「自分を信じろ、好きを貫け」と160年前に言った人
それは、ラルフ・ウォルドー・エマソン。ソローやニーチェ、宮沢賢治や福沢諭吉などに影響を与えた哲人で、その第一級の論文「自己信頼」の新訳版を読んだ。
これは自己啓発の原本・原液。今でもコピペされることもちょくちょくあるので、皆さんの目にとまることもあるかと。自己啓発好きなら、全ての行に強烈に反応するだろう。言い換えるなら、これが祖にして極意なので、本書をマスターすれば、コピペ本は要らなくなる。
たしかに、D.カーネギー「道は開ける」や、S.コヴィー「7つの習慣」を思い起こすような一節もあったが、本書はもっとシンプルだ。そのキモはこれに尽きる――自己信頼(Self-Reliance)。自分の考えを徹底的に信じて、付和雷同せず、自己をよりどころとして生きろ、というのだ。
さらに、社会が規定する「善」や「良識」といった名目に惑わされるな、と説く。それがほんとうに「善」かどうかを【自分で】探求し、内なる声に従えという。善や悪は単なる呼び名にすぎず、簡単に他の言葉と置き換えられる。正しいものは、自分の性質に即したものだけであり、悪いものは自分の性質に反したものだと断定する――淡々粛々としたアジテートに、読み手はヒートアップするかもしれない(書き手はいたって冷静)。
そして、自己信頼から遠ざける原因として、一貫性への強迫観念を指摘する。過去の自分の行動に縛られ、今の自分の自由な立場を放棄するのは愚の骨頂だと。分別ぅ?なにそれ?オフィシャルでの言動に囚われ、記憶の屍を引きずり回すようなことをするなという。矛盾を恐れるな、常に現在の視点から検証し、日々あたらしい一日を生きよという激励は、読み手に向かっているというよりも、エマーソン自身のためのメッセージなのだろう。
ただ、彼の主張を推し進めると、「この本そのものも捨てよ」になる。読むのは自由だが、それに囚われるな、自分の内なる声こそが神聖なのだから、となる。凡百の「成功本」は本書のコピペであったとしても、この本質まで透徹したものは、ほとんどない。100冊の成功本を読んで悦に入っているより、1冊の本書に背中を押されてみるがいい。
人生に、突破口を。

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コメント
この書評を読んだとき、頭に一人の男が浮かんだ。
「お前が信じる、お前を信じろ」
つまりは、そういうことである。
投稿: hage | 2009.03.05 15:14