の命ならどうする――といった極端な想像までしてみる。

闇の子供たち もちろんわたしが想像するぐらいだから、既に誰かが書いている。強烈なやつは「闇の子供たち」[レビュー]。類書では華麗にスルーされている臓器闇市場が、たとえフィクションの形でも、ありありと描かれているのが生々しい。

  日本人母「息子の心臓病のドナーを待ってられない」
  ↓
  ブローカー「4,000万でいかがっすかぁ」
  ↓
  NGO職員「生きた子から心臓を移植することになるッ」
  ↓
  日本人母「ウチの息子に死ねというのですかッ」

 ステレオタイプなキャラが青年の主張をする後半があざといが、上記のやりとりは、お話の中とはいえ、想像したくないもの。同じ境遇に立たされた場合、ためらうことなくわたしはこうした行動を取るだろうか。

中国臓器市場 より現実に即したルポルタージュなら、「中国臓器市場」[レビュー]が白眉。「早い・安い・上手い」のどこかの牛丼屋のようなキャッチコピーがぴったりなのは、いわゆる「死刑囚ドナー」のおかげだ。交通事故など不慮の死によって、突発的にもたらされるドナーに頼っている某国とかなり違う。「人道的」や「人間の尊厳」に目をつぶれば、こんなメリットが挙げられる。


  • 若くて健康な臓器が用意できる
  • 事前検査を行うため、肝炎やエイズウィルスなどの感染を防止できる
  • 死刑執行の日時や場所が事前にわかるため、摘出直後の移植が可能
  • 死刑は毎年大量に執行されるため、ドナーが途切れることがない

 「死刑囚ドナー」という仕組みそのものが大量供給を可能としており、その結果、新鮮な臓器を必要なタイミング(ジャスト・イン・タイム)で供することができる。死刑囚の家族には謝礼が渡され、病院は良い外貨稼ぎになり、(カネ持っている)患者は待たずに移植が受けられる。その是非は議論されていないが、こうした「市場」が存在することは事実。

ベビービジネス 赤ちゃん売買も盛んだ。「ベビービジネス」[レビュー]によると、金に糸目をつけず、子を切実に求める需要がある限り、そして、それを供給できる医療技術やサービスがある限り、市場は成立するという。肌・目・髪の色や遺伝特質を予めセットアップされた、「デザイナーベビー」 や、遺伝的に劣位な胚を除外する生殖補助サービスを見ていると、人間はどんなことまでもやれてしまうものなのだということを思い知らされる。

 既成事実は、わたしの想像の先を行っている。

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コメント

はじめまして。

ブログはまだはじめたばかりなのですが、今日、
Yahoo!経由で、こちらを知りました。

噂には聞いていましたが、人体(臓器)の売買、
すさまじいことになっているんですね。
現実問題として、「どこまでなら」という
線引きができない以上、賛成はできないですね。
(本人の同意&死後は例外かもしれませんが。)

結局のところ、自分のDNAで目的の組織を
つくれるようにならない限り、解決しない
問題のように思いますが、個人的には、
その方向に注力することが糸口になるのでは
ないかと思えます。

鷹司堂後 v(^^)

投稿: 鷹司堂後 | 2009.04.16 14:16

>>鷹司堂後さん

技術での解決は、難しいかもしれません。

もちろん倫理面での問題もありますが、カネという厄介な代物がついてまわるので。人体組織・臓器の売買から一歩はなれ、美容整形の視点から見ると如実です(ビューティー・ジャンキー)。例えば、ヒアルロン酸の注入。安全性と安上がりはトレードオフであることが、本書を読むと分かります。

投稿: Dain | 2009.04.17 06:58

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