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机上から見える仕事ぶり・人となり「机」

机 人ん家の「机」がおもしろい。

 尖った仕事をする人となりは、その机に出てくるのだろうか。漫画家や建築家、プラネタリウムクリエイターやロボットデザイナーといった、クリエイティブの現場で活躍している13人の「机まわり」が紹介されている。

   浦沢直樹(漫画家)
   大平貴之(プラネタリウムクリエイター)
   松井龍哉(ロボットデザイナー)
   鈴木成一(ブックデザイナー)
   ひびのこづえ(コスチュームアーティスト)
   宮沢章夫(劇作家)
   箭内道彦(クリエイティブディレクター)
   寄藤文平(イラストレーター)
   中村好文(建築家)
   四谷シモン(人形作家)
   成沢匡史(ルアービルダー)
   長谷川弘(自転車店主)
   小林紀晴(写真家)

 タイトルは「机」であるけれど、ポイントは机に限定されないところ。もちろん机上の道具がクッキリ分かるように撮られているものの、むしろ、周囲の書架や袖机、作業台や資材を含めて写すことで、「たたずまい」・「雰囲気」が伝わってくる。

 椅子や小道具にこだわる人もいれば、「平らなスペースさえあれば、どこでもいい」という人もいる。共通しているのは、道具を使い尽くしているところ。特注のアルミ家具からコンビニで手に入る「ぺんてるHybrid」、使い込まれて変色したHappy Hacking Keybordまで、値段云々ではない道具に対する「敬意」のようなものが垣間見える。

 写真に挟まれたインタビューには、発想が詰まっている。

 たとえば、浦沢直樹の「マンガへのこだわり(のなさ)」は、逆説的に見えて、けっこう真理を衝いている。「パイナップルARMY」の泥臭さが好きで、最近の「見透かしやすい」作品がちょっと残念なわたしには、ちょっと衝撃だった。

漫画はやっぱりポップカルチャーなので、いかにお手軽にじゃんじゃん出すかですね。作ってるほうはお手軽じゃないんですけどね(笑)。三日かけた絵を三秒で見終わらせるっていうのが漫画の肝というか、その儚さがいいんですよ。いい絵を描けば描くほど、パラッとめくられていきますからね。
 消費財としてマンガを見てしまうのは一種の冒涜かもしれない。だが、確かにわたしは連載中の「BILLY BAT」を「パラッと」めくっている。極端な話、いちいちセリフを"読ま"なくても話が追えてしまう。これは問題なのか美点なのか分からないが、そういう「いい絵」なんだろう。

 あるいは、箭内道彦のシンプルさがすごい。「きっかけは、フジテレビ」 などで有名なクリエイティブディレクターなのだが、「シロウトは決してマネしないでください」級の思い切りのよさ。アイディアの扱い方は、こんなカンジになる。


  • メモするな、メモするとそこで止まる
  • 机がないほうが面白い、平らなところが机になる
  • 自席そのものが要らない
  • 手帳もつな。手帳にどんな文字でどんな大きさで書くかが気になってしまうから(脳がクリエイティブでなくなる)
  • 忘れるぐらいなら、そういうレベルのこと
  • アイディアは頭の中にぶら下げておけ
  • アイディアは頭の中に漂わせておけ
  • アイディアは頭の中に流しておけ

 未成形の段階でメモすることで、自分を「固定」させることを恐れる。むしろ、「もたない」こと、「ナマの状態」を受け入れることが強みになっているのかも。ちょっとマネできないが、「頭の中(だけ)にぶら下げておく」アイディアは、もっている。インタビューでは、「ぶら下がっているアイディア」をどうやって外へ出すのかは明らかにされていなかったが、そのうち公開されるだろう。

 他にも、ひびのこづえのノート術がユニーク。彼女はノートを「真ん中から使う」そうだ。両サイドに描き進めることができるからというのが理由だが、そうすることでアイディアは、一方向から二方向になる。また、小ネタながら「色付きレポート用紙」の意味を初めて知った。黄色やピンクのレポート用紙は、「下書き」という意味。白い紙に書く「清書」したものと区別するためで、アメリカ人の知恵なんだそうな。

本棚2 本書をつくったのは、ヒヨコ舎。なかなか面白い切り口を用意しており、知性のプロファイルともいうべき著名人の「本棚」の写真集を出している。わたしのレビューは、以下の通り。

  「本棚」を覗く快楽
  この本棚がスゴい「本棚2」「本棚三昧」

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コメント

訪問させていただきました。

とってもいいブログですね。

感心しちゃいました。

参考にさせていただきます。

また来ますね。


もしよろしければ、私のブログなんかの訪問もお願いします。

ショッピング一番

http://fanblogs.jp/hougan/

投稿: ケメコ | 2009.04.13 22:20

読まさせていただきました。私は自転車店店主のランドナーの話で、自転車にもいろいろな種類があることをはじめて知りました。他にも興味深い話ばかりですね。
あと1カ所「そうすことでアイディアは」の部分は「そうすることで」のまちがいではないかと思いましたので、よろしければご確認を。

投稿: ぺーすケ | 2009.04.17 17:28

>>ぺーすケさん

自転車店主のコメントでは、「執筆のための場所が、仕事場のデスクとは別に必要」というのが印象的でした。たしかに発想を定着させるためには、専用の場が必要ですね。
誤りの指摘、ありがとうございます、修正しておきます。

投稿: Dain | 2009.04.20 00:30

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